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敬礼
「警察の方だ」自転車に乗って市民と会話を交わすその笑顔は、金色の紋章と並んで輝いていた。「何か警官を気にしなくちゃならねえことやったのか?」隣に並んで歩く彼女に、僕は噛み付いた。「してないから! 僕をどんな人間だと思っているんだ、君は」彼女は変わらず歯を見せて息を零すように笑っていた。そんな彼女を後目に、僕は後方から自転車を押して追い抜こうとする警察官に向かって、おもむろに敬礼した。彼は笑顔で返してくれた。どうやら背後では一瞬後れを取りつつも、彼女が敬礼をしたようだった。「……急に敬礼しやがったから、びっくりしたじゃねえか」過ぎ去ってから彼女が呟いたので、僕は振り返り口を開いた。「何故か警察の方を見かけると、敬礼したくならない?」彼女の眉間に皺が寄った。「そうかあ……? やっぱり人間っつうモンは、良く分からねえなあ」彼女は先立って歩き出した。その背中からどこか寂しさが滲み出ていたような気がしたのは、昼が夜に呑まれるすんでの時間帯だったからなのだろうか。
敬意を表す礼儀。
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