Log 25:鉤爪の予兆
「ホームページ作るぞ。」
「ほ、ホームページ!?」
まぁそうなるよな。
作り方とかどう調べるんだって感じだし。
「そうなるのも無理はない。でもよく考えてくれ。」
僕は、天才だからな。
「僕がせっせと何を勉強してたと思うよ?」
「…まあいってたのは…株とか…AIとか…?」
「僕は『ウェブデザイン技能検定2級』を持ってる。」
夏休み、僕は浮かれてただけじゃない。
海に行って、こいつらと遊んだだけじゃない。
4月から勉強してた資格勉強、ついに実るって感じ。
ま、他にも色々受けて受かったんだけどさ。
合格率30〜40%ぐらいの結構むずい国家資格。
11月に一級も受けるつもりだぜ。
僕は将来、ウェブデザイン系の仕事を視野に入れてたからな。
普通に面白そうだし。まあ稼ぎはそこそこだけど。
「…な、なにそれ?」
「とりあえず、僕に任せとけってこと。おけ?」
「お、おけ!」
黙って従えばいい。
僕が全て補ってやる。
前感じた劣等感を、払拭する。
僕は天才だろ。大丈夫。
「他のイベントとしては…そうだな、この在庫とかも発掘祭みたいな感じにすれば売れると思うし…スタンプラリーとかハロウィンイベントとか、季節に合わせたのも良さげだと思う。」
「発掘祭いいね!この在庫の処理にもってこい!」
「だろ?」
なんだろう、清々しいほどに気持ちいい。
沙羅の言葉が心を包んでいく。
そういう面では、こいつ僕のことを補ってるのかもな。
甚だしい。
「それと、SNSはむずいけどやるべきだと思う。」
「えっがち?」
少人数だけどざわついた。
特に雫は、かなりインフルエンサーとかみるタイプだから、葛藤あると思う。むずさもわかるし、楽しさもわかる。
「ま、まじ?まこっち?」
「まじ。」
SNSは埋もれやすい、ハイリスクハイリターンな策。
でも手玉は多いに越したことはない。
「やっぱりオシャレ系で売るの?」
わかってないな、さすが沙羅だな。
「いや、それだとまじで埋もれる。商売もだけど、人は差別化されたものに興味を持つわけだよ。量産的な店が潰れたり、同じような内容のクソなろうが波紋を呼ばないのと同じだよ。」
「め、めっちゃ言うやん!」
篤の言葉に、僕は便乗して続ける。
「めっちゃ言わないと、変わらないんだ。思い切らないとダメ。常連さん、沙羅ママ、素材ってかはたくさんあるわけだし、そういう人間味のところを売りにすべきだ。居場所を売ってるなんて呑気なこと言ってる店だぞ、人で売らなくて何で売るってんだよ。」
居場所とかの抽象的なもので売りたいなら、
もっとはっきりしないといけない。
「わかった、じゃあ今日出たことは全部実行しよう。ママに許可もらってこよう。」
そういって立ち上がったさらに続いて、僕たちも階段を降りる。
「ママ!これ今日出たこと!」
レジを打っている沙羅ママは、
いつになく焦っているようだった。
勘違いかもだけど、沙羅も妙に歩数が多いな。
「あら〜かなりたくさん!まあ君たちなら信用してるし、全部オッケーよ〜。」
やけに軽いな。
「やった、ありがとございます…おb…ンねぇさん!」
「よく言えまちたねぇ…?」
いまだここ二人の関係は同じようだな。
みんな笑ってたよ。
僕含めてね。
「あ、もうすぐ3時!今日もお客さん来るから、みんながんばろね!」
また、三時。三時か。
「また客か?あんまり悪質な客に構うなよ?」
「そうだよ〜?」
そうは言いつつ、雫も篤も、そして雄志も外へ向かう。
「じゃな!」
やけにすらっと解散するな。
忙しそうだし、それの配慮か。
よくできた奴らめ。まぐれかもだけどな。
でも、それぞれ個性的なリュックやらを背負い、僕だけ違う駅に向かう。その背中を見るだけで、なかなかどうして寂しいのだ。
「…ま、こんなモンだよな。音楽聴こ…。」
最近購入したイヤホン。
昔は聞かなかった音楽に触れたことで、なんだかすこし気分が豊かになる気がする。
僕はまだ成長できる。
もっと、もっと生産的に。効率的に。
…。
———あの人の、期待通りに…。
ね。
そうしなきゃ、僕が納得しない。
なにより、あの人が…さ。
刹那、僕の横を風が切った。
正確には風じゃなかったけど。
黒い、車。
運転席に、メガネの男。
後部座席はハーフミラーで、中は見えない。
なのになぜだ。不穏な気がした。
なんの変哲もない、ただの車のはずなのに。
……あ、そうか。タバコの匂いがするからか。
いや…面倒だ。
多分関係ない。
まじ変なこと考えんな。多分ただの客。
多分、なんでもない。多分。多分。多分な。
…僕のカバンに、今日は参考書が入っている。
一人で帰るから。
前回からの反省だ。
うんよし、成長したな。




