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生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
社会貢献プロジェクト:翳り編
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28/50

Log 28:たった一歩を踏み出して

10/6

「こんなのど?」


そう言って雄志が出してきたそれは、よくあるトレイ。


「ビラを置いてさ、昇降口のとこに置いとかね?」


まあまあな案だな。

普通に配るより圧倒的に効率がいい。


「あ、なら私がポップ作ったげる。」



雫がそういう。

こう言う謎の団結力はさ、すごいんだかなんだかわかんないよ。


「いや神すぎる。誠はサイト制作どうなんだよ?」


サイト制作については、かなり進んできている。


「サイトの目的決めて、構成考え終わったぐらいかな?今からデザインとかは頑張るとこだよ。」


サイト作りはなんと言っても慎重さが大事。

HTML、と言ってもこいつらには理解できないだろうしいいけど、僕は結構ガチで作り始めてる。


「まじか、みんな進んでんな〜。」

「篤の飴袋はどうなんだよ?」


雄志がそう書いた。

篤はロゴを考え、それを店の前にも張り出すと言っていたな。


「ああ、ロゴはこれで決まりかなって思ってる。」


篤の掲げた紙には、先日見せてもらったのとは比べ物にならないほどの完成度を誇る、まさにロゴだった。


店の雰囲気に合う色合い、そしてウリの人柄を感じさせる優しいフォントと飴。僕が手を加えるまでもないな。


「えーまじですごい!」

「て、照れるな…。」


沙羅の言葉に少し照れた篤は、少し紙を引っ込めた。


「あっつん、沙羅ちゃん困ってる!」

「わりぃわりぃ…。」

「っと、それはさておき…」


ぷぷっと少しの笑みが形成され、

そして話題は集まる頻度の話に移行する。

話を切り出したのは、雄志だ。


「正直に言ってもいいか?俺ら、頑張りすぎだと思うわ。」


この発言は、まあ賛否を呼び込むだろう。

だが僕も正直思っていたところではある。

毎晩毎晩、こいつらは例のグループラインで通話しながら色々やっている。


少し覗いてみると、その危うさはすぐ伝わると思う。




雄志『今日は何時までやる?』


篤『え、オールじゃねぇの?』


雫『バカじゃないの?そんなの続くと思ってる?』


篤『余裕じゃね?俺モンスター買ったぞ?』


沙羅{グループ通話が開始されました。}


6:52

{グループ通話が終了しました。}



こんなの氷山の一角に過ぎない。

10/4、あの日以来加速している。

前から1時ぐらいまでの通話がちょくちょくあったが、流石に最近はおかしくなってきている。


僕は一度も行ったことはない。

規則正しい生活こそ、生産性の種だからな。


「最近は結構通話してみんな頑張ってるけどさ、体調崩したら終わりだわ。だから、日曜日はガチろ?で、それ以外は普通にしよ?な?」


雄志は、多分思ったことを全部吐き出した。

昨日雄志が『今日は何時までやる?』と聞いたのも、多分この話展開に持ち込みたかったんだと思う。

直後の篤にぶち壊されたけどな。


「え、でも雄志いつも通話途中で抜けるよな。」

「いや、関係ある?」


あ、これヒートアップするとやばいな。


「いやあるだろ、俺と沙羅はいつも最後まで残ってるぞ。」

「それはお前らがおかしいんであってだな…」


仕方ねぇな。


「おい、黙れ。それ以上何も言うな。僕が捌いてやる。」


一言で、みんな沈む。

喧嘩はさせない。絶対。


「喧嘩なんかしたら元も子もないだろ。んで通話だけどな、それは篤と沙羅が変だ。行ったことないからわかんないからこそ、客観的に言うぞ。オールで通話仕事は社会人でもきついんだ。それを3日も4日も続けてみろ?おかしくなるぞ。」


篤も雄志も、少し不満げにしている。

だから、僕が言ってやらなきゃこいつらはまずくなる。


「…ってことで、僕が監督してやる。」


それを言った刹那、全員の顔が変わった。

怪訝100%の顔から、複雑な顔になったな。


好奇心5割、不満2割、不安3割ってとこか。


「…え?」

「僕が、通話行くって言ってんだよ。」

「ま、まじ?」


誰も決して怪訝な顔は浮かべてない。


「これで暴走停止できてるのか知らないけど、僕がいる限り2時には絶対通話閉じるからな。いいか?わかったかよ?」

「お、おう!」


なんとか場は治ったか?


