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生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
社会貢献プロジェクト:翳り編
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34/50

Log 34:滲み灯るシグナル

「元気にやってるかナァ…。ってそいつらが誰か気になるナァ。」


声が重く、僕にのしかかった。

とにかくタバコ臭い。


近所のおじさんが吸った匂いが、たまたま沙羅の家にこびりついていたのかと思ったが、違うらしいな。


「う、うちのお手伝いさんたち…ですよ〜。」


沙羅ママが作り笑いをする。

高低差に吐き気がしそうだ。


「…。」

「すまないね君たち、今からお兄さんたちはとっても大事な話をするんだ!席を外してくれるかな?」


黙っている親玉らしきサングラスの代わりに、

近くにいたやつが僕たちに話しかけてきた。


「わ、わかりました。」


この状況だったら、何もできない。

全員わかっていたんだろうな。

すぐにのれんをくぐり、外へ出た。


沙羅たち以外の全員が外へ出ると、親玉らしいサングラスがこちらに優しく手を振った。悪いやつなとは到底思えない。


そしてすぐさま、

メイド服を着たとてつもないゴリマッチョが、

扉を勢いよく閉める。


僕たちは少し怖くなり、とりあえず離れることにしたよ。




「あれが…借金取り?」


近くのコンビニに来た僕たちは、まずその話題から入る。


「まだ断定はできない…。」


ただの客かも、しれないからね。

しかしどう考えても普通じゃない。


「何も…今はわからないね。でもとにかく、沙羅の家に60万の借金ができてる。それだけがわかっただけで収穫!」

「だな!ネット戦略もなんとかなりそうだし。」


その通りだ。

SNSも開通、今日からホームページも公開。


…でも、それ以上にあの男たちが印象深くてさ。

その日の僕たちは、ほぼ無言で帰路についた。




◆◆◆




「…で、あれがガキかナァ?」

「…そうです。」


櫻井の冷たい視線は、暖まっていた室内を急激に冷やす。

出ていた雫ももう引っ込み、ただ下を向くことしかできない。


「まさか貴様ら、借金のことを喋ってないだろうな!?」


櫻井左腕、米本。

金色の腕時計をつけた、典型的なグレだ。


「そうだったらどうなるか…わかってるよナァ?」

「決してそんなことはございません!」


その返事の5秒後、櫻井はタバコを取り出した。


「…っ、ふぅ…。」

「…。」


硬直する店内だが、櫻井だけはウロウロと歩き回っている。


「まさか…忘れてねぇだろうナァ。

今月末までに…20万、返せよナァ。」


沙羅ママの口の中で、何かが弾ける音がした。

おそらく唾だろう。

俯いたまま、ただそこにいるだけ。


男たちはそれでも睨むのをやめない。




「んで、あれが借金取りってわけかよ?」


通話は終焉を知らない。

やる気は凄まじく、その日のうちにサイトが完成し、投稿予定の動画も編集し終わり、何もかもが順調に進む。


だけど、毎夜の通話だけはずっと続くのだろうな。


そう思った。


「うんそう、ごめんねみんな…今日は…。」


重い空気は決して抜けきらない、

でもその中に他の空気も混じってる。


「いやなんで謝んだって!」


僕は、その会話を片耳で聞いていた。

パソコン上に映る景色は、僕を酷く緊迫させる。


あと一クリック。あと一クリックで世界に公開する。


人生で初めて何時間もかけたもの。

それが、羽ばたくのが近いのだ。


「でもさ…60万なんてどうやれば…」


この調子じゃ、サイトの公開は遠くなりそうだ。

僕がさっさとこの空気を終わらせる。


「SNSが伸び始めたら、クラファンでもやればいいんじゃないか?」

「クラファン…成功するのかな…。」

「一からのクラファンは失敗しやすいんだ。なら、多少の名声を集めてからの方がいい。」


1月になってもフォロワーが増えないなら、

まあ仕方ないけど…クラファンを一から開始すればいい。


「それに、そんな先のこと心配しても仕方ないだろ、今は今を頑張るしか僕たちには何もできないんだから。」


空気がまとまっていく気がした。

その後、数秒の静寂を割いたのが沙羅。


「今月中、目標とか決めたほうがいいんじゃない?」

「確かに!」


雫が同意すると、すかさず沙羅が元気よく言う。


「なら20万だ!」


馬鹿げてんな、大きい額なだけまあいいけどさ。

本当に集まると思ってんのかねぇ。


…いや、集めるのか。


「目標はでけぇほうがいい!な!」


篤がそう言うと、沙羅は小さく笑った。

声が嬉しそうだったんだ。


「そうだね。…って、サイト公開するけどいい?」

「っおい、急になんだよ!お前、頑張ってたもんな。」


なんだよその同情。

このくらい屁でもないわ。


「うるせぇよ。ってかお前らSNSは投稿したのか?」

「いや、まだだ。」


ショート動画の編集など、僕にかかれば3時間もかからない。

素材が送られてきたのは16:00、今の時刻は23:32。

終わらないわけがなかろう。


「なら、僕のホームページ公開と同時に投稿しない?」

「お、いいなそれ!」


篤の元気良い声が、家中に響いた。


僕は少し心躍りながら、久しぶりにAIを開く。


“ホームページを公開する。一番効率いい時間帯はいつだ?”


“効率の定義を確認します。


公開ボタンを押す時間を最適化しても、総アクセス数への影響は限定的です。


優先順位を修正してください。


重要なのは公開時刻ではなく、


1. 検索エンジンへの登録

2. SNSでの告知

3. 継続的な更新

4. ページ表示速度

です。


それでも公開時刻を選ぶなら、利用者の活動時間帯である18時〜22時を推奨します。


ただし、この最適化によって得られる利益は数パーセント程度です。”


…つまり、その質問は非効率ですよ。

と切り捨てられたわけだ。


鼻につくAIだが、言っていることは正しい。

僕が間違っていたよ。さすが、僕の相棒だ。


それに最近使っていなかったからなのか、少し心にきた。


「誠、準備はいいか!?」

「おうよ、こいこい。」


僕はマウスカーソルを合わせた。

この一クリック、このクリックだけ。

これだけで、僕の作品は世界に雪崩れ込む。


僕はもう、とっくの昔に覚悟を決めている。


だから、なんの躊躇いもない。

どうせ成功するさ。

生産性を突き詰め、あらゆる知恵を用いたサイト。


これが炎上したりするなら、この世界が間違っている。


さ、始めよう。

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