Log 32:翳る確信
…っ、、、、、、、、、二ノ宮…、、、、、、、、。
「すいませんけど、その名前だけ出さないでもらえます?」
「あっご、ごめん、ごめんね!」
ふざけんな。
そう言葉が出かけた。
なんなら殴りかかりたいくらいに、イラつく。
タブー視すべきこれを、なぜ掘り返す?
僕には理解できない。
「ふざけないでください。」
たぶん、大きな目を開けてたと思うし、怖い顔してた。
ふと我に帰ると、一昨日切ったはずの爪がめり込んでいる。
「…。」
「…。」
…っと、固い話になりすぎたな。つい。
「えーっと、すいません固くなっちゃって。」
「私もごめん、それより誠くんがYESと言ってくれて、親の私は一安心!」
「何安心でもしてください。僕ですから。」
「あらやだ頼もしい!」
よくいる物語の主人公じゃなくても、
僕はただの僕。僕を全うする、すなわち完璧を演じていく。
その過程で本当の完璧に近づける。
ほんとに不思議なんだけど、沙羅ママの返事を聞いた時、
なんだか知らないけどそんなふうにエンジンかかったんだよね。
沙羅ママを背に正座からすぐに立ち、階段を降りる。
後ろを少し振り返った時に見えた沙羅ママの顔は、
悲しいような、嬉しいようなハイブリッドだった。
下に降りるや否や、すぐにやかましい声が聞こえてきた。
どうやら今日はあまり客足が多いわけではないらしい。
多少なら、大きな声を出しても迷惑がかからなそう。
「やっぱり萌え萌えきゅんじゃね?」
「マジで言ってる?俺の萌え萌えきゅん需要ある?」
「あるわけないけどやるんだよ!」
一階の襖で仕切られた部屋で、あいつらは撮影している。
その襖越しに聞く会話が楽しそうで、僕は行くのを躊躇った。
「実はこう言うのも買っててだね…?」
「雫まだなんか買ったん?」
「じゃーん!馬!!!」
「Youtubeとかでよく見るやつやん!」
「おもろいけど世間に刺さるのか…w」
こういう楽しいとか、面白いって感じが僕にはよくわからない。
何が世間に刺さって刺さらないのかわからないから、
僕は一歩を踏み出せずにいるんだと思う。
「誠が来たら誠に着せようぜ!」
「それはちょっと面白くなりそうかも!w」
面白くねぇし、僕は馬面じゃないぞ。
…聞くだけ無駄だな、こいつらに合わせときゃ大丈夫だろ。
ごく一般的な感性を持った高校生だ。
僕みたいな捻くれ者じゃない。
「…は、なんか増えてるし…!」
何も聞いてない、してないを装ってその場に参加する。
一斉に顔がこっちを向いて、笑顔に変わった。
「まこっちはこれだね、馬!」
「誰が馬面だよ!人生で一回も言われたことないっ!」
「え、もうこんな時間!?」
「本当だ…もう15:00なっちゃったね〜。」
笑うって、なんだろう。
半年前ならそう思っていただろう。
でも今ならそれに応えられる気がする。
そう思えるくらい、今日は笑いきった気がする。
メイド服着たり、馬のお面みたいなのつけたり。
商品説明の文章書いたり、演じたり。
時には休憩で飴をもらったり、各自のお弁当の具を交換したり。
思い出しきれないけど、楽しかった。
楽しかったんだよ。
これって…ダメだよな。
僕は僕を強く罵倒したい気分だ。
今まで自覚してこなかった変化。
いや実際最近よか感じてたけど、怖くて向き合えなかった。
それの正体がわかったんだ。
なんだと思う?って、自問自答し続けたらわかったよ。
結局それも、
感情というものをあえて知ることで危険を自覚する。
そして金輪際触れないための布石に過ぎなかった。
よし。おっけい。
「沙羅は最近この店の変化とか感じないん?」
雄志がそう聞くと、沙羅が微笑みかけながら言う。
「変化も何も、まだこれからなところもある。でも一個確実に変わったのは、私とお母さんとお父さんのマインドかな?」
「マインド?」
すかさず篤が聞く。
「三月までに売り上げ10倍とか無理〜って感じだったけど、行けるかもって思ってきたんだ!」
甘く、暖かい雰囲気が儚く散った。
「10…倍…?」
僕たちは知らなかった。
沙羅たちが目指していることを。
その無謀さを。
ただの目標なら良いんだが、なんだかそんな感じもしなくてさ。
「あっ、いや…その…目標…?的な…?」
僕は楽しかった。
確かに今日は楽しかったよ。
だけど、それ以上に溜まっているものの方が多かった。
とういうか、違和感が溜まり過ぎていた。
「あのさ…。」
声を、出すことにした。
ちょうどその場に沙羅ママもきたし、本当にちょうど良い。
「お前たちさ、隠してること…あるよね。」




