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生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
社会貢献プロジェクト:翳り編
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35/50

Log 35:剥落するペルソナ

「…っ!!!投稿、したぞぉぉぉ!」


その声が聞こえたと同時に、普段喋らない沙羅、いつも大きい声は出さない雫、そしていつになくうるせぇ雄志の声が聞こえる。


「ふぅぅぅ!」

「やったねぇついに!!!」

「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


そして僕も、声を荒げたかったところだが。

寸前まで行って、僕の中の抑止力が堰き止めた。


はしたない。非効率。無駄なエネルギーだ。


「僕も、公開した。リンク貼っとくから送って。」


冷たく接しろ。

僕は如月誠なんだから。


「わかったぜ!俺が送っといてやる!」

「…ってか、サムネはどうしたんだよ?」

「?もちろん俺のメイド服姿だけど?」

「うぇ、あっつんのサムネとか見る気失せる〜。」

「ざっけんなよ!?」


声にならない声っていうのかな、

ぷふっ、って感じの笑い。

データはあれど、僕はそんな声出したことなかったんだけどな。


この時ばかりは、

みんなよりも0.5秒くらいフライングで笑っちゃった。


「おーい誠も笑いやがって!お前らなんだからな、俺にメイド服着せたのは!滑っても知らないっ!」

「いや、あっつんノリノリできてたじゃんw」

「そもそも文化祭で着てるだろ!」

「いやたしかにね?」


雄志と雫が囃し立て、周りが笑った。


いつもと変わらない、ただの日常。

なのに何か胸騒ぎがするんだ。


ショート動画の動画も、毎日投稿で1ヶ月ほど耐えられるストックがある。

もちろん全部編集したわけじゃないけどさ、

こうなってくると、ある事実が浮上する。


いく必要が、特に無くなるのだ。

全部学校で完結する。


…なんだろね、ちょい寂しい。


「…で、さ。」


そんなことを思い馳せていると、

低い声で雄志が語り出す。


「…次集まる日さ、どうするよ。」


まさに、僕が言おうとしていたこと。

一番触れたくない部分だ。


「え…っと、そうだな…。みんなの負担も考えてさ、必要最低限にするか?」


篤がそういう。


それが一番効率的だ。

僕は最近勉強をあまりしてない。


しても一日4時間。全然足りてない。


「…そう…だね。…でも、学校では会えるじゃん?」

「だな。」


僕は一言も発さない。


こいつらに任せてみる。


「…拡散とかは絶対しろよ。あと!通話はやるんだからな!」


その言葉を最後に、10秒の沈黙が流れる。

秒針の音だけが、僕たちの世界を刻んでる。


これに意味はあるのか、生産的なのか。


僕はプロジェクトに参加する時、自分にそう問った。


正直もう僕にはわからないよ。

僕は満ちたりない。

僕が生きて来た世界に、こんな気分は存在しなかった。


だからね、信じることしかできないって思う。


ずっっっと、ずっと最近ぼやけてた部分。

それが確定した。


「…あのさ、僕はこのプロジェクトに加担したからには、絶対成功させる。お前ら、気を引き締めろよ。足引っ張るな。」


僕は、やりたいんだ。これを。


「…おう。」


その同意の声が、一体どれだけ僕の心を沈めたか。


「まこっちがそこまで言うなら、私だって頑張る!」


いや僕がなんと言おうとがんばれよそこは。


「…なら、誠もメイド服着ないとな。」

「だからいつまで擦ってんだよ!」

「みんな私の店のために争わないでっ!」

「たまれ!」


口角が上がりかけた、そんな時。


「…うるさいわよ。ねぇ。」


背筋が凍るって、こういうことなんだって。


母さんはさ、怖いんだよ。


「あなた…調子乗るんじゃないわよ。」


僕は調子に乗ってない、何もわかってねぇなクソババア。

そう、言いたかった。


気にせず言えていたその言葉。

母さんの死んだような目を見ると、それが言えない。


「あなたは何も成せない。ただ天才と自称して、それを超えていくだけ。あなたには何もできない。」


ふざけんなよ。

僕は…確かに僕には何もできないかもだけど。

僕じゃないやつらは、僕とは違う。


僕にないものを、確かに持ってるんだって。