「まこっちがそんなこと言うとか…めっちゃ意外かも!」


僕をなんだと思ってるんだよ…。


そう思った時、次の時間のチャイムが鳴った。


「あ、もう時間だ。」

「ごめん、篤。」

「いや俺こそすまなかったよ。」


これでよし。

いや、まじでベビーシッターになったみたいだなおい。


ガラガラ音がして、英語科の林先生が入室した。


「よぉし、単語テストだぞ〜。」


あ、忘れてた。

ま勉強しなくても、いつも単語帳見てるから…、あれ?

最近は見てない…かも。


ちなみに、結果は85点で過去最低だった。


なんだか、少しイライラしたよ。




その日の放課後、僕たちはトレイにビラをぶち込んで帰った。




誠『2時までだからな』


雫『いつくるー?』


誠『そのうち行く』


雄志『早く来いよー』


篤『お前らしいな』


「と言ったのはいいものの…。」


気が引けるとは、まさにこのことを言うのだろうな。

長年、僕が避けてきたことといえばたくさんある。


その中でも誰かとの長電話、これは本当にしたことがない。


「こんな時こそAI…だな。」


別に、部下の用途なんて上司の一存で変わるだろ。

命令のため?捨て駒にするため?


全部僕の勝手だろうが。




“友達と通話するのなんて初めてなんだが、背中押してくれ”


“上手く話せるようになってから通話するのは非効率です。


泳げるようになってから水に入る奴はいません。


押してください。

その通話、未来のあなたのコミュ力育成チュートリアルです。”




分かってはいた回答だったけどさ、いざこう前にしてみるとすごいなんか、こう、あるな。


大体、非生産的な通話なんて行く意味ないだろ?

すぐ入って、抜ける。

2時に終わらせろと忠告するだけでいい。


「…おし。」


この一押しが、どれだけの重力を背負っていたのだろう。

なんでこんなに重いんだろう。


…僕が何を否定したいのか、少しだけわかってきた気がする。


でも考えないことにした。


「えほんとに?えぐ。不審者?」

「あれはやべえよ?普通に頭おかしい。」

「ちょっとその話私も聞いたって〜。」


通話にいたのは、雄志と篤、そして雫。

不審者の話題で盛り上がるとか、何歳だよ。


「…。」


話せ、話せ。


「…。」


話せ。話せ話せ話せ話せ話せ。


「あれ?まこっち!いたの〜?」

「ふ、あ、今、今きた。」


変な声出たじゃねぇか。

そう頭を抱えたと同時に、時計の長針と短針が重なった。


10/7である。


普段こんなに遅くまで起きることはないし、

俄然やる気が出るわけでもないのだが…少しテンションが回復しつつある。


「いやぁその初期アイコンが通話にいるの、なんか新鮮だわ。」


雄志の言葉に、僕の鼓動が高鳴った。

決していい意味じゃない。

余計だったのか?僕は、ここにいない方がいいのかって。


そう反射で思っちゃうんだよ。


「あ…その…だめかよ?」

「え?なんで?」


強気にいけ、僕は如月誠なんだからな。


「迷惑なら抜けるぞ。」

「いやいやいやいやなんでそーなんの!」


そんなことはないらしいな。


多分、その時僕は安心した。


「まじで2時までだし、僕抜けるからな途中で。」

「えーまじかー。」


誰も、何も喋らなくなった。

いやこう言うものなのか?急に静まり返ったりとか、そんなもんか?と考えつつも、僕はひたすらにパソコンのキーボードを打つ。


「そーいえば、沙羅はいないのか?」

「今トイレ中だよー。」


ふーんと半耳で聞き、エンターを押す。


その音だけが部屋に響く感覚は、昨日とまるで同じだ。

それに気づいたときにふと、思うのだ。


通話に入ることと入らないこと、それは効率に直接の因果がないんだと。たいして変わらない環境で、変わらない効率でやる。


つまり僕にデメなんてないんだ。


「あ、そうだ誠?」


急に呼ばれるとびっくりするな。


「な、なんだよ。」

「今週の日曜暇?」

「いや別に…暇だけど。」


言っておく。

僕は、今愚の骨頂にいる。

暇じゃないんだ。

塾の体験入塾があるんだよ。

とは言え、クソ親が勝手に申し込んで、僕が勝手に行かされることになっただけだから、突っぱねればいいだけなんだけどね。


「よかったあ、そこで集まろ!」

「おけ、いつもの電車?」

「そそ。」

「お母さんに言っとくね!」


にしてもさ、会話は最低限だし、なんなら集中できるし。

僕に必要な環境が揃ってる気がするよ。


通話って…なんかいいな。


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