ミニウシ
「可愛い……。」僕の膝の上で足を折り畳んで撫でられるがままになっているのは、とても小さな牛。子牛にしても小さいそれは、近年流行しているミニウシだ。通常種の何倍も小さいこの牛は、ペットとしての人気も高いそうで、僕も友人の話を聞いて興味が湧き、こうしてぺットショップに訪れていた。確かにこれは可愛い、世間が騒ぐのも納得だ。だが、僕が一番興味をそそられたのはそこでは無い、確かに可愛いが。何とこのミニウシ、育つとちゃんとミルクを出すようになるのだ。一度に産む子の数は大抵一頭なので、コストもタスクも余りかからない。今は便利な世の中で、ミニウシ専用の搾乳機も売っている。帰る僕はミニウシを抱えていた。確り契約書にもサインをした。最期の時まで世話しぬく覚悟もあった。因みに名前は「ポチ」だ、額にぽちっと黒い点があったから。このミニウシ、体の大きさは全く違うのに、成長速度は通常種とそう変わらない。彼女の育つ速度はそれこそ牛歩だが、その時までじっくり待とう。時間の流れは存外短いものだから。その目測どおり、その時はそうせずにやってきてしまった。彼女は生涯一滴もミルクを出すことは無かった。長いようで短い時間を経て、いつの間にか、彼女は僕にとって大切な娘のような存在になっていたのかもしれない。
牛歩でも一歩ずつ。
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