朧月
「月が綺麗ですね」僕は空を見上げた。呟いた言葉に呼ばれるように、彼女は窓際へ寄ってくる。「ハ? ぼやけてんじゃねえか」期待を胸に僕の横に来た彼女ががっかりしたように切り捨てたので、僕は苦笑する。「嫌だな、君は。だから綺麗なんじゃないか」彼女は首を捻っていた。どうやら、僕の言い分がどうしても納得できないようだった。「分からねえな。はっきりくっきり見えてた方が、綺麗に決まってるじゃねえか。まあ、天体観測なんぞ趣味じゃねえけど」微笑む僕に、彼女は重ねて首を捻る。「確かに、そういう月も綺麗だ。でも、こういう朧月も趣きがあって良いんじゃないかな。僕はそう思うよ」それでも納得の声は飛ばないので、僕は少し考えた。「例えば。僕の話ではないんだけど、この世界には『チラリズム』という言葉があるんだ」彼女は「何だそりゃ」と訊いてくる。「こう、見える見えないのギリギリのラインが一番趣きがある、というか、官能的、と言おうか……」僕の言葉からタイムラグがあって、彼女が「ハ、ハ、ハァ!? お前、何言ってんだ、ブッ壊すぞォ!!」と取り乱し始めたので、僕は必死に弁明する。「ぼ、僕の話じゃないんだって! だからその、何と言うかな……焦らし、そう、焦らし! 焦らされると、早く見たいし早くやりたいでしょ、何でも。そういうことなんだよ、朧月っていうのは!」彼女は少し落ち着いたようで、矢張り再度首を捻りながら「人間ッつーモンは、全く分からねえな……」と呟いた。
ぼんやりと、見えるか見えないか。
お読みいただきありがとうございます。
本日は二話投稿させていただきました。
同時に、長らくお待たせしてしまって、申し訳ありませんでした……。
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