ともだち
「うわあああッ!」急に叫んでしまったのには理由があった。夏だったのか、その夜は窓を開けていて、熱帯夜の蒸し暑さの中を一陣の細やかな冷風が駆けていた。シャワーを浴びてから戻ると、その役割を錠剤で一時的に代用していたホルモン調整装置の上に、光沢のある塊があったので、じっと見つめると同時に声を出してしまったのだった。ホルモン調整装置の画面の上に乗っていたのは、一匹のカナブン。僕は虫に余り耐性が無いので、条件反射のように叫んだのだった。だが、余りにも彼(彼女かもしれないけど)が動じないので、僕も冷静になってきて、彼との接触を試みた。僕が近付いても彼は動かない。「こ、こんばんは。」挨拶してみるも返答は無し。う~む、どうしたものか。「そうだ、名前だ!」ふと思い付いて尋ねてみたが、例に倣って返答は無い。ならば僕が命名してあげようか。「……ヒステリア。良し、今日から君はヒステリアだ!」何と無く、彼の眼がこちらを向いた気がしたのは気のせいだろうか。きっと気のせいだろうけど。先ず、彼と呼ぶのはこの名前には不相応だな、と改める。僕がそうやって一人で頷いている間に、彼女はその立派な羽を広げていた。「あっ、ヒステリア!」待って、と引き止める言葉を発しても、彼女は窓の外へ一直線に向かっていった。月に飛び立つともだちに、またいつか会えるだろうか。
それは例え一方的でも。
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