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「3月にはもう…終わるんだ。」
「いや、え、は?」
わかってたけど、変だ。
昔から地元に愛され、地域と共存共栄。
いい印象しかないし、僕も思ってる。
利用したことはないけどね。
そんな店が、どうして急にそうなのか。
「借金とかもそうだし、再開発の話も来ててさ…。」
なるほどそう言うことか。
過疎った商店街、売上が特別多いわけじゃない店。
再開発の際の退居に、もってこいの店ってわけだ。
合理的で、何も間違ってない。
僕だってそうする。利益が出るようにマネジメントするのが、店の責務ってもんだろ?
だけど、なにかが引っ掛かるんだよな。
「それを…それを…さ!それをさ!」
何か覚悟を決めたように、沙羅はそう言った。
僕も沙羅の方に向き直り、腕組みをして聞く。
「プロジェクト!プロジェクトで私の店を…助けて欲しいんだ。」
正直、それはただのエゴに過ぎない。
みんなの時間を使い、私情を扱うと言うこと。
それは簡単にはいかない。
相当な信頼と、相応の対価がなければ行けないのだ。
「…なるほど。」
でも厄介なのは、どちらも持ち合わせている状況なのだ。
信頼がない、そんなわけないし。
指定校という、とんでもない対価まで用意されている。
提案すれば必ず承諾されるだろうとは思う。
「確実にそれ承諾されると思うけど、なんで言わなかったの?」
単純な疑問。
「いや、なんか…言いづらくない?ほら、私って昔から弱虫だし!みんなにガッと行けるタイプじゃないんだよ…。」
そんな性格だから、生産性もない、人に縋ることしかできないようなやつに成り下がるんだろ。
沙羅はまあ、それの方が合ってるとは思うけどさ。
理由はなんとなくだよ。
「なるほどね…で、僕にそれを提案して欲しいってわけ?」
「さっすが、話が早いなぁ!」
いやべつに受諾してないけどね?
「少し考えさせて。」
「…わ、わかったよ。ごめんね。図々しくて。」
「いいさ。明日また話そ。」
そう言って、イヤホンをして階段を降りた。
その中で考える。
これは、乗るべき船なのだろうか。
生産性があるのだろうか。
三月、三月まで半年近くあるわけだし。
それまで時間を割くのは、かなりの負荷がかかる。
勉強しまくって指定校を取るか、
一発にかけてみるのか。
普通に考えて、
文面だけなら前者のほうが、圧倒的にメリットが多い。
“感情”というクソみたいな非合理に、僕は加担したくはない。
それを切り捨てないと、三月の僕は今の僕に顔向けできないはずだ。断捨離すべきだろう。
そう、なんかいも自分に言い聞かせたのに。
プロジェクトを進めながらでも、勉強はできるとか。
まだバカの観察は未完了だとか。
そんな言葉が、6割ぐらいを占めてたんだ。
家のベットに横になりながら、
僕、雄志、篤、雫、沙羅のグループラインに文面を書く。
グループ名は「夏祭り!」だ。
夏祭り前に作られたグループだからな。
その相談をしてたのが懐かしい。
そんなことを思っていたら、
完成してしまった。
沙羅の店を助けよう、という提案の文面が。
送るか、10分迷ったよ。
指をトントンさせ、落ち着かない自分が情けないと思った。
『提案するだけ、してみようかな。』という考えが、最後だったのかもしれない。
次の刹那、グループラインに長文が投下されていたからね。
「…え?」
一瞬で、既読が2ついた。
ポンポンと、3、4とついて、全員僕の文面を目撃した。
早すぎないか?
ずっとスマホ見てたとしか思えない。
なんで?なんのために?
ふと、思う。
プロジェクトのテーマ、探してたのかなって。
何かわからないような、そんな感情が込み上げる。
まただよ。もう鬱陶しい。
数十秒して、みんながその文を読み終えた頃だった。
『まじ?いいやん!』
『普通にやりたいんだけど。』
『おもろそうじゃね?』
肯定、肯定、肯定。
僕が期待したはずの否定は、一件も見当たらない。
何も考えず、今楽しそうだからと判断を即する。
きっと、こいつらはそうやって生きてきたんだ。
僕とはやはり、違うみたいだな。
『沙羅はそれでいいの?』
『確かに!人の家の事情に首突っ込むわけだし!』
言葉の雨は、沙羅に向いた。
『いや、これ私が提案しようとしてたことだし!
みんながいいなら、ほんとに嬉しいな!』
その文面じゃ、なんか僕が言葉を略奪したみたいになるじゃないか。
まぁいいけども。
『ほんとにやる?』
僕がそう打ってみた。
僕だって不確かな生産性に縋りたくはない。
成功する前提で話を進めないと意味がないのだ。
『当たり前だぜ!』
『やらない理由思いつかないし!』
『まこっちのマネジメント力あれば余裕じゃない?』
みんな前向きだな。
沙羅の家の、なんの事情も聞いていないくせに。
借金1兆円とかだったらどうすんだよ。
でも、やると決まれば徹底的に、だ。
成功しなきゃ僕の顔に泥がつく。
というか耐え切れる気がしないからね。
『なら徹底的になるからね。
まず近年の売上げ高を洗い出す。』
続けて打つ。
『次に客層。その次に立地、競合。全部洗うから。』
そしてまだ打つ。
『その上で感情論とかまじいらない。ガチで行くよ。』
すると、みんなの反応は予想通りだった。
『なんかこわい!w』
『ガチガチやん!』
『やる気出てるのか出てないんだかわかんないぞそれだとw』
やる気に満ち満ちてるぞ僕は。
こいつらは、軽すぎる。
いくらなんでも軽すぎる。
小さく舌打ちし、僕は大きなため息をついた。
効率も何も考えられないただのバカと、
僕は公平な仕事ができるのだろうか。
本当にこれに加担することが、後の生産性につながるのか。
ずっと、そんなことが頭の中を流れている。
その間も、グループラインでは話し合いが続いていた。
いつ現地に集まろうかとか、どんな感じなの?とかだ。
プライバシーも何も考えておらず、稚拙の極みである。
「これで…いい。」
少し拍を置いて、僕は呟く。
こいつらは、これでいいのかもしれない。
足りない部分は僕が全部補えばいい。
それが一番効率がいい。
だろ?
いちいち注意して改善や修繕を待つより、
僕が先に全部の可能性を潰してまわればいい。
協力も感情も何もいらない。
何が僕を突き動かしているのか、それすらわからないし、
意味のあることなのかも、まだわかってない。
これは、きっと僕を試せる大きなチャンスだ。
そうやって自分を説得する。
しなければ、やっていけない気がしたんだ。
胸の中で湧く、その何かを鎮めるために。
「ご飯いらないの~?」
「はいはい今行くからまって!」
『そうと決まりゃ、暇な日を教えてほしいな!』
篤のそれを最後に、僕は億劫にも足を動かした。




