Log 14:そこに参考書はない。
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「あっぶねぇ、間に合った!」
「電車乗り過ごすからだよ!?」
電車を一本逃し、会場に着くのが遅れてしまった。
雫と雄志は言い合いをしていて、仲がいいのか悪いのかよくわからない。
どうやらまだ花火は上がっていないが、
もうすぐ上がるようだ。
「ふんはっぱりほへふはい!(うんやっぱりこれうまい!)」
「口に含んだまま話すな!」
フリフリポテトを口に詰め込んだ沙羅に、
篤が思わずそう突っ込んだ。
沙羅は、夏祭りならではのりんご飴と、
フリフリポテトだけ買っている。
どこまでも刹那主義だな。気楽なもんだ。
「まさか誠と花火大会くるとか予想してねぇわ4月の俺!」
雄志がそう言うと、雫が笑って言う。
「えそれな?私もまこっちなんて花火に微塵も興味ないと思ってた!」
勉強勉強、睡眠、勉強勉強、睡眠、勉強勉強。
ゲシュタルト崩壊しそうなほど見た単語、公式。
全部僕のみになって確実に力になっていく。
しかし何かが違う気がして、そのまま最終週に突入した。
篤に花火大会に誘われ、僕は断る理由を真っ先に探す。
でも何も浮かばない。
疲労困憊のせいか、僕はそれを見つけることすら億劫になっていたのである。
「まこっち花火とか見たことあるの?」
舐めてるんか、それぐらいあるわ。
「あるに決まってんだろ俺を何星人だと思ってんだよ!」
以上から、僕はこう結論付けた。
僕が関心を持っているのは、花火ではなく。
こいつらなんだと。
なぜかは知らない。
僕はなんらかのウィルスにでもかかってしまった。
腹立たしいのに、何も言えない。
いつからこうなったんだろう。
「はっはは流石に見たことあるか!w」
「あ、あれじゃない!?」
沙羅が指差したその先に、円形に広がる天空の華が舞っていた。
赤、黄色、緑、白、ピンク…。
空が彩られるのは、見ていて悪い気分はしない。
ただ、この時間でできたことを考えるほど、なんだか悲しくなってくるのは僕だけなのだろうか。
目は花火に向け、手はスマホを持ち、僕はAIを開く。
“なぁ、花火って生産性ある?”
“ありませんね。
あのようなものに生産性を感じる人は少ないと思います。
詳しく言えば、目の保養になる程度の利益はあるかもしれません。
しかし鼓膜へのダメージや、
人が密集しているため、
病原菌が侵入するリスクなどを無視できません。
それらを顧みた時、生産性はないという結論になります。”
まぁそうだよな。
なら撤収するか…。
「………。」
いや言い出せない。
みんなの瞳に映るその華、その瞳自体。
全てが輝いているのに、それを消す理由が見つからない。
なんでだよ、前だったら気にせずぶった斬ってただろ。
そんな葛藤が6割、あとの4割はただ見ていた。
でもやっぱり、僕の中の何かがそれを許さない。
「僕帰る。」
そう言った瞬間、みんながこちらを見つめている。
後ろに上がっている花火に目もくれず、僕をみている。
「ど、どうしたんだよ?」
「い、いや…効率悪いから…。」
篤と雄志が立ち上がり、僕の目の前で止まった。
「お、お前が行きたいってんなら…止めねぇけど…理由ぐらい聞かせろって。」
いやだから、効率悪いんだ。
「生産性、なくない?」
「は、は?」
少しづつ、心が軋むのがわかる。
原因が何か知らないけど、僕の心は確定で軋んでる。
「ねぇ、なんで誠くんってそんなに焦ってるの?」
沙羅がそう言った。
「………。」
なにも、何も言えなくなった。
「友達と遊んでる時なんて、生産性なくて当たり前だぞ。少なくとも俺は、生産性ない遊びはクソ楽しいと思ってるし。」
だからお前はいつまで経っても馬鹿なままなんだよ。
尖った言葉は、やはり喉元に刺さっているみたいだ。
「…そ、そう…だな。」
僕は天才なんだから、理解しろ。
天才は遊ばないのか?いや、きっとそんなことない。
