↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高3H英語  作者: 鞠矢百合


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/94

相対性理論(8)

 「お疲れ様でーす。では、改めて、かんぱぁい!」

佳哉の思案など何処へやら、到着した途端に小百合と律、そして西橘によって温まった和気あいあいとした空気に迎え入れられた。そのままの流れで2年生漫才コンビの乾杯の音頭で放課後が始まる。直後に、漫才コンビがやや押し付けがましく「初参加の先生がいらっしゃるためにとりあえず全員で自己紹介しまぁす」と始め、一瞬だけ「面倒なことさせるな」と言わんばかりの怠い雰囲気がその場に流れたものの、漫才コンビが見事に「早く飲んで食べたいから、簡単に」と言い放ち、結果的に担当クラスと大学・学部名に苗字だけいうと言う大変ビジネスライクな自己紹介を全員に強要させた適当さに、全員が笑って空気は和んだ。自己紹介では最後のターンだった小百合の番では、「りっちゃんです。水島先生のコです。以上。」とまでおざなり、それなら自己紹介とか要らなかったのでは?と西橘が笑っていたのが印象的だったほどだ。

 佳哉は、ふと、校舎からここまでの足取りを思い出す。急遽、会場までの送迎が小百合のご実家が抱える自家用送迎車から普通のタクシーへ切り替わったことに、熊守の涙ぐましい連携プレーが窺えた。

 当の熊守は冴えない新社会人の擬態のままではあるものの、店内では、テーブルの中央、二人の講師を見渡せる場所に陣取っていた。端っこで存在感を消しまくるいつもと違い、テーブルの真ん中にいる姿が非常に珍しい。誰かからいつもと違う位置取りについて質問を受けているわけではないのに、「先生方に失礼があっちゃいけないからさ。」と囁くように先回りして言い訳を繰り出し、周りを自然と納得させてしまった手腕には驚いた。大人ってやっぱり大人なんだなと、こういった機転のきかせ方に佳哉は思う。

 そっと小百合たちの様子を佳哉が横目で見る限り、ゼロ次会から温まっている3人はスルッとこの新参加者を受け入れたようだ。実際、3人が鷹館橋(たかたちばし)の飛び入り参加をどう聞かされ、聞かされた際にどんな反応したのかは分からない。ただただ、突然の参加者に微塵にも動揺を感じさせない姿に、ホッとする。律はきっと、何も考えていないだけだろうけど。

 なお、この放課後で一番動揺を見せているのは、初回参加の鷹館橋かもしれない。もう何度とも分からない「学生なのに??」と言う彼の呟きは、意図せずきれいに黙殺し続けられている。こちらとしては、「じゃぁ、何を期待して、なぜ今日、強引に参加したのさ?」の一言につきる。ちなみに、西橘と鷹館橋の二人は、後発組の来店時に顔を合わせた際に「お疲れ様」と非常に他人行儀な社交辞令の挨拶をしたのみで、会話は一切ない。改めて、「なぜ今日、強引に参加したのさ?」としか言いようがない。

 「どんどんオーダーしないと、すぐに終電の時間来ちゃうよ?」

そんな中、西橘が自然にチューターの後輩たちに食事のオーダーを促し、『放課後は終電で終わり』と言う雰囲気を作り出していた。お酒が回り、車で送ってくれと言い出しそうな漫才コンビをガッツリ牽制したのはさすがだろう。前回の帰り際に何人かがまだ帰りたくないと駄々をこねていた姿をしっかり覚えていたようだ。『身内枠』だと本人が冗談でも宣った分は、きっちりとこちらの意図を汲んで動いてくれるのかもしれない。

 「メニューないのに、どうやってオーダーするんですか?」

ニヤニヤ笑いながらスタッフに食べたいものを適当にリクエストするチューターたちの堂に入った様子に、佳哉は恐れ入る。柔軟性や適応力の高さを自負してきた割には、たった一人の放課後への新規参加者で動揺するほど凝り固まっていたのは自分たちなのかもしれない。

「そう言えばさ、歩夢は佳哉さんのチューター見たんだよね?どうだった?勉強になった??」

律がなんてことなく自然に、テーブルの端から端へ声をかけた。ことのほか、その声がよく通ったのは天の采配か、悪戯か。

「あ、え。あ。。。。う。。。」

歩夢がうっかり返答に詰まり、飲みかけの炭酸ドリンクにゴフっとむせた。

「おい。そこは嘘でも『勉強になった、参考になった』って即答して欲しいんだけど。」

佳哉は即座に歩夢に抗議する。

「あ、、、、すみません。」

「え。。。ちょっと待ってよ。そこで真面目に謝られると、かなり悲しいんですけど?!」

思わず悲鳴をあげた佳哉の耳に、馬鹿笑いが聞こえた。

「−−−−−−−−−っっ。あはは。」

小百合が抱腹絶倒の状態で笑いこけている。

「小百合、おい!!」

「あはは。。。嘘はつけないって、、、取り繕いもできないとか−−−−−−−−−っっ。あはは。」

かろうじてグラスを落とさず手にしたままテーブルに突っ伏し、もはやヒィヒィ言って呼吸も疎か、何も言葉にならない。

「あらあら。佳哉ってば、どうやらチューター本業は、後輩ちゃんの勉強にも参考にもならなかったらしいわよ。今期のチューターのリーダーも形無しね。」

腹筋と表情筋に露骨に力を入れたポーカーフェイスのケイトがさらに追い討ちをかけ、続けて残酷な形で歩夢に会話のボールを投げ返す。

「でも、しょうがないよね、うふふ。。。事実、どうやら役立たずだったんだから。ね?歩夢?、、、ふふっっ。。。」

「その、、、す、、、すみません。。。違っ、、、いや、違うんです!!」

普段のチャラっとした軽さにマッチするせっかくの今風の今日の特別軽い装いが、顔面蒼白の歩夢の顔の絶体絶命さで台無しになる様子が滑稽さを誘い、最後はその場の全員が笑い出した。

