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生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
社会貢献プロジェクト:翳り編
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29/52

Log 29:透明な声

妙に綺麗な月光が差し、秒針が時間を残酷に刻む。

不自然なくらいに誰の声もしないから、そんな環境音やらに意識が行く。

お、コオロギも鳴いてるな。


「あ、2時。」


誰かがそう呟いた。

意識が遠のき過ぎて、誰の声かすらわからなかったよ。


「なら、今日はここまでだよ。」

「…っお」


その言葉を言い放つと、僕は退出ボタンをサッサか押した。

その後も、篤とかが何か言おうとしてたけどさ。

正直、寝たかったし。


それにさ。

我に帰った瞬間に、僕は生産性について考えてしまう。


今の通話は本当に必要だったとかさ。

普通の高校生が考えないようなことを、僕は考える。


刹那、もっと怖いことを考えた。

僕は、そんな自分に心酔してるのかもって。


だからさ。

眠気を覚さない程度にビンタして、寝た。


それしかできなかった。




ーこの夜、誠の部屋を覗く影が一人。

誠の母、如月藤乃である。




翌朝


「は、あんた何言ってんの?」

「だから、体験入塾とか興味ないから。行かないわ。」

「あんたごときに、拒否権あるとでも?」


クソ親、毒親、どんな言葉を並べても勝らない。

この母親ははっきり言って、いない方がマシだ。


そんなこと言えば、誰かが『お母さんがかわいそう』だと言うだろう。しかし、そんなこと微塵も心配しなくていい。


なんせ僕の価値観の根底、その礎にこの人はいるし。


「ある、あるだろ。ないとは言わせない。」

「ない。たいして勉強したわけでもなく、昨日はずいぶん楽しそうだったわね。誰と話してたの?」


それを見られていたんでは、僕は言い逃れできない。

でもさ…。

譲れないものも、同時に介在してるんだよ。


「…何が…」


いいかけて、言葉が突き刺さった。

朝だと言うのにやけに目が覚めている。

言いたいことは浮かぶのに、ほかのことまで浮かんでくるよ。


ー父さんみたいにならないで。気持ち悪い。


言葉の一片一片を辿るうち、

もう僕は後戻りできなくなっていた。


「何がわかるんだよ。お前に!」


お前、などと声を荒げたのなんていつぶりだろう。

ましてや母親に言う、考えたこともなかったよ。


「わからない…とでも思うわけ?」


ああ思うさ、絶対にわかるわけもない。

天才である僕と、凡夫のお前の違いなんて、赤子でもわかる。


「わかるはずあるかよ、僕の苦労も…何も…しらないで…」


言葉にストッパーがかかった。

自分でも不思議だ。

ただの反抗期だ、そう受け流すのが親として最適解。

でも、それを弾き出せなかったみたいだ。


「…。」


母さんの言葉が詰まった。

かなり珍しいことだ。


普通なら弾丸のように言葉が言葉を加速させ、

僕を荒廃させるのに。


「…なに…私が…私が悪いって?」

「…まあ、そうだよ。興味のないことに勝手に応募して、親のエゴで僕を使うのは、ただの自己中だ。」


本音を、ぶつけることにした。


「僕は微塵も悪くないだろ?都合に使われる子供の可哀想さったらないんだからさ?」

「…。」


母さんは口ごもる。

そして眉を顰めるのだ。


「…なんだよ。」


その目は、正直かなり怖かった。

獲物を捉える前の猛獣。

誇張し過ぎだと、そう言われるかもしれない。

でも僕にはそう見えて仕方ない。


それが全て混ざった空気だったからだろうか。

いつもより、大気圧が高い気がした。


「とにかく、母さんに僕の何かがわかるわけでもないんだから…」


そう言った刹那、僕の視界を真っ二つに裂くような。

親と喧嘩したことない僕に、声は一つの既成事実を刻んだ。


「…っ!」

「…な、なに…」


耳鳴りが、した。


「わかるわよ!!!あんたの…あんたの何倍生きてると思ってるの!?もううんざりなのよ!」

「近所迷惑…!

クレーム入ったら…その…時間の無駄になる…だろ!」


母さんがこんなに追い詰められている、

そんな兆候はなかったんだがな。

なんでかわからないし、胸に込み上げる何かも、

何からきてるのかすら理解に及ばなかった。


「うるさい!一回一人にしてよ!」




朝から気分最悪。

喧嘩で家を出るとか、まじどうなってんだ。


「なあ誠?」

「あ?」


やべ、ちょっと強く返事したかも。


「なに?」


急いで言い直す。

いや、なんでこんなこと気にしてんだよ。


「え、いや、ホームページどーかなって?」

「あああ、まあ結構完成気味ではあるよ?」


通学路の半分ぐらいを過ぎたころ、僕たちは黙っていた。

特にする会話もなく、必要最低限を守った。


でもそれじゃ、なんかつまんないんだよな。

だから僕から話を振った。


「で、ロゴとかの方はどうなんだよ。」


篤は少し間を開けてから答えた。


「おんなじ感じだよ。」


そしてまた続ける。


「全く誠はすげぇよな。俺の方が時間かけてるってのに、誠も同じぐらい進んでんだもん。ウェブデザインなんて、そうそうできるもんじゃねぇのに。」


急に言われると、少し照れるな。


「ま、2級だからな?」

「調子乗んなよ〜?

俺は調子乗ってるやつしばく検定10段だからな?」

「なんだよそれ!w」


久しぶりに口を開けて笑った気がする。

さっきまでの重い感情なんて忘れて、僕は篤と会話していたと思う。


「でさ、次の日曜だけど、そこまでに完成させれないか?」

「えっは?それ何言ってるかわかってる?」

「いや、無理にとは言わないけどできるだけそうして欲しくて!その日、色々揃うんだよ、メイド服とか!」


流石にそのスピードではきつい。

しかも説明も支離滅裂で…と言いかけた時。


「だから誠のホームページにリンク貼って、SNS運用も同時進行しようかなって!その撮影とかできたらよくない?」


正直これには驚いた。

篤ともあろう者が、珍しく筋が通ってるじゃないか。


「…わかったよ、やるだけやってみるから。」


思考より先に言葉が飛び出てきた。

本来、それは確実な生産性を考えられない。

SNSは前も言った通りかなりセンスもいるし、

確実な方法とは言えないからだ。


それのために使う時間は、無駄だと思ってしまう。

でも出てしまった言葉は取り戻せない。


「おおぉまじか!さすがそれでこそ誠だぜ!」


今日は水曜、今日を入れてあと5日後にはホームページ完成だって?無茶言うなよおいおい…。


「言っとくけど!!!」


一際強く僕は言う。


「1週間で完成はできるかもだけど!僕が納得するクオリティになるまで結構かかるんだからな!」


100点になるまで掲載しないより、80点を公開すべきだと、きっとAIに言えば言われることだろう。


だから、価値の天秤は決まっている。


「いいさいいさ、完成すれば万々歳だろ。」


声を落としながら、そう篤が言う。

その声が透明でさ。

思わずため息をついてしまったよ。


「はぁ、篤まじでバカだな。」

「バカじゃなきゃ、お前と出会ってねぇだろ?」

「よく言うぜ。この前の模試で国語校内8位め。」

「そーゆー意味じゃねぇし!」


どこまで行っても、この高校は県内トップの公立高校。

全く、篤みたいな奴がたくさんいて僕は困るってもんだ。

今みたいに、口角が上がって仕方ないんだからさ。




「…ただいま。」


恐る恐る、その扉を開けた。

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