何でも切れるハサミ
「若しも何でも切れるハサミがあったらさ、何を切ってみたい?」僕の唐突の問いに、彼女は困ったような表情になった。「何だそりゃ、唐突だな」ごもっともに呟いてから真面目に唸り始めるところが、彼女の性格の良さを表していた。「そうだな、あたしはダイヤモンドを切ってみたい。まあ、何かを切りたいなんて欲は無えが」苦笑してそう答えると、続けて彼女は質問を返してきた。極々自然な流れであり、当然答えは考えてある。「僕は『空間』を切ってみたいな。どうなるのか気になる」僕の答えを聞いて、炭酸飲料を飲んでいた彼女は、グラスの端から唇を離した。「おいおい、そんなのアリかよ」彼女の反応に、僕は得意気に微笑んで返す。「だって『何でも』切れるハサミだよ?」呆れたようにグラスを持ち、再度喉を動かす彼女は、ゆっくりグラスを遠ざけると訊いてきた。「そういう話だったら、お前なら『絆』やら『赤い糸』やら言いそうなもんだけど」僕は驚いて直ぐさま言う。「君は僕のことを何だと思ってるのさ……」鼻を鳴らす彼女に、僕は続けた。「それは多分、他人には切れないんじゃないかな」コーヒーを一口だけ嚥下すると、香ばしい匂いが口に馴染んだ。「恐らく、幾らでも再生するものだから、切るだけ無駄だよ。切れば切るほど、残った鎖や糸屑が絡まって、自分の身動きが取れなくなるだけだ、と僕は思うよ」何でも切れるのにか、と彼女は不思議そうに首を傾げていた。
切っても切っても幾らでも。
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