「ちょっと、違うんです。聞いてくださいって!!!」

歩夢の叫びを、うかつに質問した同期の自分のせいかもしれないといたたまれなくなった律が、爆笑の渦の中で拾った。

「なんか、歩夢、、、ごめん。。。その、、、ど、、、どうだったの?」

「ちょっと、律。ほんと、どうしてくれんだよ。。。」

「だから、ごめんってば。」

「あまりに専門的すぎたんだよ、今日!!」

「専門的??どうやって?」

投げやりに答えた歩夢に、申し訳なさ全開の律が訊ねる。先輩への敬意を忘れた歩夢が本音そのままに絶叫した。

「小百合さんの頭がおかしい『微積は美しい』発言のさらに上をいく、佳哉さんによる頭沸いてる物理問題の解説だったんだよ。」

「『微積は美しいって何?』」

「『頭沸いてる物理問題の解説って何?』」

目尻の涙を抑えつつ声を出した西橘と、いち早く冷静さを取り戻した鷹館橋の問いかけが重なった。

 「あの、、、流石にこのままでは歩夢が可哀想なので、先生方のご質問のお答えする前にちょっと僕が喋りますね。先輩方も、いい加減に現実に戻って来てください。」

落ち込んだ佳哉とまだ笑い続けて使い物にならない小百合を見やり、漫才コンビの片割れが落ち着いて話だした。

 宮元 仁(みやもと しのぶ)− 経済学部経済学科2年。常日頃からふざけたような言動が多いけれど、来年度のリーダーに目されるくらいにはしっかり仕事はできる。空気も読める。

「恐らくですけど。土曜日って『皆で受験生になるんだ!大学生になるんだ!一緒に頑張ろう!』って姿勢の生徒対応なんだと思います。対して、僕ら金曜日は『大学生になって当たり前。大学ではこんなことを学ぶんだ。ああ、予備校で今学ぶここが、近い将来に大学でこう繋がるよ。』って姿勢での対応です。」

歩夢が涙目で仁の言葉に頷いた。

「土曜日の開催コースはいわゆる主要科目ですからね。どうしても受験で避けて通れない科目をこの予備校に通うってことは、受験生活をまさにウチを中心に展開してくれる生徒さんが多いと考えていい。だから、『皆で頑張ろう!』の姿勢が好ましいんだと思います。でも、僕らは選択科目の金曜日。意地悪く言えば、どこかの誰かさんが『逃げません?』とか言ってしまえるような科目。」

仁が流し目で律を見る。ちょっとした仕返しだ。律がそっと背を丸める。

「そうすると、主要科目は別の塾や予備校に通っていて、ウチへはその特別な科目だけをわざわざ受講しにくる生徒が多かったりする。加えて、そんな選択科目系はスーパー、スーパーαの授業が中心。薬学部があるから化学だけはハイレベルも設定があるけど、やっぱり『大学生にはなれて当たり前』で、『どの大学で大学生になるか』が懸かってる、って生徒の方が多いと思います。加えて、佳哉さんところに多い、大学まで物理を使うような学部学科志望って、かなりの狭い志望のところが簡単に予想される。当然、生徒との会話はより大学受験の先を見据えた専門的な話になっていく。その違いが、結果的にチューターの生徒対応の姿勢の違いになって現れているんだと思います。」

首がもげそうな勢いで歩夢が何度も何度も頷いていた。

「確かに、金曜日のチューターのトークタイムは問題解説や大学での勉強内容とかの方が多いかもしれませんね。」

漫才コンビのもう一人が続ける。

谷脇 みゆう(たにわき みゅう)− 理工学部化学化2年。親が黄色のキャラで有名なアニメが好きすぎでつけたキャラ系キラキラネーム女子だが、名前が全く体を表さない真面目な眼鏡っ子。恐らく来年度のサブリーダー、今期のケイトの役回りだ。

「実際、チューター全体の所属の学部学科構成を見ても、医学薬学を筆頭に物理化学や数学専攻の割合が非常に多くて驚きました。だからこその、いわゆる世間一般で言われる選択科目の授業にも生徒さんが多く集まる予備校なのでしょうし、看板授業や有名講師の先生がそう言った選択科目に多いのも特徴なんじゃないでしょうか。そんな選択科目の生徒さんが、もし、、、他の予備校や塾ではなく、有難いことに主要科目も選択科目も全てここで取ってくれているなら、それこそ、りっちゃんのような土曜日のチューターに『皆で頑張ろう』の部分は任せればいいんですし。」

絶妙にいろんな大人向け発言を含めつつ、みゅうが上手くまとめた。

「だから、金曜日のチューターの生徒対応に戸惑った歩夢の反応は、決してお門違いではないと思いますよ。さ、次はりっちゃん、佳哉さんの番です。先生方の質問に答えてくださいね?」

すみません。この回が全く終わらず。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。