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生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
夏休み編
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14/52

Log 14:そこに参考書はない。

8/26

「あっぶねぇ、間に合った!」

「電車乗り過ごすからだよ!?」


電車を一本逃し、会場に着くのが遅れてしまった。

雫と雄志は言い合いをしていて、仲がいいのか悪いのかよくわからない。


どうやらまだ花火は上がっていないが、

もうすぐ上がるようだ。


「ふんはっぱりほへふはい!(うんやっぱりこれうまい!)」

「口に含んだまま話すな!」


フリフリポテトを口に詰め込んだ沙羅に、

篤が思わずそう突っ込んだ。


沙羅は、夏祭りならではのりんご飴と、

フリフリポテトだけ買っている。

どこまでも刹那主義だな。気楽なもんだ。


「まさか誠と花火大会くるとか予想してねぇわ4月の俺!」


雄志がそう言うと、雫が笑って言う。


「えそれな?私もまこっちなんて花火に微塵も興味ないと思ってた!」


勉強勉強、睡眠、勉強勉強、睡眠、勉強勉強。


ゲシュタルト崩壊しそうなほど見た単語、公式。

全部僕のみになって確実に力になっていく。

しかし何かが違う気がして、そのまま最終週に突入した。


篤に花火大会に誘われ、僕は断る理由を真っ先に探す。

でも何も浮かばない。


疲労困憊のせいか、僕はそれを見つけることすら億劫になっていたのである。


「まこっち花火とか見たことあるの?」


舐めてるんか、それぐらいあるわ。


「あるに決まってんだろ俺を何星人だと思ってんだよ!」


以上から、僕はこう結論付けた。

僕が関心を持っているのは、花火ではなく。

こいつらなんだと。


なぜかは知らない。

僕はなんらかのウィルスにでもかかってしまった。

腹立たしいのに、何も言えない。

いつからこうなったんだろう。


「はっはは流石に見たことあるか!w」

「あ、あれじゃない!?」


沙羅が指差したその先に、円形に広がる天空の華が舞っていた。


赤、黄色、緑、白、ピンク…。


空が彩られるのは、見ていて悪い気分はしない。

ただ、この時間でできたことを考えるほど、なんだか悲しくなってくるのは僕だけなのだろうか。


目は花火に向け、手はスマホを持ち、僕はAIを開く。


“なぁ、花火って生産性ある?”


“ありませんね。

あのようなものに生産性を感じる人は少ないと思います。


詳しく言えば、目の保養になる程度の利益はあるかもしれません。


しかし鼓膜へのダメージや、

人が密集しているため、

病原菌が侵入するリスクなどを無視できません。

それらを顧みた時、生産性はないという結論になります。”


