表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

Log 11:城塞

「みんな会計終わった?」

「おうよ。こっちのテーブルはすんだぜ。」


うぇぇきもちわるい、まじもう食べれない。

声に出さず、顔を保ちつつ心の中で叫んでいる。


「まじもう無理食べれないよぉ…。」


僕の心を読んだのかと言うほど正確な声が、沙羅の口から発せられた。

自分の気持ちが言われること、それはすこし嬉しかった。


「みんな明日学校ちゃんとこいよ!」

「たりめぇだろ!」




笑い声が徐々に遠くなり、いくつかのグループが駅に向かう。

僕、沙羅、篤、雄志、雫もなんとなくまとまって歩いていた。


「誠?」

「なに。」


篤が楽しそうにこちらを見る。


「きてくれて、ありがとな。」


文化祭から何かが変だ。

こいつらとつるむと、ほんとにわからない感情に取りまかれる。


「なんだよ、急に。」


顔を見ず、そっぽを向いてそう返答した。

静かな夜に、バイクの音だけが響き渡る。

そんな中で、それに一石を投じるように、みんなが笑った。


「硬くならないでよ、まこっちー。」

「そうだぞまこっちー?」


雄志と雫が囃し立てた。

何を言っても無駄、生産性を落とすことになる。

だから僕は何も言わない。

何も言わない。


「4月とかのお前なんて、クラスメイトの間でなんで呼ばれてたか知ってんのかよ?」


笑い声と普通のトーンが7:3で入り混じるそんな声で、

篤が言う。


「さぁね。ハデスとかか?」

「それは冥界の王だろ!」


雄志が突っ込むと、なんだかおかしくてみんな笑った。


「生産性城塞って言われてたんだぞ。」


くだらないけど、少しムカつく。

前までの僕なら声を上げていた気がする。

なのに、今はみんなが笑っているから、空気を守るようにした。


「そーかよ。僕の価値に気づいてないなんて、まじアホ。」


そう言った刹那、沙羅の電話のバイブが鳴る。


「あ、私電話!ごめん!」




他愛のない会話、それは意外と長く続くものだな。

僕は今まで生産性のない会話を切り捨ててきた。

だから、他愛のない会話とやらをしたことがなかったわけ。


え、なんで生産性ないことしてるんだって?

今は“アホ”の勉強をしてるから、生産性があるんだよ。

結果としてバカやアホの考えがわかってきた。

僕は無駄なことはしていない。

してないに決まってんだ。


そんなことを頭で考えていた頃、

もう駅のすぐそばまで来ていた。


「もうこんなとこか…。」


僕がそうこぼし、ふと見れば篤たちがこちらを向いている。


「誠、何回も何回も言いたいんだよ。今まで言えなかった分。」

「…は、は?」


月明かりと街の音が入り混じって、変な感じだ。


「ありがとう。」

「お、大袈裟だな…。」


僕がそう言って目を逸らすと、篤が肩を叩く。


「なっ誠、まじで嬉しいよ。お前と仲良くなれたこと。」


世界が静かになったみたいだ。

まるで、僕たちだけがこの世界にいるような感覚。


「てか、まじしつこい!何回ありがとうとか言うんだよまじで!」


しつこいのはまじだ。

この1日で何回聞いたかわかんない。

…別に嫌なわけじゃないけどな。


「わりぃわりぃ、てかお前何番線?」

「僕?5かな。」


すると少し残念そうな顔を浮かべ、雄志が言った。


「まじかあ、俺と篤と雫同じなんよ。」

「えっまじ?」


この3人が同郷とは、なかなか興味深いな。

いつも仲がいいのはそう言うことなのか。

弱いもの程よく群れる、その意味を痛感した。


「確か誠と沙羅は同郷だったよな?」

「そだよ。」


僕と沙羅は確かに幼馴染だ。

でも、一緒にされては困る。

僕は沙羅を求めてない。

沙羅の気持ちは知らないが、僕は僕一人でいい。


「一緒にするなよ、こいつが勝手に生まれてきただけだ。」

「んだよそれ!w」


自分で言ってて文法がおかしかったので、吐き笑いをした。


「私…先行くね。」


不思議な顔を浮かべ、篤が返事をした。


「お、おう。」


トーンが下がったな。

先ほど電話に出てから、沙羅の様子が変なのだ。

僕には関係ないことなのに、気にならないと言えば嘘。


「おい、大丈夫かよ。」


人生で初めて、そんな言葉を吐いた。


「…大丈夫だよ。なんか今の誠くん、昔みたい!」

「は?」


照れ臭そうにそう言った沙羅は、すぐに背中を向けて走っていく。

と同時に、沙羅は手を振っていた。


「じゃねー!」


1を一緒に過ごしただけで、バカは100を語りたくなるらしい。愚かな習性だな。山椒魚もびっくりだ。


「誠は次の電車か?」

「いや、あいつはちょっと街のはずれに住んでてさ、僕の最寄りとは違うんだよね。」


無意識のうちに、僕は手を振っていた。


「そーなん!たしか学校は一緒なんだよな?」


篤の問いかけに僕は脳裏を探す。


「…たぶんな。よく覚えてないんだ。昔のことは。」


自分でもよくわからない。

昔の記憶がクレーターの如く抜き去られているきがした。


「あ、そーだ!」


そう言ったのは雫だった。

指をパチンと鳴らし、少し上を向いて言う。


「なんか沙羅がまこっちは神童って言われてたって言ってたけど?」


神童、ね。僕の嫌いな言葉ランキング大上位。


「神童か。嫌な響きだよまったく。神童なら日本一の私立高校行ってる。」


僕は神童じゃない。神童なんかじゃない。


「僕は神童じゃなくて天才だよ。ま、神ではあるけども。」

「へっ、そんな態度のでかい神いてたまるかよっ。」


雄志がそうほざいたので、僕はため息をついて言った。


「神はいつだって傲慢さ。ってそんなことより、電車次のやつ逃すとやばいから行く。」


電車の電光掲示板を見れば、もう点滅してるではないか。

あと1分で発車だ。


「おい誠!」


走りかけたその時、篤に呼び止められた。


「今度また、遊ばね?」


こちらは、初めてかけられた言葉だった。

この性格が故に、僕は誰かと関わることをほとんど放棄してきた。いや、したくてしてきたわけだが。


何と返せばいいのかわからない。


「お前が時間ある時で!」

「か、か、考えとくよ…。」


幸い5番線はすぐそこだ。

背中で手を振って、僕は階段を駆け降りる。


考えてみれば、こんなことも今までなかったな。

いつもは時間に余裕を持って行動しているから、

今日の行動は反省するべきだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