↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
社会貢献プロジェクト:開幕編
PR
20/50

Log 20:正論の代償

銀の扉を開けると、その中は普通の民家になっている。

そのまま家を店にした、って感じの典型的な例。


「この部屋が在庫入れらしい。この紙に、どれがどれだけ在庫あるかメモって欲しいんだそうだ。」

「なるほどな、ってか在庫管理下手すぎじゃないか?」

「それは…うん、俺も思ってた。」


なんか久しぶりに篤と意見一致した気がするんだが。


「まず、何で九月に鍋つゆこんなにあんだよ。誰も買わないだろまじで。」


篤も痛そうに目を細めた。


「飴も、データでは5個段ボールあるはずなのに2だし。」

「…ここの他には在庫入れないって言ってたし、多分ここにあるので全部だな。」


その時である。

僕は奥に山積みになった何かを見つけた。


「あれ…なに?」


ポリ袋に段ボールが入れられている。


「ショウミキゲンギレ…」


一つ一つの段ボールに、そう書かれている。

その文字だけ、異様に強い字だった。

つまりここに山積みになったもの、それの正体は売れ残った過去の商品というわけだ。


「いや…うそ…。」


他にも、あるあるあるある。

店頭に並んでいるものより、賞味期限が短いものもある。

先入れ先だしができていない何よりの証拠だ。


「こりゃ…救いようがないぜ…?」


篤にそういうが、あいつはどうやら何も聞いてないみたいだ。

平然とした顔で、ふむふむと記録している。

そして急に声を出す。


「伸び代だらけ、ってことだろ?な!」


馬鹿だなまじで。

伸び代じゃなくてセンスも皆無だっていってるだろ。


「いや…まあ…どうだろ。」


倉庫にこびりつくものは、全部目障りに見える。

昨日の晩御飯であろうカレーの匂い。

天井の角は黒ずんでいた。


何より否定しきれない僕自身が、ほんとに情けなかった。




「あ、ありがと〜。」


店内は意外にも繁盛しており、子供で溢れかえっていた。

どうやら今日は半日で学校が終わるらしく、

ここまで人が増えたという。


一人一人の笑顔が、やはり日光に照らされる。


刹那、目の前の子供が平成30年の100円玉を落とす。

しゃがんでそれを拾い上げると、子供はにっと笑った。


「ありがと!」


靴が擦れる音が、やけに耳についた。

狭い店なのに不思議と息苦しさはない。

ふと周りを見ると、レジ前には大行列。


先ほどまで篤たちとご飯を食べていたところは、

もう占有されている。


僕はこの時、『《居場所》を売っている』というのが少しわかった気がする。

絶対に分かりたくないし、矛盾だらけのクソ理論だと思ってた。


店は品を売るものだって。

そんな抽象的なものを売りにしていたら、

絶対に儲からないし生産性ないんだって。


でも、賑やかな声を聞いていると感じるのだ。

何だか僕だけ孤立してるんじゃないかって。


そんなのいつものことだったのに。


「えーこれおいしいんだ!」

「センスいいなぁ君!」


雄志と雫は、商品の横に並んで子供と話している。


僕にはできないことだった。

子供と対話するなら、経営戦略考えようってなる。


以前足りない分は全部僕が補えばいいって、そう言ったよね。

違ったかも。

僕が、補われてるって感じるんだよ。


床の一点を見つめ、立ち尽くす。


「誠くん?」

「っん、なに?」


急に話しかけてくんなよ。

誰かと思えば、やはり沙羅だった。


無神経で、バカ。

だけどそれを取ったら面白くないのは不思議だ。


「ぼーっとしてたから話しかけちゃったw

いつまでいてくれるの?」


そう言えば決めていなかった。

狭苦しいここに、いつまでもいたいとは思わない。

いつもならいつ帰ろうかと自然と浮かんでくる。


なのに、今日は一回も思わなかったな。

疲れてるんだ、きっと。


「営業時間何時まで?」

「いや…その、今日は大事な来客あるみたいでさ、3時ぐらいになったらバイバイできない?」


…は?