それは僕がずっと見て来たこと。


立ち上がって、睨みつけた。


「だからお願い。早く寝なさい。私の邪魔。」


大声でも出してやろうと、大きく息を吸った刹那だった。


「父さんみたいになるわよ。」


確かにそれは…そう。


ずるいだろ。これは。


親の狡猾さ、そして狷介さ。

僕が狷介な訳を、頭を殴られたように理解した。


———僕は、静かに通話を切った。


「あなたはね…。ある意味、とてつもないバカなのよ。」


ここで、僕は臨界点に達した。


「黙れ!」


低くても、比較的大きい声で。


かつ唇を噛みながら。


「なら…そんなに父さんを思うなら、殺せばいいだろ!」


人は、極論を言われると後ろに退く。

誰かを言い負かしたり、譲れない時。

飛躍論理を使えばいいのだ。


僕っぽくはない、でもそんなの今は関係なかった。


「産まなきゃ…産まなきゃいい!」


母さんは黙った。


はっ、僕の方が、一枚上手なんだ。


「そうね…。」


…なに…を…言い返す?


「そうね!!!おろせばよかったわ!あなたなんて!」


…っ!…そんなの…言っちゃダメだろ…?


「…寝る。」

「そうすればいいわ!」


はぁ…この会話、あいつらに聞かれなくてよかった。


そしていつも通り、僕は電源を切って眠りについた。




◆◆◆




「…な、なんだ今の?」


誠は気づくはずもない。


通話は、抜かれていなかった。

誠が電源を切ったことにより、彼のスマホのデバイスはシャットダウン、そして強制的に通話から離脱。


つまり、その間は筒抜けである。


「…沙羅、今のはなんだよ。」


コオロギの声が、少しうるさく響く部屋。


沙羅はその部屋で顔を暗くする。


「…誠くんの…お母さん…だと思う。」

「いや…そんな…でも!」


雫は何か弁解しようとする。


でも何も思いつかない。

当たり前だ。


全員が、誠への同情と母へのヘイトを得たから。


なのに沙羅は特に何も言わない。


「そんな、誠の家って…そんな感じなのかよ?」

「さっちゃん!何か知ってるなら言ってよ!」


みんなが沙羅に情報を求めるのは自然。


幼馴染である彼女は、何かを知っているはずだからだ。


不自然なほどの沈黙、そして誰かのため息。

それが充満した時、沙羅は口を開く。


「ごめん、ちょっと話せないかな。」


そら、全員納得はしない。


「な、なんでよ?」

「これはデリケート…っていうか…その、個人のプライバシーっていうかさ、ちょっと私の口だけでは…。」

「はぁ!?そんなのありかよ!確かに誠とはずっと一緒にいるかもだけど、俺たちだって立派な友達になったんだからな!知る権利ぐらいあるはずだろ!」


沙羅の内で、動悸がはくなっていく。

鼓動が鮮明に聞こえ、息が荒くなる。


「まあ待てよ。篤、お前熱くなりすぎ。」

「…ごめん。」


その言葉で、沙羅の意識は戻って来た。

月光が刺す机にうつ伏せになって、ただスマホの画面を眺める。

そして3秒だけ目を閉じて、沙羅は言う。


「みんな、私もよくわからない。誠くんの性格はもう痛いほどわかってるでしょ?あの性格じゃ、何も教えてくれない。」


頷くしかない。


「断片的な不正確で不鮮明な情報だけ、私は持ってる。そんなの、ただの推測だし。広めて嘘なら、私は誠くんに嫌われちゃう。それは絶対避けなきゃだめでしょ?」


それはそうだ。

このプロジェクトにおいて、正直誠の存在意義はかなりある。


誰も口にはしないが。


「ただ、私から一つだけ話せることはあるよ。」


誰も何も喋らないけど、

沙羅にみんなが耳を傾けているのがわかる。


「誠くんが抱いて来た生産性とかは、絶対に何か理由はある。誠くん、昔はあんなんじゃなかったんだからさ。しっかり者で、私にも傅くようにしてくれて。憧れの人だった。」


吐息だけが、その場の空気を和らげる。


「…多分、お父さんのことが関係してる。誠くんのお父さんはさ、誠くんが小学2年生の時にいなくなってる…ってことだけ、私は伝えられてる。」


沙羅が濁した、その理由がわかった気がする。


重力がおかしくなりそうだ。

情報の質量が確実に違う。


「…ごめん、沙羅。話してくれてありがとな。」

「そ、そうだぜ。誠に怒られるし、この辺で通話は切っとかないとな!」

「さっちゃん、じゃね!」


もう真夜中だ。

あっけない通話の終わり?


いや、多分、みんな逃げただけだ。




◆◆◆

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