↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
社会貢献プロジェクト:開幕編
PR
16/51

Log 16:三月

9/1

こういう日、鬱だと思う奴と思わない奴がいる。

前者は普通で、後者は僕である。


というのが、昨年までの僕。

今年はなんだか、少し億劫だ。


「おう誠ぉ………。」

「どうしたんだよそんな魂抜けた顔して。」


篤が話しかけてきたかと思いきや、その顔は見るに耐えない。

思わず口を手で覆ってしまった。


「て、徹夜…した………。」


バカのやることはどこまで行ってもバカだったんだな。

まぁ、これが関の山とでも思っておくか。


「ほんとにバカなのかお前。」

「いやバカだね俺は!」


その声が思ったより甲高くて少しビクッとなった。

気づけば、通学路の半分まで来た。

なんだか早いな、と思いながら篤の方を見る。


「ん?どした?」


なぜ見たのかはよくわならない。

すぐ目を逸らしたし、それなりの理由はないと思った。


「いや、なんでも…。」




「というわけでですね、今季も始まるわけですが、えーっ何話そうとしてたんだっけな、えーっ、あ、そうそう…」


はっきり言う。うちの校長はとんでもない大馬鹿者である。

ただの無能である。クソ野郎である。


「あのね、夏休みのうちにいろんなことありましてね、中でも特に印象的なのはこの高校の生徒に助けられたこととか、歯磨きしながら気絶してたこととか……」


いやマジで興味ないし、こんな話をかれこれ数十分し続けている。話が進まないし、尻が痛くなる。


「無能…。」


つぶやいた。


論理的に破綻してるアイツが話すとこうも話が進まないのだな。


「えっまじおもろいですよねw老人と間違えられたんだぜ?

あとね、あーあとえー…」


ウケ狙いのつもりか?誰も笑ってねぇぞ。

大声あげてやろうかと思ったけど、やめといた。

後ろに篤がいて、なんか遠慮したんだよ。


「なぁ誠…校長の話長くね………?」


バカでもわかる校長のゴミ具合ってなわけか。

あーまじ尻痛い。


「やばすぎるほんとに。僕が校長やった方がいいまであるぞこれ。」

「それは舐めすぎ!w」


こいつとの会話の方が、よっぽど笑みがあるってなもん。


「ちょっとそこ!話さないでください!私が話してますよ!」


校長は誰かを怒った。

あんなのに起こられるなんてどこの可哀想なヤツなんだ?


そう思って視線を上げると、校長の指はこちらに向いていた。


「…は?」


言葉には出さない、というか言葉にならないその一言は、

僕の中の何かを貫通した。


「えぇみなさんとあのような者たちを差別するべく、とあるプロジェクトを開始しようと思いましてね…」


いや、済まされないぞ。

戯言は家で言え。


ここで声を上げてもなんの生産性もないわけだが、

ほんとにムカつく。


「ま、誠ごめんな…。」

「いや、篤は悪くない。あの無能が悪いだけだ。」


本当のことだろう。

考えてもみろ。

あいつと僕が天秤で釣り合うわけない。


「その名も《社会貢献プロジェクト》!」


なんだそのバカの考えたような名前は…いやバカだったな。


「三月、三月です。それまでに最も大きな功績を叩き出した者には、将来の指定校を約束します!毎年開催してるんですが、一年生と二年生は大チャンスですよ!」


ん、いや…は?

舐めてるのか?

指定校ってのは、評定がないと大学側も認めないだろ!


