Log 30:ホームページ
母親といえどもさ、喧嘩後は流石に気まずいものだよ。
「…おかえり。」
明らかに声が低い。母さんがソファに座る肩はガクッと落ち、髪の毛も何本か立っているのが確認できる。
外から聞こえるコオロギの声は、僕たちを監視するようだった。
声も小さいせいで、昨日みたいに環境音ばっかり気になる。
「ご飯何がいい?作るよ。」
「へ?」
思わず声が出てしまった。
いつも通りだったから。
いつも通りすぎたんだよ。
「か、唐揚げ…とか?」
「わかった。」
何も言われないのはおかしいとは思う。
このままこの罪悪感?を抱え続けるのは非効率。
でも僕には、もっとやらなきゃならないこともあるんだ。
「じゃ、二階行くね。」
「待ちなさい。」
後ろからその声が聞こえた。
その声だけ、異様なほどに低い。
「な、なに。」
「…なにかお友達とやってるみたいだから、
これだけは言ってもいい?」
言葉が僕の心をついた。
正直怖かった。
なんで恐怖したか、それだけは答えが明確。
僕が今してることに、自信がなかったんだ。
生産性が、感じれてなかったからだ。
でも、なぜか続けられるからだ。
それを一蹴するように、母さんは言う。
「変わったと、自分で思ってるんでしょ?確かに、最近あんたは変わったわよ。よく笑うし、よく出かける。」
僕は、どうやら最近笑っているらしい。
というか、以前は笑っていなかったらしい。
僕は、どうやらよく出かけているらしい。
というか、以前はあまり出かけなかったらしい。
自分でも気づかないなんて、本当に僕はどうしちまったんだろう。
そんなことを頭で考えては、黒く塗りつぶす。
ノイズは消すだけ。
それができたらどれだけ楽だろう。
そう思って俯角に目を落とした時、
母さんは声を少し大きくした。
「だからこそ言わせてもらうけど、それは周りに流されてない…のよね?」
周りってなんだろう。
ああ、沙羅たちのことか。
顔を思い浮かべるだけで、その時は精一杯だった。
「自分の意思でやってるのよね。自分の思想に基づいてるのよね。なら、いいと思うわよ。」
ここで僕は即答すべきだったのだ。
『当たり前だろ』ってさ。
だけど、
喉どころかもっと下の方に、言葉は刺さった感覚。
ふと母さんの顔を見てみると、母さんは下の一点を見つめていた。
僕もそれを見て目を暗くする。
でさ。
察したんだ。
母さんが何を言おうとしてるか。
何を心配してるのか。
僕に何を求めるか。
それの、怖さがいくらゆえか。
“そういう力”は昔から強かったんだ。
「…だから…要するに…自分を見失わないでってこと。
………もう、見たくないもの。」
言葉は予想通りに舞い散る。
瞳孔が変化して、眉間に皺が寄る。
自分でもわかるくらいには、シワが増える。
思わず噛んだ唇から、ポタリと血が落ちた。
多分母さんも同じだったと思うよ。
この気持ちに名前をつけれるものなら、是非つけてほしい。
絶対に名前をつけれない感情を、
今目の当たりにした気がするから。
それからの五日間、僕はとにかくサイト作りに尽力した。
特に印象に残る出来事もなく、ただ淡々とサイトを作る。
夜に通話しながら、デザインを相談。
それを実行、削除、採用。
ループが連鎖するだけ。
それなのに、面白いのはなんでだろうな。
「よしっ、できた!」
実際にウェブページを作るのは初めてだったし、かなり凝った。
だけどなんとか10/11の午前2時、ウェブページは完成した。もうクリックするだけで公開できる。
「えっがち?できた?」
「そう言ってる。」
「ひゃっほい!なら今日は楽しくなりそうだな!」
もう一度、自分で作ったウェブページを見てみる。
普通にいい出来栄えじゃないか。
ネットの海に放り投げて、このサイトが日の目を見るかはわからない。
でも、あいつらの目には触れる。
それだけでなんだか嬉しくなっていた。
それを感じた瞬間に、自分への嫌悪で体が満ちる。
「それもそうだけど、今日はもう寝ようよ。」
僕がそう声を上げると、篤たちは少しの静寂の後に言う。
「だな。」
篤が抜ける。
「今日は10:30にはあっちだからね〜!」
雫が抜ける。
「誠くんのホームページ早く見たいなぁ。」
沙羅が抜けた。
そして残ったのは雄志。
「誠、俺勘違いしてた。」
なんの説教が始まるのかと、無意識に少し体を傾ける。
「は、なに?」
「お前は俺たちとは違って、手の届かないような、そんな奴だって思ってたけどさ。」
その認識で間違いない。
お前たちとは違うし、手が僕に触れることなんてない。
「でも、最近思ってきたんだよ!お前、俺と変わらずくっそめんどくせぇ奴だな!」
いや、まて。
お前と僕が…一緒?
なわけ、ない、だろ。
「だから、俺もっとお前のこと好きになれそうだぜ!」
雄志が抜けた。
そのまま止まって、いくつも考え事をしたよ。
納得いくまでって思ってたら、まさか小一時間経っててさ。
「…まじか…、ねる…か。」
そう思って数秒だけうつ伏せになった刹那、僕は落ちた。