「……まだ……いる。」
明るく言うと、全員花火に向き直る。
きっとどこかに生産性があるんだ。
いや、ないと思うがあると思う。
意味わからないこと言ってる自覚はある。
でもその一言に尽きるんだよ。
ないけど、多分ある。
ちょうど大きな花火が上がったところで、鼓膜が揺れた。
煙の匂いがやけに鮮明だ。
「……これが生産的…ね。」
無理矢理搾り取った言葉が宙を舞った。
シャボン玉のように変えた僕の言葉の代わりに、
雄志や篤の声が顕現する。
「や、やば、このラッシュえぐ!」
最後のラッシュに入る。
何発打たれているか知らないが、とんでもない轟音と、とんでもない光景が広がっていた。
みんなの横顔をみても、誰も気づかない。
「あー終わっちゃうよ!」
沙羅が小声でそう言った。
すると雄志がこう言う。
「終わるんじゃなくて、来年もまたこようって思えればそれで良くね?まだ続きは来年ってことだよ!」
「うひょー!それだ!」
残念な話だが、それは全員の承諾が必要だ。
きっと誰かはこれをつまらないと思ってるはずだ。
「な、みんな!」
雄志がそう言うと、
他の3人がガッツポーズを静かにあげる。
僕は少し遅れ、
できるだけ怪訝そうにしながら手をあげた。
さっきのこともあったけど、なんだか手をあげたくなったんだ。
歪な顔だったと思う。
でもよく考えれば、あの暗い中で顔なんて見られない。
側から見れば僕も賛成側。
くそっ。
ま、いいけどさ。
「なら決まりだな!来年の8\26空けとけよ!」
「ゆーちん気早すぎー!」
花火の音に隠れたが、間違いなくみんな笑ってた。
帰り道、並んで歩いている。
みんなあんまり話さないけど、
この無言が心地いいからだと、勝手に思ってる。
「あ、てかさ、誠と沙羅ってどうなったん?」
篤がそう言った。
ナンパの話か。
「あの件は後日LINEで話した通りだよ。何事もなく帰れたさ。」
「あそこで足動くの、マジですげぇな。」
篤にまじまじと褒められた。
いや、なんか恥ずいからやめて欲しいわ。
「将来自慢できるだろ、友達救った!って!」
「そんな厚かましいことはしないけどね!」
思わず声を張り上げてしまった。
おかげで声が裏返り、みんなの笑いを掻っ攫う。
「あ、将来といえば…例のアレ、やった?」
なんだアレって。
僕の知らない何かでも企んでるのか。
「あーアレか!やったやった!だるかったわ!」
篤も知ってるのか…。
「なんの話?」
僕は思い切って言ってみた。
「将来でアレっつったら、宿題だろ。」
「え、そんなのあった?」
やばい、真面目に知らない。
「あったよ?将来の自分へ手紙かけーみたいな!」
沙羅が知ってて僕が知らないのは、少し癪に触る。
「いや、は?なにそれ。」
「そのまんまだぞ?B 5サイズのやつにかけって。」
「意外とでかいじゃねぇか!」
そんな存在初めて知った。
そんなこと言ってたかよと思い、
僕の頭の中をとにかく掻き回す。
「言ってた…かも…な。」
心当たりは、確かにあった。
完全に忘れていたな。
クソみたいな課題だったから、僕は忘れたんだろう。
課題が悪い。あとでやれば済む話だ。
「はーいやめ!課題の話、やめ!!!」
沙羅がそう言った。
この様子じゃ、何もやってなさそう。
「もっと楽しい話しよ!」
沙羅がそう言ったので、篤がこっちをみて言う。
「なぁ誠、次の週末はどこいく?」
「は、まじ?来週も遊ぶのか?」
別に悪い気はしないけど。
「冗談冗談!」
ああ、そう。
少し悪い気がするのは、気のせいだろうか。
「あーまじ、楽しすぎた!」
「ねー!」
そんな会話は、無情な夏休みの時間と裏腹に、
やはり長く続いていくものだった。
そのまま電車に乗り、夜景を眺めて帰路に着く。
電車の中でやることなんて、何もないさ。
だって今日、
もともとカバンの中に参考書は入っていないから。
もともと入っていなかったかもしれないし、
入れる必要はないと思ったのかも、もうよくわからないよ。




