Log 38:禍福の境界線
◆◆◆
ただ、禍福は絡み合う。
誠はまだ知らない。
店の前に並ぶ客。
初めて掴みかけた成功。
その全てに目を奪われていた。
だから気づかなかった。
遠くに止まった黒い車に。
◆◆◆
ーあぁ?このガキが。お前も大概だぞ!俺が、一体どれだけの苦しみを抱えてるか!わかってんのか!
ーお前は違うと思ってたんだけどな…。
ーお前は天才だろ。
なのになぜできない?
ー聞いてんのかよ、おい!!!
はっと、目を開けた。
昼休憩。
僕はぼーっとしていた。
片手にスマホ、もう片手に昼ごはんのパン。
午前中は…どうだったっけ。
忘れちまったけど、大繁盛だった気がする。
あ、カウント計で数えてた。
2時間で…、うん。324人。悪くない。
ってか324って18^2だな。
いやそんなのどうでもいい。
…。はぁ。変な夢見た。
精算しとくか。
「父さん…。僕はちゃんとやってる。安心して。もう、あなたのようになることはない。僕はやり遂げます。だから、どうか許してください。」
独り言は誰にも聞かれてないはず。
っさ、戻ろう!
店舗内に戻った僕は、その光景に唖然とする。
ごったがいする人混みが、あまりに多かったから。
「すげ、大繁盛してるよ。これなら在庫全部売り切れるかもしれないぜ?」
逸脱した期待というのは、まさに儚いもの。
だから僕は、期待を消しているつもりだった。
「ひひっ!」
でも、こいつらのガキみたいな笑顔を見てるとさ、
せざるを得ない。
僕の意思じゃなく、こいつらのせいで、ね。
「だな。僕の戦略がハマったかな?」
「くっそ、認めざるを得ねぇ。」
「不満なのかよ!」
そんな会話を繰り広げていると、
後ろから雫の声がかかった。
「まこっち、学割の件なんだけど…。」
そうだったな。
午後からは学割プランを取り入れて、学生の客足を確保する。
近くの高校がテスト期間で、学校が半日らしいからな。
しかし、店内のフードコート的なところはそんなに広いわけじゃない。午後はもっと人が多くなる。
「あぁ、忘れてた。…でも、そのどこに人入れるかだな。」
すると、雫が妙案を出した。
「それ、それなんだけどさ、隣のお店の店長さんがね?
うちと共同にしないかって。
隣のお店は庭が広いから、そこにフードコートを作る。
私たちはそこでも宣伝する。」
そんなに急に言われても、無理に決まってるだろ。
共同となると、もちろん段取りがいる。
それが急となると、かなり難しいな。
まぁその人が言いたいのは
僕たちがそっちに行って宣伝してくれたら、
うちの庭を使わせてやるよと。
僕たちのハヅウィンをダシのように扱うとは、
なかなか度胸がある。
「んだよそれは。今日の営業は何時までだったっけか?それにもよるよな。」
「うん、さっき沙羅ママに確認したら、限界で5時って言ってたかな。」
ただいまの時刻、13:56。
なら、シフトを作ってやるしかないな。
「わかった。それを飲もう。」
正直上から目線でムカついてた。
だからこっちも条件を突きつけてやる。
「ただし、宣伝に行く人は1時間づつ順番に回す。14:00からが篤と雄志、15:00からが沙羅と雫。16:00から僕が行ってくる。」
こんなもんしか、この状況下での段取りはない。
実際スペースが足りてないのは事実だし、
隣の店なら客も流しやすい。
「最後ぐらいお前らで回せるだろ。」
その言葉を最後に、
僕はそのお隣さんとやらに会いに行くことにした。
「雫、その人と直接交渉する。」
「わかった、なら裏口の方にいる!…まこっち、びっくりは…しないでね。」
返事はせず、ただ手を振って裏口に走る。
言葉の意味も特に考えず。
この時の僕は、かなりみなぎっていた。
それもこれも全部、あの悪夢のせいかもしれない。
「あ、初めまして!」
…どうやら、そうじゃないらしい。
そこにいたのは、男だった。
ただし、2人いた。
一人は年老いた老人。
もう一人は見覚えしかない。
この前、僕たちを追い払った男だ。
サングラスの方じゃなくて、
その囲いのような人。
…ああ、その率直に言えば借金取りの一味だ。




