Log 28:たった一歩を踏み出して
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「こんなのど?」
そう言って雄志が出してきたそれは、よくあるトレイ。
「ビラを置いてさ、昇降口のとこに置いとかね?」
まあまあな案だな。
普通に配るより圧倒的に効率がいい。
「あ、なら私がポップ作ったげる。」
雫がそういう。
こう言う謎の団結力はさ、すごいんだかなんだかわかんないよ。
「いや神すぎる。誠はサイト制作どうなんだよ?」
サイト制作については、かなり進んできている。
「サイトの目的決めて、構成考え終わったぐらいかな?今からデザインとかは頑張るとこだよ。」
サイト作りはなんと言っても慎重さが大事。
HTML、と言ってもこいつらには理解できないだろうしいいけど、僕は結構ガチで作り始めてる。
「まじか、みんな進んでんな〜。」
「篤の飴袋はどうなんだよ?」
雄志がそう書いた。
篤はロゴを考え、それを店の前にも張り出すと言っていたな。
「ああ、ロゴはこれで決まりかなって思ってる。」
篤の掲げた紙には、先日見せてもらったのとは比べ物にならないほどの完成度を誇る、まさにロゴだった。
店の雰囲気に合う色合い、そしてウリの人柄を感じさせる優しいフォントと飴。僕が手を加えるまでもないな。
「えーまじですごい!」
「て、照れるな…。」
沙羅の言葉に少し照れた篤は、少し紙を引っ込めた。
「あっつん、沙羅ちゃん困ってる!」
「わりぃわりぃ…。」
「っと、それはさておき…」
ぷぷっと少しの笑みが形成され、
そして話題は集まる頻度の話に移行する。
話を切り出したのは、雄志だ。
「正直に言ってもいいか?俺ら、頑張りすぎだと思うわ。」
この発言は、まあ賛否を呼び込むだろう。
だが僕も正直思っていたところではある。
毎晩毎晩、こいつらは例のグループラインで通話しながら色々やっている。
少し覗いてみると、その危うさはすぐ伝わると思う。
雄志『今日は何時までやる?』
篤『え、オールじゃねぇの?』
雫『バカじゃないの?そんなの続くと思ってる?』
篤『余裕じゃね?俺モンスター買ったぞ?』
沙羅{グループ通話が開始されました。}
6:52
{グループ通話が終了しました。}
こんなの氷山の一角に過ぎない。
10/4、あの日以来加速している。
前から1時ぐらいまでの通話がちょくちょくあったが、流石に最近はおかしくなってきている。
僕は一度も行ったことはない。
規則正しい生活こそ、生産性の種だからな。
「最近は結構通話してみんな頑張ってるけどさ、体調崩したら終わりだわ。だから、日曜日はガチろ?で、それ以外は普通にしよ?な?」
雄志は、多分思ったことを全部吐き出した。
昨日雄志が『今日は何時までやる?』と聞いたのも、多分この話展開に持ち込みたかったんだと思う。
直後の篤にぶち壊されたけどな。
「え、でも雄志いつも通話途中で抜けるよな。」
「いや、関係ある?」
あ、これヒートアップするとやばいな。
「いやあるだろ、俺と沙羅はいつも最後まで残ってるぞ。」
「それはお前らがおかしいんであってだな…」
仕方ねぇな。
「おい、黙れ。それ以上何も言うな。僕が捌いてやる。」
一言で、みんな沈む。
喧嘩はさせない。絶対。
「喧嘩なんかしたら元も子もないだろ。んで通話だけどな、それは篤と沙羅が変だ。行ったことないからわかんないからこそ、客観的に言うぞ。オールで通話仕事は社会人でもきついんだ。それを3日も4日も続けてみろ?おかしくなるぞ。」
篤も雄志も、少し不満げにしている。
だから、僕が言ってやらなきゃこいつらはまずくなる。
「…ってことで、僕が監督してやる。」
それを言った刹那、全員の顔が変わった。
怪訝100%の顔から、複雑な顔になったな。
好奇心5割、不満2割、不安3割ってとこか。
「…え?」
「僕が、通話行くって言ってんだよ。」
「ま、まじ?」
誰も決して怪訝な顔は浮かべてない。
「これで暴走停止できてるのか知らないけど、僕がいる限り2時には絶対通話閉じるからな。いいか?わかったかよ?」
「お、おう!」
なんとか場は治ったか?
