Log 23:異常在庫
少年は絶望した。
それが今後の人生観を大きく変えてしまったのだから。
少年は歓喜した。
自分の目的が明確になったのだから。
少年は混乱した。
パラダイムシフトが、短期間に2回もあるのだから。
少年は悲観した。
自分の罪に囚われたのだから。
少年は受け入れた。
それが自分の力なのだから。
少年は生きた。
それが、それこそが“彼”の願いだったのだから。
◆◆◆
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「んがっっ!」
…なんだ、家か。
悪い夢でも見たみたいだ。
ふと周りを見ればいつもの木目、ベッド、煩雑に乱れた勉強机。
何も変わりなく今日も始まる。
ここ2週間、実は結構楽しみにしてたんだ。
なんか、何かが始まる気がしてさ。
「お、誠きた!」
そこにいけば、もう全員集まっていた。
今日は集合が遅くて12:30。
雄志の予定の影響だったっけかな?
「わるいわるい!ちょっと遅れた!」
「もう、タイムイズマネーなんだからね〜?」
こんなことを言われても、何とも思わなくなってきた。
これは明らかな変化だ。
少し気持ちが煩雑だが、今は触れないことにする。
今は今に集中すべきだと、そうは思わない。
でも少なくとも、今はその価値がある。
「わかったって、じゃ入ろ!」
昔ながらの扉を開ければ、そこはやはり賑わっていた。
ショッピングモールとは違う類の賑やかさ。
誰かの喋る声ばかりが聞こえてくるから、だろうか。
「あら、来てくれたのね〜!」
その言葉と同時に、沙羅ママは手を振った。
レジで会計をしながら常連さんと話をする。
そんな光景は、やはり古びた商店街そのものだな。
「お邪魔します、おばさん!」
「…は?」
雄志は激しく睨まれた。
「お、おねぇさん!」
「いらっしゃい雄志く〜ん?」
「う、うす!」
店内が笑いで充満する。
高圧的なのに、そんな感じがしない。
普通、人が怒ればその言葉が上からのしかかる。
僕のデータは、そう言っているはずなんだけどな。
「中に沙羅いるから、ちょっと行ってあげてね!」
「わかりました!」
篤の返事と共に、僕たちは店内に足を踏み入れる。
玄関には銀杏の葉が散乱していたり、
隣の家から舞い散る楓の葉も窓にへばりついていた。
「へいさっちゃ〜ん!」
「あ、みんな来た!」
そうそう、雫は沙羅のことをさっちゃんと呼んでいる。
親しみやすいのはなによりだが、
もちろんまこっちは承諾していないからな。
「にしても…なぁんだこれ?」
雄志がそういうのも無理はない。
この前まで綺麗だった通路が、荷物で埋まってるんだからな。
「あーこれ…?これはね…その…なんでもないよ!今月の仕入れ!」
…バカ…なのか?従来の在庫の2倍はあるぞ?
この量を売り切れるなんて、よく思ったもんだな。
実は、僕は以前沙羅ママに色々聞いたことがある。
その時、以下のことを話された。
・在庫の発注は30日で、1週間後に届く。
この情報から、この時期には在庫が届かないはず。
僕の疑念は、少しづつ深まる。
まだこの段階でいくら僕たちが尽力したとしても、
従来の在庫を売り切るのが関の山だろう。
何も話題にしてないし、何の策も実行してない。
その時点でこの在庫は間抜けがやることだ。
生産性どうこうの話じゃない。
頭のネジが外れてる。
「バカじゃねぇのか?こんなの売り切れるわけないだろ!」
僕は何を言われても正論を言うぞ。
どう考えても、これは常軌を逸している。
「ご、ごめん…その…買っちゃった!」
「買っちゃったじゃないんだよ、取り返しつかないぞ!?」
「まあまあ誠、売ればいいだろ?」
雄志が口を割るが、偽善だ。
ほんとはみんな思ってる。
みんなが言えないような、
ほんとの本音をぶつけるのが僕の仕事なのかもしれない、
と思い始めた。
…いや、それは違う。僕はもっと重要なはずだ。
「この量をか?よく考えてみろ!」
「それはそうだけどもよ、まだわかんないだろ?」
わかんない?わかるよ。
「わかるに決まってるだろ!僕は真面目な商売しに来たんだよ!なのにこのザマか?この量は大手がやる量だぞ!」
一息でそう言ったので、かなり息が荒くなった。
自分でもみっともないと思う。
しかし、僕は何も間違ってないぞ。
「し、仕方なかったんだよ!私だって…その…」
誰かに何かを言い返される感覚、それは本当に久しぶりだ。
こんなに鼻につくとは。
「言ってみろよ。」
「…いや…なんで…も…ない。ごめん…。」
少し静寂が訪れた。
昨日の夕飯も、多分レトルトカレー。
黒ずんだ雨漏りの跡もすこし肥大化している。
そんな感じに、なんとか沙羅に顔を向けないようにする。
その時、空気を刺したのは雫だった。
「ま、まあ、どっちも一理あるよ、一言で片付かないのはわかるでしょ?ね?今日はそれが目的じゃないでしょ?」
本当なら言い返していたところだが、言葉は出なかった。
このまま議論を長引かせるのは、多分得策じゃない。
「…そうだったな。」
「私の部屋使っていいよ。2階いこう!」
切り替えの速さだけは一人前だな。
雄志と篤なんて、まだ顔曇ってる。
しかし僕のせいじゃないんだからな。
これ、絶対沙羅のせいだ。
その感覚だけは残して、2階の階段を上がる。
「いいよ、この部屋!」
そう言って沙羅は扉を開けた。
瞬間に理解する。
これは、ただの女子高生の部屋じゃないと。
置いてあるアニメの推しグッズ。
鏡。
大量の課題。
クローゼット。
視覚じゃ普通の部屋なのに、おかしいんだ。
なんてったってさ。
タバコ臭いんだよ、この部屋は。