正直少しムカついた。

こっちは“来てやってる”わけで、来たくてきたわけじゃない。


「それは自分勝手がすぎるんじゃないか?」

「わかってるんだけど…ごめん!」


手を合わせて、こちらに向ける。

目を閉じた瞼が震えている。


僕のことが、どうやら怖いらしい。


「殴りゃしないだろ。いつだって。また今度来ればいい。」

「…!ほんと!?」

「嘘なんて非生産的なことしねぇって。」

「やた!」


沙羅が無邪気に笑う姿は、何かが満たされる感覚を取り巻いた。

時計を見れば、もう14:30を回っている。


「これですか?はい!置いときますね!」

「雫〜!手伝う〜!」


その側で、雫は品出し、篤は店の外で客を引き入れる。

いやもちろん法律の範囲内でね?

雄志は沙羅ママとレジ番回してる。


僕と沙羅は、何もしてなかった。

沙羅は何かしてた途中だったみたいだけど、

僕はずっと立ってただけ。


僕が全部補うなんてでかいこと言ってさ。

これ、僕がいなくてもいけるよね。

売り上げ、多分上げられる気がする。


「沙羅…。」


雫の手伝いをしに行こうとする沙羅を、僕は引き留めた。


「ふぇっ?なに?」


僕は、ここにいていいのか。

ここに必要なのか。


そう言おうとしたんだ。


「…がんばってるな。」

「なにそれっ。おじいちゃん?」

「何言ってんだよ!」


また、この感覚。

何回考えたかわからない、この思考。

頭の中で綺麗に消し去りたいのに、ノイズが必ず残るんだ。


「雫たちも聞いて〜!」


甲高い声は、頭が痛くなるほど耳障りだったのに。


他のことに夢中で、そっちに意識が行かない。

木が軋む音が響き、レジの音や誰かの笑い声が響いた。


「まこっちも手伝ってよ!男の子でしょうがっ!」


いやまあ…とりあえず、忘れることにする。


「うるせぇ行くわ。」




「みんな今日はありがとね〜。誠くんに言われたこと、全部検討してみるよ。次はいつ来てくれるのかな?」


14:58。

いつもなら模試終わりに友達と飯でも食べてる。

解き直し、って感じで勉強しながらね。


「未定っす!」

「あら残念!お菓子いっぱい用意して待ってるからね!」

「いやそれだと赤字じゃないですか!」


僕がそう言うと、周囲が笑いに包まれた。


だけど、僕は見逃していない。

沙羅が、沙羅ママが。

爪をいじるし、目が泳ぐし、足が小刻みに動いてるし、髪をいじってる。全部、ソワソワしてる証拠。


「ま、じゃあ気をつけていくんだよ!」


やけに早口で、すぐ帰そうとしてる。

乗ってみるしかない。


「そうですね!」

「早く来るよおばちゃん!」

「…あぁん?」

「ひぇぅ!」


雄志が怒られ、またみんな笑う。

なのに沙羅と沙羅ママは、やっぱり笑わない。


「じゃねー!」


雫の言葉を最後に、僕たちは背を向けた。

人通りが少ない商店街。

子供もそんなにいなくなった。


何だか少し薄気味悪いその景色は、商店街を商店街たらしめている。介在する空気が冷たく、なんだか不安になる。


もう一度沙羅たちの方を向く。

二人はそそくさと店の中に入っていった。


明らかに慌ててるっぽい。

とってつけたような態度も、やはり気になる。


そうやって考えていたその時だ。

話す篤たちのスレスレを、黒い車がよぎった。


「いやでも、すっごいいい人だったよね!」

「マジでそう。」

「ありゃ愛されるわけだな。」


そんな話の横、僕だけがその車の行方を追っていた。


大事な来客、ね。


何かが背中を伝った。

胸騒ぎがする。


過去の僕ならすることのない思考、するだけ無駄な思考。

僕は、ほんとにどうかしたらしい。


…でもまあ、しばらくはこれでいいと思ってる。

しかし、気がかりなこともある。


車から出てきた数人の男が、黒いスーツを着ていたって、

いちいち気にしたら終わりなんだ。


ただの考えすぎ、だろ。


「まこっち?」

「ごめんごめん、なに?」

「いや話は聞けよ!」


笑いで、全部忘れればいいよ。

僕はあいつの二の前にはならない。


そう…あいつの、二の前には。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。