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権威ある魔法陣(3)

佳哉なりに、あんまり思い出したくなかったのだ。

「いや。その、読んだと言うか、読まされたと言うか。お恥ずかしい話になるんですが。。。先週、僕らの校舎の『前期納会』がありまして。ああ、そうですね、言ってしまえば単なるチューターの飲み会、前期了のお疲れ様会です。そこに前期で退職する勝間アホが、予想外に参加してまして。まぁ、参加すること自体は問題じゃないんですけど。。。その記事をわざわざでっかく印刷して持って来たんですよ。あろうことか、まさかその場で記事をバラ撒いて、こんな予備校業界を辞める俺様勝ち組イエーイ!なテンションで、酔いの勢いも借りて大演説ぶちかまして。現場が若干、荒れたんですね。」

話す佳哉の横で、恵叶がゲンナリした顔をする。いつもなら誰かが話す際に「人の話を聞いています」と示す姿勢を崩さない彼女が、かぶりついた海老焼売にすぐに視線を戻してしまったあたり、参加した身には気持ちいい思い出ではないのだろう。

「あ、恵叶は参加していて、小百合は幸か不幸か納会には不参加でその場にはいなかったんですけど、小百合は後輩にライN経由で後々に愚痴られて、、、僕らにこのブランチ前にくだんの納会の詳細な状況を訊いて。実際の記事を先ほど読んで、今ココに至るってところですかね。」

「実際、勝間アレは職務規定違反でクビなのにねぇ。」

海老焼売を咀嚼し終えた恵叶が、ボソッと呟いた。心なしか、いつも以上に咀嚼数が多かったのは気のせいだろうか。

納会の存在は4月の歓迎会で通達してしまっていた以上、勝間アレの参加は防げなかっただろうけれど。それにしても、あの状況はまぁ、控えめに言ってもひどかったわね、と。

「もちろん、その記事は読み手がどう受け取るか、だと思わなくもないんです。ちなみに、同じ講師の目線からは、ニシタチさんは、この記事を読まれてどう思いました?」

西橘がサラッと笑顔で答える。

「さすが有名な講師の方だと思いました。」

「嘘つけ、お前。」

熊守が間髪入れずに突っ込んだ。

「昔を『予備校の黄金時代』って散々持ち上げられておいて?今を『クソ時代』と言われて?何も思うところが無いわけ?」

クソ時代とまでは言ってないでしょうに、、と唸った後、西橘は今度は真面目に答えた。

「あくまで、これは僕個人の感想です。他の講師はどうだか知りませんよ?」

そんなのは百も承知とばかりに、熊守が頷いた。

「そんなに、昔の500〜600人教室に生徒がいっぱいの時代が『黄金時代』で『最盛期』で、今はただの『憂いの時代』だと思うなら、やる気ある若手講師に道を譲って、さっさと引退してくれたらいいんじゃないのかな?と思っちゃったかなぁ。」

あ、意外と辛辣、と呟いたのは誰だったか。

「だって、そうでしょう?僕ら、彼からしたら小童みたいな若手は、必死で今この時代にこの仕事をしてるんだ。そんな時、やれ最近の生徒の質がタイパ重視で悪いだとか、少子化だからお給料の払いがよくないとか、教室に通う形式の予備校はオワコンだとか、そもそも大学に行く価値が落ちたとか、、今まさに頑張ってる僕らにも生徒にも失礼なことをこんなふうに公共の場で言って憚らないなら、辞めたらいんだよ、と。」

「あ、実際は結構、お怒りでいらっしゃる?」

茶化す熊守をひと睨みして、西橘が続けた。

「公共の場でこう言った発言をする意味をわかっていない人間は、公共の場に出ちゃいけないんだよ。」

アイドルの西館ニシタチとして、公共の場で叩かれ続けた西橘だからこそ、言葉に重みがあった。

「無論、当時の授業内容は当時の受験スタイルに合っていて、生徒からも評判が良かったんでしょうし、講師として必死で努力されたんでしょう。そこは否定しません。ただ、500人もたった1講座で教室に入った時代を数年でもこなせば、絶対数の暴力でそりゃ名前はかなり通る。ある程度の数の学生が名前を知っていて話題に出せば、予備校の外での知名度だって当然高くなる。そういった数の力を持っている人に、『人気』で『有名』な講師の代表者のように、こう言う発言をされちゃうと、、、いわゆる世間にどんな影響が出るのか。僕は、ただただ、悔しいです。それに。。。」

ため息のように紡がれたのは、西橘がずっと迷ってきたことだった。

「この記事の枕詞にもなってますけど。『超有名人気講師が今の時代を語る』って。この人気講師の『人気』、有名講師の『有名』って、そもそもなん何なんだろうって。」

何かに気づいたように、佳哉が言葉を繋ぐ。

「ニシタチさんは、、、そっか。それこそ、アイドル時代に、ウチワ、Tシャツ、ファンレター、フォロワー、あとは、、、レギュラーの数とか、、、握手会も?ああ、CM出演料とかもか。更新され続ける明確な数字で、常に自分の人気や有名の度合いを計らされて来た経験ありますもんね。。。」

「僕ら、平気で講習の説明とかで『人気の先生ですよ』とか言っちゃってましたけど、根拠示せよって言ったら、微妙ですよね。有名なのと、人気なのとは違いますし。そもそも人気って、何を以て人気なのって。有名と言うのだって、どうして有名なのかって聞かれても、説明できません。」

「そう。例えば、、傲慢なことを言えば、僕は人気講師あるいは有名講師の1人である自信があるよ?だって、この容姿と、元アイドルだよ?イチバンかどうかは正直わからないけれど、ある意味、当たり前だよね?けどさ、それって何の『人気』で何の『有名』講師なの?と。ただ、昔の職歴のおかげで、数の力で名が通ってるだけじゃ無いの?と。」

この間の講師室での美青年突撃による騒乱を思い出して、ちょっと自虐的にもなる西橘。

「まーな。講習の受講希望者数だけじゃ計れんし、アンケート結果なんて、なぁ。講師の笑顔っつーか、下手したら容姿だけでどうにかなっちまうし。生徒の胸先三寸だもんなぁ。希望大学の合格者数っても、たった1講座で合格がどうこうなるもんでもないし。」

芸能界と違って、明確な尺度ってないもんなんだなーと熊守は呟くと、小百合がジッと西橘を見ていることを目ざとく見つけ、改めて小百合に問うた。

「で、ちょっと話題逸れはじめちゃったけど。そこのお姫様は?」

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