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高3H英語  作者: 鞠矢百合


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相対性理論(4)

 いつも通りを装って別れ、小百合はため息をついた。その場の誰もが無言の中、熊守に促されて人目のない校舎裏側のドアの方向へ無言でその場を立ち去る二人を、なんとも言えない気持ちで見送る。半ば引き摺らるようにして立ち去った姿が脳裏をちらついてしまい、小百合にも今すぐにでも叫びたい思いが湧き上がる。けれど、それは今のこの場ですることではない。

「翼、、、、変なことに巻き込んで本当にごめん。」

真っ先に心配になるのは、今を受験生として生きる、目の前の生徒だ。

「ん。いーよ。貴重な経験した。」

「そんな。。。ごめん、、、本当に、どう謝ればいいか。。。」

やけにあっさりした翼の返しに戸惑う小百合へ、翼がケロっとして告げた。

「りっちゃん、ちゃんと守ってくれてたでしょ。それに、、、僕は『いーよ』って言ったよね。生徒の言葉、信じれるよね?正直、、、りっちゃんのこんな場面に今日、立ち会えてむしろよかったと思う。目標がちゃんと見えたし、めちゃくちゃ気合入ったし、すっごくやる気出た。」

翼が、どこともない遠くを見る。

何がどうやって、こんな場面に出くわして、気持ちを鼓舞されると言うのだろう。

「絶対に志望校に受かる。受かってみせる。」

誰に向けてか、力強く翼が宣言する。

「こんなふうに守られるなんて。嬉しいどころか、悔しさしかないや。」

呟いた翼の肩を律がぽんっと叩いた。

「今日は、質問はもういいよ。自習室に行ってくる。りっちゃん、また明日!」

「あ。。。」

「りっちゃん、ほら、笑顔はどこ行った。また明日!!僕らのクラスで!!!」

「うん。。。また明日。待ってるね。」

必死で笑顔を作った小百合に、翼は「相変わらずりっちゃんは、作り笑いが下手だなぁ」と笑うと、何事もなかったかのようにその場から立ち去ろうとした。慌てて熊守が、翼に駆け寄る。この場からエントランスへ出て目立ってしまわぬよう、熊守が裏口から自習室へ向かう警備員専用の巡回ルートで付き添う手筈になったようだった。

振り返って笑顔で手を振る翼の瞳に、暗い色は見られない。今日のこの件が、心に影を落とさないようにと祈るような気持ちで、精一杯、小百合は手を振り返した。

「りっちゃん。すみません。僕、言い過ぎました。」

翼の後ろ姿を見送っていると、律が頭を下げた。

「僕のせいで、小さく収められたはずのことが、大事(おおごと)になってしまったかもしれません。」「いや。むしろ、、、私がちゃんと対応できなかったがために、律を矢面に立たせるようなことになっちゃって、ごめん。それと、昨年のことも、本当に、、、何も気付いてなくて、、、ごめん。。。」

小百合の声が、消え入りそうに震えた。

「リッちゃーん。。僕もさっき、『大丈夫』って言いましたよ。生徒の言葉、信じれますよね?それに、、、僕の場合、昨年抱えていた言いたいことが全部言えて、スッキリしました。僕も、今日この場にいたことに感謝です。」

「うん。。。」

煮え切らない小百合に、顔上げた律があーあと言わんばかりに肩を竦めた。

「確かに僕は、りっちゃんの元生徒ですけど。チューターでもあります。頼りない後輩でしかないかもしれませんが、りっちゃんはこの4月に僕をチューターの同志としてもう同じ目線を持つんだと迎え入れてくれました。ならば、僕がりっちゃんを守ったっていいはずです。今日、僕がりっちゃんを守れていたら、これ以上に嬉しいことはありません。生徒として守られるばかりでは、何も成長していないようで、悔しいです。」

「律。。。」

もうただの担当生徒ではない律の姿に、小百合は瞠目する。

「ほら、さっきから先生をお待たせしっぱなしですよ。りっちゃん、らしくないです。」

いつの間に、こんなに成長したんだろう。なんだか眩しいものを見るようで、小百合は先ほどとは別の意味で泣きたくなった。

「あ。。。そうだね。律、ありがとう。」

小百合は頭の片隅にちらつき続ける叫びを強引に無視して、西橘にきちっと向き直る。

「西橘先生、、、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。本当に助かりました。ありがとうございました。」

「いやいや、気にしないで。何事にもならなくって、何よりだよ。」

先ほどからそっと流れを見守っていた西橘が、いつもと変わらない様子で答える。どんなにおちゃらけた態度を装っていても、こう言う時に落ち着いていつも通りの状態でいられるところは、さすが年長者だなと思う。

「ちょうど今日、補講があってね。、、、補講がある日は重ねるようにって。」

何にとは言わないが、誰に何を重ねるように言われたのか、なんとなく小百合は察した。

「そもそも師匠、人遣いが荒いから。ここ、講師室からだと近いんだ。突然、行けって囁かれて。何が行けって感じだったんだけど。」

「ああ。。。」

チラッと視界の端で、戻ってきていた熊守が親指を立てたハンドサインを目立たないように出していた。なんか色々台無しに感じたのは、何故だろう。

「ほーんと、お詫びはいらないさ。ほら、、その、、僕も色々、迷惑かけてるし。あ、でも、お礼なら喜んで受け取るよ。今日の放課後で、いいワイン1本開けてくれたら、それがいいかな。」

「え、放課後に参加されるんですか?」

さすがに驚いた律が思わず聞き返す。どの校舎でも私的なコミュニケーションを極力避けているとされる西橘の前評判からは、想像の斜め上をいく気軽さで為された、放課後への参加表明だった。

「するよー。今、決めた。こんだけ活躍したんだから、いいでしょ。」

「えっと。。。職員さんの事前許可とか。。。」

佳哉の日頃のルール徹底のための口煩さを知っているからだろう。律が、不安そうに西橘を見る。

「小難しいことはもう、いいじゃん。もう、身内枠でしょ。」

笑顔の西橘に律が唖然としている。意外と図太くなったなと小百合が呆れていると、視界の端で熊森が再び親指を立てたハンドサインを出したのが見えた。ここまでくると、熊守はこちらの動きを読唇するくらいならいっそここに来い、と思う。

「ん。そう言えばさ。話、変えるけど。そういうカッコしてれば、小百合ちゃんも普通の大学生じゃん。」

アイドル『西館』(ニシタチ)を彷彿とさせる声色を、西橘が意識的に出した。

「普通にしては、可愛いすぎるか。」

しかも、ウインクのおまけつき。サマになっているのが、小憎らしい。

「ちょっと!!西橘先生!!!」

「やっと小百合ちゃんが笑ったね。さ、チューターのお二人さん、そろそろ教務室に戻りなさい。残念なことに、補講が終っちゃってる僕のせいで、放課後の0次会(ゼロじかい)が要るからね。30分以内には確実に仕事を上がって、講師室に迎えにきてよ?」

「はい。」

小百合と律の二人で、首肯する。

「待ってるからね。安心して、今は笑顔で戻りなさい。こんな時は、大人に頼っていいからさ。」

相対性理論の話になかなかたどり着かず。申し訳ないです。。。

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