「まこっちがそんなこと言うとか…めっちゃ意外かも!」
僕をなんだと思ってるんだよ…。
そう思った時、次の時間のチャイムが鳴った。
「あ、もう時間だ。」
「ごめん、篤。」
「いや俺こそすまなかったよ。」
これでよし。
いや、まじでベビーシッターになったみたいだなおい。
ガラガラ音がして、英語科の林先生が入室した。
「よぉし、単語テストだぞ〜。」
あ、忘れてた。
ま勉強しなくても、いつも単語帳見てるから…、あれ?
最近は見てない…かも。
ちなみに、結果は85点で過去最低だった。
なんだか、少しイライラしたよ。
その日の放課後、僕たちはトレイにビラをぶち込んで帰った。
誠『2時までだからな』
雫『いつくるー?』
誠『そのうち行く』
雄志『早く来いよー』
篤『お前らしいな』
「と言ったのはいいものの…。」
気が引けるとは、まさにこのことを言うのだろうな。
長年、僕が避けてきたことといえばたくさんある。
その中でも誰かとの長電話、これは本当にしたことがない。
「こんな時こそAI…だな。」
別に、部下の用途なんて上司の一存で変わるだろ。
命令のため?捨て駒にするため?
全部僕の勝手だろうが。
“友達と通話するのなんて初めてなんだが、背中押してくれ”
“上手く話せるようになってから通話するのは非効率です。
泳げるようになってから水に入る奴はいません。
押してください。
その通話、未来のあなたのコミュ力育成チュートリアルです。”
分かってはいた回答だったけどさ、いざこう前にしてみるとすごいなんか、こう、あるな。
大体、非生産的な通話なんて行く意味ないだろ?
すぐ入って、抜ける。
2時に終わらせろと忠告するだけでいい。
「…おし。」
この一押しが、どれだけの重力を背負っていたのだろう。
なんでこんなに重いんだろう。
…僕が何を否定したいのか、少しだけわかってきた気がする。
でも考えないことにした。
「えほんとに?えぐ。不審者?」
「あれはやべえよ?普通に頭おかしい。」
「ちょっとその話私も聞いたって〜。」
通話にいたのは、雄志と篤、そして雫。
不審者の話題で盛り上がるとか、何歳だよ。
「…。」
話せ、話せ。
「…。」
話せ。話せ話せ話せ話せ話せ。
「あれ?まこっち!いたの〜?」
「ふ、あ、今、今きた。」
変な声出たじゃねぇか。
そう頭を抱えたと同時に、時計の長針と短針が重なった。
10/7である。
普段こんなに遅くまで起きることはないし、
俄然やる気が出るわけでもないのだが…少しテンションが回復しつつある。
「いやぁその初期アイコンが通話にいるの、なんか新鮮だわ。」
雄志の言葉に、僕の鼓動が高鳴った。
決していい意味じゃない。
余計だったのか?僕は、ここにいない方がいいのかって。
そう反射で思っちゃうんだよ。
「あ…その…だめかよ?」
「え?なんで?」
強気にいけ、僕は如月誠なんだからな。
「迷惑なら抜けるぞ。」
「いやいやいやいやなんでそーなんの!」
そんなことはないらしいな。
多分、その時僕は安心した。
「まじで2時までだし、僕抜けるからな途中で。」
「えーまじかー。」
誰も、何も喋らなくなった。
いやこう言うものなのか?急に静まり返ったりとか、そんなもんか?と考えつつも、僕はひたすらにパソコンのキーボードを打つ。
「そーいえば、沙羅はいないのか?」
「今トイレ中だよー。」
ふーんと半耳で聞き、エンターを押す。
その音だけが部屋に響く感覚は、昨日とまるで同じだ。
それに気づいたときにふと、思うのだ。
通話に入ることと入らないこと、それは効率に直接の因果がないんだと。たいして変わらない環境で、変わらない効率でやる。
つまり僕にデメなんてないんだ。
「あ、そうだ誠?」
急に呼ばれるとびっくりするな。
「な、なんだよ。」
「今週の日曜暇?」
「いや別に…暇だけど。」
言っておく。
僕は、今愚の骨頂にいる。
暇じゃないんだ。
塾の体験入塾があるんだよ。
とは言え、クソ親が勝手に申し込んで、僕が勝手に行かされることになっただけだから、突っぱねればいいだけなんだけどね。
「よかったあ、そこで集まろ!」
「おけ、いつもの電車?」
「そそ。」
「お母さんに言っとくね!」
にしてもさ、会話は最低限だし、なんなら集中できるし。
僕に必要な環境が揃ってる気がするよ。
通話って…なんかいいな。




