Log 11:城塞
「みんな会計終わった?」
「おうよ。こっちのテーブルはすんだぜ。」
うぇぇきもちわるい、まじもう食べれない。
声に出さず、顔を保ちつつ心の中で叫んでいる。
「まじもう無理食べれないよぉ…。」
僕の心を読んだのかと言うほど正確な声が、沙羅の口から発せられた。
自分の気持ちが言われること、それはすこし嬉しかった。
「みんな明日学校ちゃんとこいよ!」
「たりめぇだろ!」
笑い声が徐々に遠くなり、いくつかのグループが駅に向かう。
僕、沙羅、篤、雄志、雫もなんとなくまとまって歩いていた。
「誠?」
「なに。」
篤が楽しそうにこちらを見る。
「きてくれて、ありがとな。」
文化祭から何かが変だ。
こいつらとつるむと、ほんとにわからない感情に取りまかれる。
「なんだよ、急に。」
顔を見ず、そっぽを向いてそう返答した。
静かな夜に、バイクの音だけが響き渡る。
そんな中で、それに一石を投じるように、みんなが笑った。
「硬くならないでよ、まこっちー。」
「そうだぞまこっちー?」
雄志と雫が囃し立てた。
何を言っても無駄、生産性を落とすことになる。
だから僕は何も言わない。
何も言わない。
「4月とかのお前なんて、クラスメイトの間でなんで呼ばれてたか知ってんのかよ?」
笑い声と普通のトーンが7:3で入り混じるそんな声で、
篤が言う。
「さぁね。ハデスとかか?」
「それは冥界の王だろ!」
雄志が突っ込むと、なんだかおかしくてみんな笑った。
「生産性城塞って言われてたんだぞ。」
くだらないけど、少しムカつく。
前までの僕なら声を上げていた気がする。
なのに、今はみんなが笑っているから、空気を守るようにした。
「そーかよ。僕の価値に気づいてないなんて、まじアホ。」
そう言った刹那、沙羅の電話のバイブが鳴る。
「あ、私電話!ごめん!」
他愛のない会話、それは意外と長く続くものだな。
僕は今まで生産性のない会話を切り捨ててきた。
だから、他愛のない会話とやらをしたことがなかったわけ。
え、なんで生産性ないことしてるんだって?
今は“アホ”の勉強をしてるから、生産性があるんだよ。
結果としてバカやアホの考えがわかってきた。
僕は無駄なことはしていない。
してないに決まってんだ。
そんなことを頭で考えていた頃、
もう駅のすぐそばまで来ていた。
「もうこんなとこか…。」
僕がそうこぼし、ふと見れば篤たちがこちらを向いている。
「誠、何回も何回も言いたいんだよ。今まで言えなかった分。」
「…は、は?」
月明かりと街の音が入り混じって、変な感じだ。
「ありがとう。」
「お、大袈裟だな…。」
僕がそう言って目を逸らすと、篤が肩を叩く。
「なっ誠、まじで嬉しいよ。お前と仲良くなれたこと。」
世界が静かになったみたいだ。
まるで、僕たちだけがこの世界にいるような感覚。
「てか、まじしつこい!何回ありがとうとか言うんだよまじで!」
しつこいのはまじだ。
この1日で何回聞いたかわかんない。
…別に嫌なわけじゃないけどな。
「わりぃわりぃ、てかお前何番線?」
「僕?5かな。」
すると少し残念そうな顔を浮かべ、雄志が言った。
「まじかあ、俺と篤と雫同じなんよ。」
「えっまじ?」
この3人が同郷とは、なかなか興味深いな。
いつも仲がいいのはそう言うことなのか。
弱いもの程よく群れる、その意味を痛感した。
「確か誠と沙羅は同郷だったよな?」
「そだよ。」
僕と沙羅は確かに幼馴染だ。
でも、一緒にされては困る。
僕は沙羅を求めてない。
沙羅の気持ちは知らないが、僕は僕一人でいい。
「一緒にするなよ、こいつが勝手に生まれてきただけだ。」
「んだよそれ!w」
自分で言ってて文法がおかしかったので、吐き笑いをした。
「私…先行くね。」
不思議な顔を浮かべ、篤が返事をした。
「お、おう。」
トーンが下がったな。
先ほど電話に出てから、沙羅の様子が変なのだ。
僕には関係ないことなのに、気にならないと言えば嘘。
「おい、大丈夫かよ。」
人生で初めて、そんな言葉を吐いた。
「…大丈夫だよ。なんか今の誠くん、昔みたい!」
「は?」
照れ臭そうにそう言った沙羅は、すぐに背中を向けて走っていく。
と同時に、沙羅は手を振っていた。
「じゃねー!」
1を一緒に過ごしただけで、バカは100を語りたくなるらしい。愚かな習性だな。山椒魚もびっくりだ。
「誠は次の電車か?」
「いや、あいつはちょっと街のはずれに住んでてさ、僕の最寄りとは違うんだよね。」
無意識のうちに、僕は手を振っていた。
「そーなん!たしか学校は一緒なんだよな?」
篤の問いかけに僕は脳裏を探す。
「…たぶんな。よく覚えてないんだ。昔のことは。」
自分でもよくわからない。
昔の記憶がクレーターの如く抜き去られているきがした。
「あ、そーだ!」
そう言ったのは雫だった。
指をパチンと鳴らし、少し上を向いて言う。
「なんか沙羅がまこっちは神童って言われてたって言ってたけど?」
神童、ね。僕の嫌いな言葉ランキング大上位。
「神童か。嫌な響きだよまったく。神童なら日本一の私立高校行ってる。」
僕は神童じゃない。神童なんかじゃない。
「僕は神童じゃなくて天才だよ。ま、神ではあるけども。」
「へっ、そんな態度のでかい神いてたまるかよっ。」
雄志がそうほざいたので、僕はため息をついて言った。
「神はいつだって傲慢さ。ってそんなことより、電車次のやつ逃すとやばいから行く。」
電車の電光掲示板を見れば、もう点滅してるではないか。
あと1分で発車だ。
「おい誠!」
走りかけたその時、篤に呼び止められた。
「今度また、遊ばね?」
こちらは、初めてかけられた言葉だった。
この性格が故に、僕は誰かと関わることをほとんど放棄してきた。いや、したくてしてきたわけだが。
何と返せばいいのかわからない。
「お前が時間ある時で!」
「か、か、考えとくよ…。」
幸い5番線はすぐそこだ。
背中で手を振って、僕は階段を駆け降りる。
考えてみれば、こんなことも今までなかったな。
いつもは時間に余裕を持って行動しているから、
今日の行動は反省するべきだ。




