Log 19:居場所の値段
急いでAIを使う。
“飴細工20個入りの相場はどれくらいだ?1個消しゴムサイズだ。”
“およそ150円〜200円ほどです。”
“20個50円は赤字か?”
“ほとんと生産性がありません。包装ありなら赤字です。”
「いや、それ利益出てます?」
直球で当てた。
流石に50円はやばすぎる。
一個当たり2.5円、破格どころの騒ぎじゃない。
この時点で、僕は察していた。
この店は、恐ろしいほどにマネジメントが下手だ。
と言うか、商売に向いてない。
客読み外し?いやそんなわけない。
集客レベルの値段、こりゃ地元に愛されるわけだ。
でも商店街側の組織からしたら面白くないよな。
再開発で標的にされるのにも、まあ頷ける。
「あんまり考えたことないなぁ…
うちは地元の方に向けた商売だし?」
ここははっきり言うべきか…。
「いいですか?」
みんな、息を呑む。
「客単価、低すぎです。普通にこんな店は日本に数えるほどしかないと思います。文化祭レベルのマネジメント力です。」
「あ、あはは…主人が最近経営やってなくてさ…。」
いや、そうじゃねぇだろ。
「なんでそうなるんですかね。一応経営者ですよね?利益、1ヶ月にどれくらい出てるんですか?」
「…えっと…仕入れが20万いかないくらい…。」
やばい止まらない。
でも僕は悪くない。受け答えが無能すぎる。
「いやいや、売り上げ、は?」
「………6万…行けばいい方………。」
「何でそれで!値段設定を変えようとしなかったんですか!!!」
ガキでもわかる。
20万円が6万円になって、何の利益もないことぐらい。
メダルゲームみたいなものだとでも思ってるのか?
「一部の層から固定支持があったとしても流石にダメです。利益が出なければそれまですぎますよ!」
「で、でも、愛されたいじゃない?」
地元に愛されたいとか、そう言うのがわからないって言ってるんじゃない。いらないって言いたい。
でも、その苦笑いの隙間に入れ込む余裕はない。
沙羅も、なんか少ししゅんとしてるし。
と思ったけど、こればっかりは遊びじゃない。
文化祭の時みたいに、どうせ消えゆく金じゃない。
リアルマネーなんだ。
「あの、経営に感情持ち出してるその時点で負けてます。感情なんて不合理なもんは捨てましょう。愛されたい愛したいじゃない。売れるか売れないか。儲かるか損するか。それだけです。」
「ちょ、誠…」
雄志が僕の腕を引っ張った。
ハッとなる。
僕としたことが、少し言いすぎたのかもしれない。
「…すみません、言いすぎました…。」
レジを見つめ、沙羅ママが俯角に目を落とす。
ただ一旦を見つめるその姿に、哀愁が漂いに漂っている。
「いや…いいんだよ。それが結局正論、だしね。」
その言葉は、僕にとってまさに褒め言葉のはずだった。
無駄を省き、最も生産的な言葉を放つ。
それがどれだけよいことか。
なのに、なんか変。いや、間違ってないだろ。
「ま、まあまこっちも熱くなりすぎだよ!ほら、常連さんざわついてる!」
ふと入り口の奥をみれば、老人たちがざわざわと会話している。
僕は誰なのか、何があったのか。
そんなところだろうが、僕が見た刹那に目を背けた。
「あ、ご、ごめんねぇ?お手伝いさんが来ててさ!指導受けてたところなのでありますっ!」
沙羅ママは、そんなふうに受け流していた。
すごいと思ったよ。
僕なんて、正論言われたら粗探しにしか目がいかない気がする。
「なるほどねぇ、おたく、随分頑張ってるもんね!」
「あんまり無理しちゃいかんよ?」
老夫婦はそう優しく話しかけるが、
僕には“その優しさの理由”が見えている。
まあ前提、飴の値段は規格外にネジ外れだ。
そしてその他の商品も、まるで黒字が出るとは思えない値段設定をしているのだ。
ポテチが100円て、一体いつの時代だよ。
そこで、よく考えてみてほしい。
仮にも、少し遠出するまでもなく格安で物が売ってある。
こんな都合のいい店、どうしてなくすことができるだろう。
この老夫婦たち、
