Log 37:一縷を超えて
10/31 8:30
運命なのか否か。
この日はなんと、土曜日なのだ。
「しゃっ、全員来たな!」
「マジでやる気しかない!」
僕たちはもちろん集まって、ハヅウィンを成功させんとする。
「あれ、ゆーちんのコスはなに?」
「狼男…っ!がおぉぉぉ!ってな!」
「…一旦黙れ。」
あれからの3日、何もしないわけじゃない。
客を引くための編集に、一体何時間使っただろう。
それも全部、今この瞬間の会話で精算されていく。
この笑顔のために、僕は頑張ったんだな。
…こんな生産性のないこと、もうこれっきりだ。
「ひっど、…ってか誠はなんか着ないの?」
「あ…うーん…まあ考えとくさ。」
…まぁそこまで大それたものは持って来てないしな…。
本題に戻ろう。
僕たちの強みである居場所としての沙羅の店。
そして、圧倒的な映えを演出する編集。
過去一僕は疲労が溜まっていた。
それに比例して、このイベントへの期待が膨らんでいる。
これを持ってさえすれば、きっと僕たちにもできる。
「そーいや、動画の方はまだ伸びてんのか?」
「いや僕もまだ信じてないんだけど、伸び続けてる。」
ちなみに、後日から投稿した三本の動画。
なんと…、全てが100万を上回った。
正直、マジですごいと思う。
僕の編集技術もそうだが、相当こいつらに魅力があったんだろう。普通あり得ない、そうとしか思えない出来事ができてる。
『いやまって近くなんだけど行こうかなwww』
『編集まじで高校生かよ、こんなん行くしかないわ』
『結構ガチでおもろそうで草』
『いいとしこいたおっさんワイ、今感激してるンゴねぇ…』
SNSに届く全ては、僕たちの糧となってそこにある。
応援してくれる人のために、僕たちは成功せなきゃならない。
…そうそう、今月の異常なほどに膨らんだ在庫があっただろ?
あれ、売り切れるわけもなくまだ残ってる。
あれを、とにかく売り切る。
そうすれば、
家賃と経費と仕入れを合算して20万の利潤を得られる計算だ。
ホームページのほうも、好評のコメばかり。
星も4.65で耐えてる。
「すっげ、SNS作戦大成功じゃね?」
篤の言う通りだな。
こいつの案がなけりゃ、僕たちは何もできてない気がする。
「よーし、オープンまであと1時間半、準備するぞ!」
今日のオープンは10:00。
映えスポットの設営、駐車場の案内、ハッシュタグの作成。
やることはたくさんある。
9:00
「誠くんこんなのどう?」
沙羅は映えスポット設営係。
各々に作って来たグッツを、僕のわからない『流行』と言う名の非効率を駆使してやってくれている。
僕はもちろん現場監督だ。
沙羅ママや沙羅パパ、近所の人たちまで手伝ってくれている。
その様子、篤に撮影を依頼している。
これをバックのスピンオフとしてSNSにあげれば、
さらなる顧客も期待できる。
「沙羅がいいと思うなら、僕はいいと思う。」
「そーだね、ありがと!監督助かるよ…ほんと。」
まぁ、こいつらのことだからな。
僕がいなけりゃ意見がまとまらないのは必然のこと。
「おい誠、外の設営終わったぞー。」
体力が一番多い雄志には、外作業を任せている。
「おけ、今行くから待て。」
雫はと言うと、とにかく在庫から商品を運んでもらい、地域の方と一緒に商品棚に陳列させている。
値段設定も僕が考えたから、もう完璧以外の何者でもない。
「雫、それ終わったら外来て。」
「ほいよー。」
「これとこれをそこに置いて、並び列の調整!」
「なぁ誠?」
今日はやたらに暑い、動いているからだろうか。
照りつける太陽が陽炎を生み出して、それが輝く。
そんなこととリンクするように、
話している雄志の朝も煌びやかだ。
「ん?」
「本当に…くるのか?」
それは僕だって心配。
飴作り体験、僕たちとのトーク、在庫発掘祭。
以前出たようなアイディアは今日に全て結集している。
これで人が来ないなら、もう手は残ってない。
だからこそ、僕たちは怖いのだろう。
「来るか来ないか、でいいの?」
返答に困っていると、後ろから声がした。
雫だった。
「まーじでさ、なんでまこっちたちはマイナス思考なのよ。」
沙羅のコスはキョンシーだ。
キャラ設定とは真逆の言葉に、まあ少し困惑する。
でも、雫の目は曇っていない。
「来るかじゃなくて、どれだけ来るか。それでいいじゃん。もし来なかったら、センスなさすぎーっ!って笑い飛ばそ?」
…そうだったな。
こいつ、なかなかにバカだった。
「おめぇ、現実見ろって、こんなに人が…」
「まあまあ雄志、後のことなんて考えんな。僕がいる、安心しろ。」
こんな言葉、一回も言ったことないのに。
スラスラ出てくる。
「お前が駅前にでも行って、呼び込みして来い。心配ならその目で人を見てくるのが一番早い。」
そんなこんなで、僕たちは着々と準備を進めた。
きっと、見つけてくれる人がいる。
一縷の希望を胸に抱え…いや、一縷じゃない。
確信してたよ、僕たちならできるってさ。
わかりやすくしておこう、この店にある在庫を全部売り切れば、利潤は20万をゆうに超える。
人足が増え、時刻は9:59を指した。
さて…。
沙羅の強張る顔、沙羅ママと沙羅パパの心配そうな視線。
ご近所さんの温かい声。
そして篤たちの淡い笑顔。
何よりも、胸を張った僕がここにいる。
さぁ、今。
扉を開ける。
僕にその役目は任された。
どれだけの人がなだれ込むのかは知らない。
誰も来ないかもしれない。
手が、震えた。
こんな非効率な遠回り、再現性もクソもない指定校への道。
自分がそれを歩んでいるからわかる。
これは失敗できないぞ。
「…っ。」
目を瞑った瞬間、後ろから手が伸びた。
この手の温もりは、沙羅に相違ない。
「な、なに。」
「なんで誠くんが震えてんの?マジ笑える。」
感情の凹凸があまりなく、声の抑揚も起伏も感じない。
そんなに無機質でも、嬉しいんだろうとわかる声だった。
「うるせーな、黙れよ…。」
柔らかくだ。柔らかくそう言った。
「一番心配なのとか、私に決まってる。誠くんの感情を推し量るのも失礼だからあんまり言わないけど…」
僕はなにも感じない、怖くなんて…ない。
「ありがと。」
何かが晴れた気がする。
たった一言、されど一言。
こんなことで人は変わらないって?
ああそうだ。
変わらなくていい。
僕は僕に自信を持てばいい。
よし。開けよう。
「…い、いらっしゃ…」
「いらっしゃいませ〜!!!!!」
僕の声なんていらなかったのかもな。
沙羅が全てを掻っ攫った。
ざっと、店舗前には50人くらい並んでいるだろうか。
今日の営業は遅くまでやるつもりだし、
開凸勢でこれなら及第点。
「す、すご、こんなにうちの店の前に…!」
沙羅ママの声がした。
先頭に並んでいた男性が、お辞儀をして店内に入る。
それに続いて次のメガネの女性、その子供。
その時、もう僕からさっきまでの思考は流れていなかった。