まぁそうだよな。

なら撤収するか…。


「………。」


いや言い出せない。

みんなの瞳に映るその華、その瞳自体。

全てが輝いているのに、それを消す理由が見つからない。


なんでだよ、前だったら気にせずぶった斬ってただろ。


そんな葛藤が6割、あとの4割はただ見ていた。

でもやっぱり、僕の中の何かがそれを許さない。


「僕帰る。」


そう言った瞬間、みんながこちらを見つめている。

後ろに上がっている花火に目もくれず、僕をみている。


「ど、どうしたんだよ?」

「い、いや…効率悪いから…。」


篤と雄志が立ち上がり、僕の目の前で止まった。


「お、お前が行きたいってんなら…止めねぇけど…理由ぐらい聞かせろって。」


いやだから、効率悪いんだ。


「生産性、なくない?」

「は、は?」


少しづつ、心が軋むのがわかる。

原因が何か知らないけど、僕の心は確定で軋んでる。


「ねぇ、なんで誠くんってそんなに焦ってるの?」


沙羅がそう言った。


「………。」


なにも、何も言えなくなった。


「友達と遊んでる時なんて、生産性なくて当たり前だぞ。少なくとも俺は、生産性ない遊びはクソ楽しいと思ってるし。」


だからお前はいつまで経っても馬鹿なままなんだよ。

尖った言葉は、やはり喉元に刺さっているみたいだ。


「…そ、そう…だな。」


僕は天才なんだから、理解しろ。

天才は遊ばないのか?いや、きっとそんなことない。


「……まだ……いる。」


明るく言うと、全員花火に向き直る。


きっとどこかに生産性があるんだ。

いや、ないと思うがあると思う。


意味わからないこと言ってる自覚はある。

でもその一言に尽きるんだよ。


ないけど、多分ある。


ちょうど大きな花火が上がったところで、鼓膜が揺れた。

煙の匂いがやけに鮮明だ。




「……これが生産的…ね。」


無理矢理搾り取った言葉が宙を舞った。

シャボン玉のように変えた僕の言葉の代わりに、

雄志や篤の声が顕現する。


「や、やば、このラッシュえぐ!」


最後のラッシュに入る。

何発打たれているか知らないが、とんでもない轟音と、とんでもない光景が広がっていた。

みんなの横顔をみても、誰も気づかない。


「あー終わっちゃうよ!」


沙羅が小声でそう言った。

すると雄志がこう言う。


「終わるんじゃなくて、来年もまたこようって思えればそれで良くね?まだ続きは来年ってことだよ!」

「うひょー!それだ!」


残念な話だが、それは全員の承諾が必要だ。

きっと誰かはこれをつまらないと思ってるはずだ。


「な、みんな!」


雄志がそう言うと、

他の3人がガッツポーズを静かにあげる。


僕は少し遅れ、

できるだけ怪訝そうにしながら手をあげた。


さっきのこともあったけど、なんだか手をあげたくなったんだ。


歪な顔だったと思う。

でもよく考えれば、あの暗い中で顔なんて見られない。

側から見れば僕も賛成側。


くそっ。


ま、いいけどさ。


「なら決まりだな!来年の8\26空けとけよ!」

「ゆーちん気早すぎー!」


花火の音に隠れたが、間違いなくみんな笑ってた。




帰り道、並んで歩いている。

みんなあんまり話さないけど、

この無言が心地いいからだと、勝手に思ってる。


「あ、てかさ、誠と沙羅ってどうなったん?」


篤がそう言った。

ナンパの話か。


「あの件は後日LINEで話した通りだよ。何事もなく帰れたさ。」

「あそこで足動くの、マジですげぇな。」


篤にまじまじと褒められた。

いや、なんか恥ずいからやめて欲しいわ。


「将来自慢できるだろ、友達救った!って!」

「そんな厚かましいことはしないけどね!」


思わず声を張り上げてしまった。

おかげで声が裏返り、みんなの笑いを掻っ攫う。


「あ、将来といえば…例のアレ、やった?」


なんだアレって。

僕の知らない何かでも企んでるのか。


「あーアレか!やったやった!だるかったわ!」


篤も知ってるのか…。


「なんの話?」


僕は思い切って言ってみた。


「将来でアレっつったら、宿題だろ。」

「え、そんなのあった?」


やばい、真面目に知らない。


「あったよ?将来の自分へ手紙かけーみたいな!」


沙羅が知ってて僕が知らないのは、少し癪に触る。


「いや、は?なにそれ。」

「そのまんまだぞ?B 5サイズのやつにかけって。」

「意外とでかいじゃねぇか!」


そんな存在初めて知った。

そんなこと言ってたかよと思い、

僕の頭の中をとにかく掻き回す。


「言ってた…かも…な。」


心当たりは、確かにあった。

完全に忘れていたな。

クソみたいな課題だったから、僕は忘れたんだろう。


課題が悪い。あとでやれば済む話だ。


「はーいやめ!課題の話、やめ!!!」


沙羅がそう言った。

この様子じゃ、何もやってなさそう。


「もっと楽しい話しよ!」


沙羅がそう言ったので、篤がこっちをみて言う。


「なぁ誠、次の週末はどこいく?」

「は、まじ?来週も遊ぶのか?」


別に悪い気はしないけど。


「冗談冗談!」


ああ、そう。

少し悪い気がするのは、気のせいだろうか。


「あーまじ、楽しすぎた!」

「ねー!」


そんな会話は、無情な夏休みの時間と裏腹に、

やはり長く続いていくものだった。




そのまま電車に乗り、夜景を眺めて帰路に着く。

電車の中でやることなんて、何もないさ。


だって今日、

もともとカバンの中に参考書は入っていないから。

もともと入っていなかったかもしれないし、

入れる必要はないと思ったのかも、もうよくわからないよ。

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