Log 18:優しさの値段
9/2
「誠、来週の日曜とか空いてたりする?」
昨日の一件から、僕はずっとグループラインを見ていなかった。
どうやらこの言い草からして、
来週の日曜に予定があったらしいな。
「確認するからちょっと待て。」
スマホを開き、予定表アプリを開く。
空白の欄などない。
毎日どこを勉強するかなど、僕は全てを効率で片付けている。
来週の日曜…は、模試がある。
いや流石に模試をキャンセルするのは気が引けると言うものだ。
「うーん微妙かもな。」
「まじ?なら10月になるかもな…。」
その言葉が、僕の肩にドスンとのしかかった。
つまり、僕だけがその日の予定が合わない。
僕の自己中な予定、いやそんなわけはない。
何を考えてるんだ僕は。
模試なんて立派なことじゃないか。
「まあちょっと考えとくよ。」
そんなことを言うと、
篤はOKサインを出しながら去っていった。
そういえば、朝の通学路で篤に話しかけられるたびに思う。
なぜ、こいつは僕のような浮いたやつに関わるのかだ。
生産性の面で考えてみてほしい。
僕のようなやつと関わっても、何もメリットはなくないか?
開口一番に突っぱねてくるようなやつだ。
少なくとも、4月の僕は誰一人として近づけなかったはず。
単なる善意か、あるいは。
…いや、あいつらに生産性なんて考えられるわけないか。
適当に立場が下そうだった僕に話しかけただけ。
それでいい。
逆に、理由を知りたくないような気がした。
今デメがないのなら、
それ以上にもそれ以下にもなりたくない。
“なぁ、模試と友達、どっちが大事?”
気づけばそんなことを打っていた。
今は昼休み。
4限は全く意味のない授業だったよ。
ああそうさ、全校集会だ。
くだらない話を延々聞かされ、何が面白いのか。
それから解放され、今朝のことが頭によぎったわけだよ。
さすがにフルシカトするには限界があるし、そろそろ判断をつけないとまずい。
“模試です。
迷う必要などありません。
友人といることで得られる効果は以下のものです。
1 リラックス効果
2 経験
なんなら、逆にストレスがたまる、と言うこともあります。
希薄でなんの役にも立たない経験など、積む必要もありません。
一方で模試です。
模試の恩恵は凄まじいものです。
1 今の順位
これは、自分の位置を見定め、これからの効率的な動きを算出することに使えます。
2 モチベーション
たとえ順位が低くとも、高くとも、モチベーションが手に入ります。
3 その他もろもろ
今あげた二つは、友人との時間を遥かに超越するほどの効果をもたらします。
しかし、その他にも問題傾向の分析などの細々とした効果も期待できます。
断言します。模試です。”
そりゃ、そうだよなぁ。
当たり前のことを言われてるだけだろうが。
なにを僕は期待してたんだよ。
こう言われるに決まってるだろ。
第一、10月になって何のデメがあるんだよ。
何もない。何もないんだ。
「あ、篤?」
部活の友達と話している篤を、何とか呼び止めた。
「お、決めたか?無理にとは言わないぜ。」
ほら、篤もこう言ってるじゃないか。
「あの…来週の日曜だよね?」
「ああ!」
ここでNOというだかの簡単な話。
でも、それは何かを失う気がしてならないんだよ。
さっきグループラインを見た。
僕の予定が合うこと、それをみんな渇望してた。
ずるいじゃないか。
ずるいずるいずるいずるい。
ずるいだろそんなのは。
どう考えたって、フェアじゃないんだよ。
「いけると思う、多分。」
「よっしゃおけ!なら朝9:30ぐらいに沙羅の家な!」
意外と計画性だけはあるみたいだな。
もう時間を決めてる…。
いや、何言ってるんだ僕は!
今、模試をキャンセルしたのか?
それに見合う対価は本当にあるのか?
考える時間が…たりてないんだ。
僕は悪くない。
考える時間を与えなかった、こいつらが…こいつらが悪い。
そう、だろ?
9/13
「いやぁ懐かしいな、来たことあるかも。」
遠い昔のような。じゃないような。
沙羅の店は、古い雑貨や駄菓子、軽食を売ってる店だ。
はっきりという、というか言っておこう。
まさに、《ジェネレーションギャップに取り残された店》だ。
もう、誰も来ないわけじゃないのがタチ悪い。
老人の常連さん、地域の少数の子供達。
それぞれの感情を読み取っていたらキリがないのだ。
「よし、みんな揃ったな!」
篤がそう言った。
雄志、雫もいる。
ちなみに沙羅は、健気に店の手伝いをしてる。
ふとスマホを見れば、9:30だと時計が差した。
というより通知でそれを知る。
【申し込みしていただきました模試の受付は、ただいま終了いたしました。この度はご応募ありがとうございます。次回はぜひ、ご利用ください。】
だとよ。
この気持ち、この気分。
この道を選んだことの弊害が、今ひしひしと湧いてきた。
本当にこれでよかったのかは、本当にわからない。
これから起きること次第で、僕はプロジェクトを抜ける。
生産性がないと判断するか、しないのか。
僕の気持ちの天秤は、明らか片方に偏っていた。
「何も変わってないなぁおい。」
思わずそう呟いた。
記憶の海に溺れていた一片のそれは、完全に一致する。
「誠くん、久しぶりじゃない!」
沙羅ママは49歳…かな?
お父さんも同い年だが、まだまだアグレッシブな印象がある。
「そうかもですね。」
「早速今日は、1日ゆっくり見てってねぇ?」
沙羅ママは…あそうそう、地域では昔から沙羅ママの愛称が浸透してるから、僕もそう呼ぶことにする。
沙羅ママがそう言うと、
みんな頷いて近くのカウンター席に座る。
席はざっと見て20席あるかないかぐらい。
「あら、美来さん随分と賑やかなこと!」
「そうなのよ〜。」
沙羅ママの下の名前は、美来だった。
いつも呼ばない名前だと、意外と忘れるものだな。
そんなことを思っていると、
そのお婆さんは名物手作り飴を買って行った。
かなり凝ってる包装で、不覚にも感心した。
「へぇ、飴なんてあるんすね。」
そう言ったのは雄志だ。
舐めた口調とも捉えれるその口ぶりは、
いつ聞いてもバカらしくて笑いが湧く。
「これはね、うちで作ってる手作りのやつなのよ。」
昔その工程を見たことあるかも、なんて思っている時。
僕はふと値札を確認した。
しかし、そこにあったのは恐ろしい光景。
「ん、ちょ、ちょっと待ってください。」
「ん〜?」
そこには、【20個50円】と書かれているのだ。




