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聖女さま、異世界へようこそ(8)

時は遡ること、数週間。


 「なぁ、アレが噂の聖女サマ?」

ぼそっと呟かれた一言に、横にいた男性が冷たく答え、騒がしい社食入り口の廊下側の壁に寄りかかる。思った以上に、廊下に声が響いた。警備部門、ジム運営、建設部門、など最終的に人が体を使う関連のことは全部、彼の下に集う。今日も今日とて、日焼けした肌に、鍛え上げられた筋肉質の体を隠さない黒いタイトなTシャツに黒いパンツ、靴やら何やらトータルで全身黒づくめの格好だ。何か重要事項を手書きで残す際に使うカードの色も、漆黒。「黒の人」とか言われるのは自業自得だろう。

 「おやめなさいって。貴方の方が品格を問われますわよ。」

御行儀が悪いんだからとため息をつきながら、後ろから追いかけてきた女性が壁に寄り掛かった黒づくめの彼のTシャツの背中部分を引っ張る。金融部門、経営企画、システム設計、経理部門、など、数字を駆使する関連のことは全部、彼女の下に集う。紅一点。自分でそれを揶揄って、手書きの連絡事項には赤いカードを使う。それがために本人の服装云々は全く関係なく、赤い人と称されることが多い。黒い人に言わせれば、赤は赤でも毒花の色、赤い紙は恐怖の徴収令だそうだが。

「ところで、その聖女様って何?」

「最近、流行りのラノベ系?姫様の本棚に、並んでる。」

「あの薄い本よりかは、いいのかしら。」

「さぁな。針の穴を通すような偶然で、本来とは全く異なった環境で突然生きていくようになり、御分不相応な地位をあてがわれる存在って意味で、聖女サマだろ。」

「脳筋だけあって、嗅覚の鋭さには脱帽だわね。」

「っっと、さっきから引っ張るな、脱げる。ふうん、やっぱりアレか。へぇ、アレがねぇ、、、?本当に何考えているのかね、ウチのお姫様は。利害関係発生までギリギリ案件じゃねーか。」

何事もなかったようにまた、社食の中を覗きつつ彼が言葉を続けると。

 「むしろ、脱いでますよね、アナタはご自身で。これだから、脳筋は。」

先の二人の横でそれまで黙っていた別の男性が、わずかに眉を寄せた。二人が畑違いだと放り出したものは基本的に全部、人事部を筆頭に衣食住、芸術、人間の営みに関することとして彼の下に集う。ブリーチのかかった銀色の髪に、淡いグレーのセットアップ。使うカードの色は、目に刺激的なほどの真っ白。黒づくめの二人と揃って服でリアル・リバーシでもやってるの?と雇用主には笑われるけれど、気にしない。

「だから脳筋とか言うなって。」

「事実なんですから、仕方ないでしょう?はぁ、、、アレはアレで、自身の恵まれた環境の本当の意味も背景も理解もせず、表向きの結果を当然とばかりに享受するだけの人間。土俵を合わせる義理は、こちらにありません。」

「それで?そこの男性お二人は今日は研究棟こちらに何かご用事ありましたっけ?まさか、興味本位で見に来ただけとか言わないでしょうね?無意味に研究棟を騒がせるより前に、さっさと本部に戻りましょ。そもそも、アレはのしあがっていく聖女サマ言うよりは、無意識に恵まれた現状の享受に終始する王子様ではなくて?」

「それはそれで辛辣だな、おい。って、痛っ。」

ウッと顔をしかめたのは、彼女のヒールが黒の彼の足の甲にめり込んだからだ。

「醜い欲望も、崇高なる意思も、結局はどの立場に立ってモノを見るかの解釈違いでしかありませんからね。本人に主体性と確固たる意志があるだけ、聖女サマの方が王子様より余程マシと言う点は、同感です。」

何事もなかったように白の彼がその場を無視するのはいつものこと。彼は、姫様と呼ぶ自身の雇い主にしか興味がない。

「今は様子見で充分じゃないかしら?もし、ウチの姫様の都合よりも、研究棟でのご自身に酔うことを選択した日が来ようものなら、全力で色々と見せつけて差し上げればいいでしょう?」

「はいはい、今はそれで我慢しますかね。ってか、痛ぇな。だーかーら、引っ張るなっつーの、おい。」

 本人たちは至って隠密行動のつもりでも、実際は嵐のようにその場を辞した3人の指には。

 独特な黒い指輪が、それぞれ光っていた。

 俗称、『専属組』。内情は、小百合が関わっている組織の、創設メンバーである。小百合の最終判断無しに組織に関する潤沢な予算を自身で決裁可能で、決定権も持つ。時には、小百合の意見と相反する内容も、最終結論として通せるだけの権限もある。

 ただし、小百合は『専属組』と言う呼称やらを作ってはいない。公的には、創設時に一緒に頑張ってくれた各部門のリーダーが、組織の規模拡大にあたってそれぞれ得意分野で独立した権限を持っただけのこと。要は、会社組織でいうところの役職付きの役員だ。彼らの俗称を聞いた小百合は、「え?厨二病?皆で一同に患ってたの?」と思いっきり笑い飛ばしたほどである。


だから、あの宴の後日。


 「あら?この日、元アイドルとの面倒な放課後があったはずよね?」

何気なく、思いっきり私情で備品購入履歴の詳細を確認していた彼女がわざとらしく口火を切って。

「開催決定から乾杯まで24時間を切っていた異常な日ですからね。更なる面倒を起こさないために、学生らしいスケジュール感だと誤魔化せる方法を選んだなと感心したので、よく覚えてます。ただ、場所探しからスケジュール組み直しまで、だいぶ無理をしましたが。。。」

冷えた眼差しで、彼が同意し。

「俺、血眼で警備体制組んで警備に参加したな。」

最後に、面白そうに思い出し笑いを加えて。

「それで、貴方が高いワインを自腹切ってまでして、一人ほど、本部に引き抜いてきたのね?」

「あのバカ高いグラスまで割る必要ありました?」

「グラスは不可抗力だっつーの。ちょうど手で磨いてて、、、思わず沸騰したのは悪かったと思ってる。それと、、、彼は元祖カリスマ・ダンス講師なんだから、使いようはあるだろ。すでにあのクソ面倒なルカに存在を見つかってんだから、姫様の迷惑になる前に、その対策もできて一石二鳥だろ。」

「だからって、あなたが直々に出張らなくてもよかったのよ?」

「あの、知的レベルの低いメッセージは何なんです?それこそ、品格が問われます。」

「だーってさー。あの化けっぷりだぜ?まっとうに王子様ではないしな。恐らく、のし上がってくるぞ。、、、、って、痛。踏むな!!俺はドアマットじゃねぇ。」

「相変わらず、踏まれるのは趣味ですか?ヒロインほどの可愛げもないでしょうに。」

「お?ついに、姫様の蔵書、読んだか?っっっ痛――――っっ。踏むな!」

「脳筋だと、感情がそのまま拳に乗るんですね。まぁ、割れたのは今のところグラスだけで済んだんですから、誰かさんには行幸かもしれませんね。」

小百合のあずかり知らぬところで、こんな会話があってしまったのは、仕方なかったのだろう。

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