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高3H英語  作者: 鞠矢百合


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権威ある魔法陣(7)

 パンっと緊張感が走り、背筋の凍るような静けさがその場に落ちた。

互いに目線を合わせることはせず、誰の口からも言葉が出るに出ない。もし次に何かを言い出せば、よくない何かを自分の言葉が引き寄せてしまうんじゃないんだろうかと、疑心暗鬼が顔を出す不気味さに、空気がやたらと重い。

 その静寂を破ったのは、意外にも恵叶だった。

「熊守さん?さっき、シュンって、、、言いましたよね?」

「ああ。」

意味ありげな、熊守。

「件の、顔面加工娘が、、、、盲目的に慕って結果的に由々しき事態になった相手って、確かそんな名前じゃありませんでしたっけ?チューターの席で、一時期、騒いでいたような気がするんですけど。記憶違いだったら、すみません。」

「さすが、ご名答。よく覚えてる。ただ、顔面加工娘じゃなくて、赤波紗里衣(あかなみさりい)、な。所属校舎の、新入生チューターだった、、、。」

西橘にもわかるように、熊守が言葉を足した。

「ねぇ、恵叶。私は、売られた喧嘩は、喜んで買う方だと思うんだけど。」

「そうね、小百合はそうよね。好んで喧嘩を買いに飛んでいくわよね。」

「全部がつながっているように見えるのは、考えすぎたが故のただのこじつけなのか。それとも偶然が偶然を呼んで、奇跡的にそう見えただけなのか。今の段階では、正直まだ、判断がつかないの。だから、この話は、ただの『憶測』で、『百万が一の保険』なの。誰が、誰に喧嘩を売っているのかが、ちゃんと見えないし。」

小百合が、給仕スタッフやステージ関連で動いていたスタッフの人払いを命じた。部屋中が、すぐに見事なまでの関係者だけになる。

「では、客観的に行こうか、お姫様?例のプロデュース番組で、ファイナリスト選定において、シュンが残れない結果を産んだ判定を出したのが、この俺。過去の経歴も調査した結果、女性問題や金銭トラブルが多そうに見えると言う理由でな。実際、セレブキャラを維持するための服飾費等は、実家から奪った金が原資だった。アイドルには致命的なスネの傷になる。ちなみに落選のその場で、当時、審査員側でゲストとして呼ばれていた西館を引き合いに出して、『ニシタチのような完璧王子』から何がアイドルたるやを学べとか余計なアドバイスしたらしい、覚えてねぇけど。」

熊守が茶化しながら、状況を整理し始めた。

「そのニシタチが這い上がってきて、シュンの初めて共演がこのアニメ。ニシタチが主役級配役の1つ、シュンが当て馬的攻略対象の教師役。ちなみにアニメ放送の数年後に起きたニシタチのゴシップ騒動で、被害女性の1人の証言者として出てきたのが、このアニメ内でモブ役を演じてたアイドルの卵。この騒動でニシタチは業界引退。俺はなぜか、振り付けしたステージで未成年の喫煙・飲酒が起きた監督不行届の責任で振付師とかダンス講師の表舞台からは消されて、いろんな圧力もらって、スポンサーの意向を反映するだけのオーディション審査員に成り下がった。うわぁ、自分で言ってて情けねぇ。あー。。。シュンは件の騒動後、この被害女性とやらを慰めた王子様として結婚。早期の離婚は先ほどの通り。離婚に際して、何やら金銭絡みで揉めていたな。女性側が、貢いだ分の金を返せと。これが過去。」

そう言う流れか、と西橘が呟く。

「では、僕からも。ここ1−2年前から、僕のいわゆる、、、講師室で戯れてくるお嬢さん方の一部の装いに、夜の蝶化が始まった。以前までと講師室で騒ぐ女子たちの数は変わってないけど、あんなに露骨に派手じゃなかったし、あれだけ嬌声上げて騒ぐ子たちもいなかったからね??卒業生として遊びにくる子たちにも、同じ事が言える。しかも、中には、、特有の甘い香りを身に纏ってる子が混ざり出した。その、、、、、シュンが芸能人現役時代にロックオンした女の子に纏わせてた香りと全く同じだった。うぇえ、気持ち悪。。。」

自嘲する熊守と、心底嫌そうな顔をする西橘に苦笑しながら、小百合がその先を続ける。

「赤波紗里衣が新入生チューターになったのが、この4月。生徒の時は目立たない、むしろ『良い子』の枠だったのに、大学生になった途端にオカシナ方向に二次元も現実も顔面加工し始めて、私にバカの1つ覚えのように突っかかって、露骨にアキフミにアプローチ。その裏で、アキフミの実兄のシュンに身持ちを崩してまで入れ込んで貢ぎこんでいた。」

懐疑的な声で、佳哉が疑問口にした。

「暁史は、この件で趣味の悪い王子様役を擦りつけられかけたり、研究室にいづらくなったりしてる。肝心の暁史は、その、、、この実兄との仲は本当のところ、どうなんだろう。実家からも絶縁されてるんだよね?あれ?歳が離れてるって、、、どうやって恵叶はライブハウスで知ったんだ?」

「ライブハウスのポスターってね、かなり昔のも貼ったままだったりするの。特に『このライブハウスからメジャーデビュー出ました!』みたいな場合は。」

人を年寄り扱いしないでくれる?と恵叶。

「佳哉、恵叶、話がそれてる。おそらく、アキフミはこの実兄とは繋がってはいないと思うんだ。一応、手の届くところで監視下には置いてみたけど。」

小百合から物騒な発言があった気がしないでもないが、心の平穏のため、全員が全員、スルーを決め込んだ。

「現在の状況を付け加えたら、このドラマ化でのリバイバルにあたって、主役に指名されたルカはウチのクラスの生徒のお兄さん。なんだろうね、この、手元と言うほどまで身近じゃないけれど、鬱陶しく視界の端っこをウロウロされる感じは。」

小百合がため息をつく。

「まだまだ他人事の範囲ではあるんだけど、注意することに越したことはないかなと思って。たっちゃんも、先生も、大人だからまだ、いいけど。絶対に、生徒にとって受験の邪魔になるような事態は避けたいの。。。」

佳哉と恵叶が頷く。大人の不始末のせいで、生徒たちへ悪影響があることは、あってはならない。絶対に。

「『この魔法陣に希うのは』。」

突然の小百合の歌い出しに、西橘と熊守が失笑し、歌で応えた。

「『叶うまで キミへのこの想いを』。」

どうにでも解釈できてしまうからこその、歌詞。なんとも言えない、ねっとりした不愉快さ。

「もう、魔法陣(それ)は使い古しだと、笑い飛ばしてほしいよ。。。」

消えそうな声で、己の願望を西橘が口にした。

食べかけのままテーブルにポツンと残った混ざりきれないマーブル模様のぐちゃぐちゃなデザートが、まさに今の状況を表しているようだった。

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