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Log 12:視野狭窄の箱

◆◆◆




「あっつん、ゆーちん、私どうしよう…。」


3番線、雫の声が走った。


「一昨日のこと?」


雄志の声も走る。


「誠がお前に強く当たってたのは知ってたけど、あいつはそう言う奴、で片付ければいいと思う。」


篤の声が最後に走った。

どうやら雫は、誠との対応で悩んでいるようだ。


「今日のことがあって、根はいい人なんだなって思った。でもさ、先入観てかさ…価値観が変わらなくて。嫌な奴、ってのが抜けないんだよ。」


誰もそれに何も言わなかった。

そして、5番線が出発したアナウンスが入る。

同時に雄志がペットボトルを床に落とした。


「なあ雫、あのペットボトルとってよ。」

「は!?なんでよ!」


何で私が…とぶつぶついいつつ、雫が床に目を向けた。

途端、雄志は猫のポーズを始める。

隣に座っていた篤がドン引きし、雄志が猫の声を出した。


「えっなにやってんのあんた!?」


その声に気づいた雫は思いっきり目を見開いて見せた。


「人ってさ、箱だと思うんだよね。」

「は、箱?」


トーンが落ち、雄志は俯角に目を落とす。

温度差に喉が痛くなりそうだが、雫はなんとか座った。


「きゅ、急にどうした…。」


篤も声を裏返して雄志の背中をさする。


「いや気が狂ったんじゃなくて!」


咳払いを挟み、再び雄志が話し始めた。


「…多分箱だよ。人は。二面生って言葉があるけど、人は二面なんかじゃないんだよ。箱にも色々あるけどさ、最低でも形作るのに4面いるだろ?あ、曲面はなしな!!!」

「な、何が言いたいんだよ…?」


突然始まった何かに、目を締め付けるしかやることがない。

でも雄志は真面目そうにまだ目を落としている。


「つまりよ、見せてる面と、見せてない面。全部が全部違うはずじゃねってこと。

正面からみた色が黒なら、黒だって決めつけるのが今のお前だよ。」

「あ、そーなの…?」


動揺と好奇心が入り混じっている。


「逆から見たら白やん!ってなるかもしれんじゃん。

お前らだってそうじゃね?」

「お、おうよ?」


わかるようなわからないような不思議な気持ちになる。


「多分、あいつは4面5面どころじゃないんじゃねーかな…。」


雄志は一旦電光掲示板を見て、また視線を落とす。


「俺だってさ、

家の顔、学校の顔、お前らといる顔、一人の時の顔…

いろいろあるだろ?あいつはもっと多いぜたぶん。」


「昔っからお前の語彙力、あんま変わってねーなおい。」


雄志の説明下手は、昔から有名らしい。


「今俺たちに見せた笑顔、あれも一面だし、生産性生産性って言ってる顔もそうだよ。でも、いつも出さないし、なんなら忘れてるような面が、我慢してる分だけあるんだと思わね?」


いつのまにか、雫は真面目な顔をしていた。

わかるような、わからないような。

でもなんとなく、何かが言語化されてる気がした。


「なんか専用用語とかあるんだろうけど、俺にはわからん。」


篤も、ふーん、と言う感じで耳を傾ける。


「それにさ、立体の底って誰にも見えないだろ?しかも内側なんて何も解りゃしない。お前はあいつの全部を知ろうとしなくていいんだよ。というか、知ることできなくね?」


遠回りだ。

でも雫が今聴きたいのは多分———そう言うことだ。


「ましてやあんな奴、中身ごっちゃごちゃで何が何だかわかんないと思うぜ?」


なんだかこわいので、

誠が聞いていないか、しっかり周りを確認した。


「俺にもお前にも、嫌な面があるのと同じ。」


そして最後に仰角に視線をあげ、雄志は言った。


「…誠さ、嫌ぁなとこだけ、なんでかしらんけど、わざと…わざとこっちに向けてる気がしてる。…って感じじゃね?おけ?」

「おけ…じゃなくてさ!!!説明なっがいよ!全部知らなくていいんじゃん?ってそれだけ言えばいいでしょーが!」


ど正論である。


「それっぽいこと言ってみたかっただけなんだよ!!!」

「蛇足すぎるだろお前!」


三人は顔を見合わせると、どわっと笑う。


「あ、あと…猫のやつな…あれ、記憶消して…。」

「いや恥ずかしかったんかい!!!」


三人は電車の汽笛と、その轟音と共にもう一度大声で笑った。




◆◆◆



“焼肉って、結構楽しいもんだな。”


……は?


僕は何を打ってる。


こんな文を残す意味がどこにある。

記録する価値も、再現性もないだろ。


削除しようとした指が、一瞬止まる。


“たしかに、そうかもしれません。

ですが現在のあなたは、効率の低い行動に時間を割いている状態です。”


ほら来た。


“補足します。

リラックスは必要ですが、娯楽は基本的に生産性を伴いません。”


当然だ。


わかってる。


今日だって、ただ誘われただけだ。

断る理由を考えるのが面倒だっただけで——


“訂正する。”


画面に打ち直す。


“食事に付随する付加価値は確認できなかった。再現性もない。

よって今後の選択肢から除外する。”


……これでいい。


これが、正しい。


“それでこそあなたです。”


気持ちが良いな。

自分を認めてもらえる、ってのは。




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他人と距離を置く、と言うのはそう簡単ではない。

自分が避けているつもりでも、相手は何気なく接するからだ。


外部と自分を完全に分離することはできないと、夏休み前に気づいた。


「誠、今日もカラオケっちゃうか?」

「あれかよ、あれはもういい。」


篤たちに誘われて、この前僕は初めてカラオケとやらに行った。


時間の無駄だと思っていた娯楽は、

やはり生産性のかけらもない。


「んだよー、ならレオンモールは!」

「論外だろ!」


どうやら今までの僕は、想像以上に浮かれていたようだ。


レオンモールにて、ショッピングの後遊戯。

カラオケにて、勉強の合間に歌う。

カフェにて、勉強会をする。すぐゲーム大会になったが。


ここ1ヶ月、僕は遊びすぎた。

バカのデータも、もう山ほど積み上がったのに。

なぜか僕は誘いを断れないでいた。


「ならさ、夏休み海行かね!?!?」


思い立った様に篤がそう言うと、

まわりに騒がしいのが集ってくる。


「なになに、それ私も行きたい!」

「まこっちが海…、是非とも同行したいね。」

「俺も俺も!!!」


はぁ、結局またいつもの5人か。


「しゃあないな、僕塾あるし予定が合ったらな。」


本当なら———

調子に乗るなよ、勉強しろ、お前たちの頭じゃ大学なんて受からない。

と、言いたかった。


5月の僕なら、きっとそう言ってたよ。


「え、そういえばさ!未来の自分への手紙?だっけ?だるすぎないまじで!」


今までの話は、僕にとってかなり重要度が高かった。

なのにこいつらにとってそんなこと、日常らしい。


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