「例え評定がなくても、県内トップの公立校である我が校だから!校長推薦で指定校が通るのですよ!」


だめだ本当にムカついてきた。


確かに社会貢献は必要だ。

でも、それと勉強を同列に列挙しちゃダメだろ。


評価軸がおかしすぎる。これは誰が見たって綻んでる。


「それだけでーす。閉会の言葉お願いしまーす。」


そうふざけた返事で、校長の話は終わる。

僕は納得いかず、歯を食いしばった。


僕が4月から黙々と頑張ってきたものが、全部壊された気がしたんだ。

ふざけたもので僕が壊されてなるものか。


でも、変えられないものはかえららないのだ。


「閉会の言葉。」


閉会しようとしている。

僕の中の何かが否定され、不愉快だ。

そのプロジェクト、必ず取る。




「まこっち怒られてたねー?」


やかましい。

所詮傍観者の弱者が。


「うるさいなぁ、でもあの校長舐めてる。」


ひしひしと込み上げる何かの闘争心。

自分でもよくわからない非生産的な何か。


無駄は、排除するべきだ。


「ねね!」


そう思った矢先、沙羅が口を割った。

そういえば、自然と僕の机に4人が集まってるな。

変な気分だ。


「このままの成績だと私大学いけないかもじゃん?」

「いやそれ沙羅が悪いだろっ!」


篤がそう言うが、沙羅はむすっとした顔をして言葉を続ける。

何を言われようと、非生産的なことに変わりはない。

それを前提において聞くべきだ。


「ここ5人でプロジェクトやろうよ!」


…。いや、たしかに生産性はないのかもしれない。

僕の成績ならな。


一般から見て高学歴な大学に入学するのは、僕の中で特別難しいことじゃない。


むしろもう軌道に乗っているようなものだ。


しかし、断りたくないのだ。

何に振り回されているのか、本当にわからない。


わからないとか、「何」とか、そんな言葉ばっかりさっきから出てくる。そんな思考自体非効率だからやめろ。


「いいなそれ!雄志も雫もどうだよ?」


なぜか質問対象に僕がいない。

なんでや、僕には聞かないのかよ。


「僕の意見は無視?」


そういうと、篤が不思議そうな顔を浮かべた。


「え、お前が参加しない可能性ある?」


少々噛み砕くのに時間がかかった。

僕の経験則がこいつらに理解されてたまるかよ。


「な、なんで?」

「いじっぱりで、負けず嫌いなお前が怒られたんだ、多分もう決めてるのかなあって!いや、嫌ならいいけど!」


なんでそんなこと思うんだよ。

…いや断りはしないけどさ。


「まぁいいよ。内容次第で僕もやる。」


くだらないことに割く時間はない。

昨日書いた手紙のことを思い出すんだ。

未来の理想像に、今からでも少しづつ近づかないと行けない。


「よっしゃ、テーマ決めだな!」


雄志がそう言うと、誰も喋らなくなった。

後先考えず何かをやろうとする、バカの生態である。


「今日は授業ありませんから!みなさん下校です!」


先生が教室に入るなり、億劫そうな喋り方でそう言った。

夏休み明けは先生も辛いらしい。


「ま、まあなんか思いついたら連絡してくれ!」


濁すようにそう言った雄志が、真っ先に教室のドアから出て行った。

前日に聞いたんだが、あいつは手紙をまだ書いてないらしい。


廊下から聞こえる怒号に、僕まで耳が痛くなる。

それに呆れながら僕も、家に帰る支度を始めた。


「ねね、誠くん。」


沙羅が後ろから背中を押してきた。

その手が少しあったかくて、思わず武者振るいする。

少し遅れて沙羅の方を見ると、

目の光がかすかに掠れている気がした。


「あ、あのさ、私悩みがあるんだよね。」


少し、その声が震えていて。

僕は何を言われるのか、聞くのをすこし躊躇した。

だけど、聞きたい気持ちもないわけじゃなかったよ。


「な、なに?」

「今みんなに言い出せなかったこと。誠くんには、話しても大丈夫かな…って。」


僕には言ってもいい、か。

わかってるな。僕の堅実さと有能さをしっかりと。

あの不条理な校長とは違う。


そんな、呑気なことを考えていた時。

沙羅から、不穏なことが流れ出てくる。


「うちの実家、何か覚えてる?」

「ああ、商店街で店やってたな。」


腐ってもこいつとは幼馴染だ。

知らないことはない。

街の外れ、今は完全に過疎った商店街の一角だ。


「それが、どうかしたのかよ?」


沙羅は口ごもっている。

マスクしてるわけでもないのに、鮮明な音がないぐらいには。

指をやり過ぎなほどにいじり、顔を下に向けている。


沙羅は今、完全に逃げている。


「もう行くけど、用ないなら。」

「ま、待って!ちゃんと…ちゃんと話すから…!」


後ろに向き、3歩だけ踏み出した僕の手を、

ガシッと沙羅が掴む。


その力が結構強くて、僕自身逃げられないんだな、と思った。

誰かから逃げようなんて思ったこと、ほ・と・ん・ど・ない。


「あ、あの、ね、店なんだけど、このままだと…その…」


このままだと。

その言葉が出た時点で、

だいたい予想できてしまうこの先の言葉。


別に沙羅の店がどうなろうと、僕に不利益はない。

でも、聞きたくないと言えば嘘になる。


「3月にはもう…終わるんだ。」

「いや、え、は?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。