いや地域のやつらはこの店の廃止には絶対に反対する。
そこには、ただの下心があるだけ。
…いや、ほんとの心配がないってわけじゃない。
でも、割合が違う。
人間の感情なんざ、それが関の山なんだよ。
効率で片付けられないものには、必ず限界がある。
この値段設定がおかしいことが本人に伝わってないのも、
きっとそれまでのことだ。
「そんな無理なんてしてへんですよ!」
「それならよかった!うちの商店街も再開発の話きてはりますけど、絶対しめんといてね!この店は!」
「もちですよ〜。」
そんな二人の会話を聞いていると、ふと思う。
やはり私欲まみれの、欺瞞的な言葉たちだ。
「あのぅ、なんでこの値段でやってるんすか?」
雄志おまえ話を聞いてなかったのか、と思った。
地域に愛されたい。その非効率な理由だけ。
しかし、沙羅ママはもう一度こちらを向き直す。
「みんなも、ない?変えたくても、変えれないみたいなことさ。」
床のタイルのただ一点を見る沙羅ママは、少し悲しそうだ。
僕も腕を組んで考えてみる。
変えれない、そんなの僕の中の全部だからだ。
思想も、性格も、崩れたらもうそれは僕じゃない気がした。
「そんなに重い話じゃないんだけど、うちの店はずっとこれでやってるし、その圧?もあるんだよね。」
理解できない。
圧など、突っぱねればそれまでだろ。
「いや、圧なんて正直形而上じゃないですか。無視すればいい。そんなもの受け入れても何の生産性もないと思いますよ。」
「それでも、ずっとやってきたことを変えるってのは、勇気いることなんよねぇ…。」
沙羅ママはそう言うが、僕は納得するつもりはない。
「それでも、利益のためにするのが普通でしょ。」
「そういうの…苦手だし。それに、子供からお金たかりたくないんだよね。値段あげれば、それを締め出すような感覚でさ…。」
わからんでもない。
でも、それを切り捨てることが効率化であり、
再興なんだ。甘えていたら何も変わらない。
「甘えても変わりません。
この店は、何を売ってるのか考えた方がいい。」
その時、黙っていた沙羅に腕を掴まれた。
「正論、だね。」
なぜか半泣きで、そう言うのだ。
「ちょ、何で泣いて…」
「うちの店は、居場所を売ってるようなもんなんだ。古くからの常連さん、家出した子供、お金があまりないご老人、観光人。利益より、大切なこともある…んだよ?」
それでも目元はキリッとしていて、
その言葉がいかにも正しいように演出させていた。
風で、飴の入った袋が床に落ちる。
それでも僕は、納得しない。
僕が僕を形成するために。
生産性は、絶対だ。
…じゃないと、困るんだ。
「…ない、ないと思う。再現性もないことを続けられると思わない方がいい。再興したいんでしょ…?
なら、それなりの覚悟は持ち合わせるべきだよ。
何の苦労もなく、効率も生産性も、客足も売り上げも、居場所も。全部手に入るなら、そんな楽なことはない。」
一瞬の静寂の後、沙羅の足が動く。
しかし、反論しようとする沙羅を止め、沙羅ママが喋り始めた。
「…検討、する。とりあえず今日1日は、うちの経営見てってよ!」
無理に作られた笑顔が、日光に照らされた。
沙羅ママのその笑顔が、何だか苦しそう。
先の言葉も捻り出した言葉なのだと思う。
それに免じて、今日の経営を見てやろうと思うよ。
「わかりました、そうさせていただきます。」
そう言ったのはいいが、何の進展もないような経営。
常連のお年寄り、100円を握りしめた子供。
沙羅ママの優しい声。
同じことの繰り返し。
僕は、たまに袋詰めを手伝ったりしてみたが、
だから何って話だ。
僕の目的は指定校だ。
このまま何も得られないなら、
このプロジェクトは生産性皆無だったということになる。
「誠、沙羅ママが在庫みてきてーだってよ。」
篤がそう言ったことで、一気に現実に戻った。
「僕に?」
「俺と誠の二人だぜ。」
そう言い残すと、
篤はレジ裏の側の扉からバックヤードに潜っていく。
「ちょ、まて。」




