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『歌が見えた ―弱い光魔法しか使えない私ですが、歌うと感情を隠せない天才歌姫と世界初の魔法ライブを作ります―』  作者: あらたかたかじろう


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第二幕「歌を返して」 第41話 歌から始める舞台

 合図の使い方を作り直して三日目、旧兵站庫が使えなくなった。


 朝、重い扉の前に、赤い縁取りの掲示が貼られていた。


 ――火災監督局による臨時設備検査。

 ――本日、関係者以外立入禁止。


「事前に聞いてない!」


 リラが掲示を見上げる。


「昨日の午後から掲示されています」


 セインは、紙の右下に記された日時を確認した。


「どこに?」


「この扉です」


「毎日、この扉から入ってたのに」


「リラは開けるとき、上しか見ない」


 ノアが扉の取っ手の横から言った。


「吊り具の高さが気になるから」


「文字も見て」


「視界には入ってたと思うんだけどなあ」


「見たことと、読んだことは別です」


 セインが掲示の下部を指す。


「検査終了予定は午後五時。ただし、結果によっては延長されます」


「今日の通し稽古は?」


「中止です」


「明日の朝へ移せば――」


「結果によっては延長されます」


「二回言わなくても聞こえたよ」


「一回目で予定を組み始めたので、理解していないと判断しました」


 扉の向こうでは、検査官が床を叩く音がしている。


 リラは隙間から中を見ようとした。


 すぐにノアが外套の裾を引く。


「関係者以外、立入禁止」


「私たち、関係者だよ」


「検査の関係者ではない」


「今日は休み」


 セラが言った。


「また休み?」


 リラが振り返る。


「前の休みで、少し人間になったでしょう」


「元から人間だよ」


「演出家は別」


「分類が厳しいなあ」


 少し離れた場所では、ラウルとレティアが検査官へ同時に話しかけていた。


「耐火溝だけでも使えないか?」


「水導管の検査箇所を先に終えていただければ、午後から部分使用が可能ではありませんか」


「検査順序はこちらで決めます」


「では、その順序を――」


「交渉は終了です」


 検査官が扉を閉める。


 ラウルの鼻先で、重い板が音を立てた。


「融通が利かないな」


「安全検査へ融通を求めないでください」


 レティアは不満そうだったが、扉をこじ開けようとはしなかった。


 エヴレンが白金の髪を肩へ払う。


「倉庫全体を、すでに検査済みの別の倉庫へ見せる方法もあります」


「公務執行への妨害となります」


 セインの返事は早かった。


「見せるだけです」


「検査結果が無効になります」


「美しい偽装でも?」


「偽装の品質は、違法性を下げません」


「制度は美に厳しいですね」


「あなたは制度を試さないでください」


 マリエが小型鍵盤の覆いを閉じた。


「本日は、全員解散でよろしいですか」


 その言葉を聞いても、誰もすぐには動かなかった。


 残された日数は多くない。


 一度でも通しておきたい。


 同じ焦りを抱えたまま、閉じた扉を見ていた。


     ◇


 帰りかけたところで、南区の広場から子どもの泣き声が聞こえた。


 小さな露店祭が開かれている。


 菓子や玩具の屋台が広場を囲み、その中央には、木箱を重ねただけの簡易舞台があった。


 舞台の幕は下ろされている。


 人形劇の役者が一人、熱を出したらしい。ほかの役者も荷物を運び直しており、今日の公演は中止だと説明していた。


 十数人の子どもが、空の舞台の前から動かない。


 その中に、青い帽子があった。


「セラ!」


 フィンがこちらを見つけ、走ってくる。


「走らないで」


 母親が後ろから呼んだ。


 フィンはセラの前で止まり、乱れた息を整える。


「歌って」


「今?」


「人形劇、なくなった」


「それは聞いた」


「今日は練習できないんでしょう?」


 セラは、閉じた幕を見る。


 次に、舞台の前へ残っている子どもたちを見た。


 百人はいない。


 審査官も、役人もいない。


 歌うことを求める紙も、評価する札もない。


「機材がない」


 リラが周囲を確かめた。


「楽団も、舞台用の設備もない。光も昼間だとほとんど見えないよ」


「私とあなたはいる」


 セラが言った。


 リラが目を瞬く。


「歌うの?」


「歌手だから」


「一曲全部?」


「短くする」


「歌詞は?」


「今、決める」


 セラはフィンではなく、リラを見た。


「嫌?」


「嫌じゃない」


 リラはすぐに答え、そこで一度止まる。


「でも、始める前に確認する。私の光を使う?」


「使う」


「どこまで?」


「私から離れすぎないで。客席へ渡すかは、歌ってから決める」


「ほかの魔法は?」


 セラは仲間たちを見る。


「まだ、いらない」


 ラウルが腕を組んだ。


「俺たちは帰れと?」


「見てて」


「それだけか」


「必要になったら聞く」


「それならいい」


 セラは再びリラへ顔を向ける。


「最初も、二人だった」


 最初の路地。


 楽団も、舞台もなかった。


 セラの声と、豆明かり一つ。


 立ち止まったフィンが一人。


「十二分は無理だよ」


「一曲全部じゃなくていい」


「途中で人が増えるかもしれない」


「数えないで」


 リラの口が閉じた。


 観客数を把握する必要はある。


 けれど、それを自分で数え、反応の意味まで決める必要はない。


「セイン」


「はい」


「安全上の人数だけ見てもらえる?」


「通路幅から、立ち見を含めて四十人までです。道路側へ三歩以上はみ出した場合、新規の入場を止めます」


「お願いします」


 セインは懐中時計を閉じ、広場の入口へ向かった。


 リラはセラを見る。


「私は数えない」


「うん」


「じゃあ、歌から始めようか」


     ◇


 露店祭の責任者へ確認すると、簡易舞台には路上演目の許可があり、十分以内の代演なら問題ないと認められた。


「火や雷は使いませんね?」


 責任者が仲間たちを見て、念を押した。


「今のところは」


 リラが答える。


「今のところ?」


「使いません」


 セラが言い直した。


 ラウルとセインも、同時にうなずく。


 簡易舞台は木箱を並べただけだった。


 背景は、陽を受けた灰色の壁。


 弱い光粒子を置いても、そのままでは白い石へ紛れてしまう。


 リラは舞台袖へ隠れず、セラの斜め後ろへ立った。


 光が届くのは、自分から十五歩ほど。


 客席も、壁も、その内側へ収まっている。


「少し暗くできる?」


 尋ねられたノアが、大きなローブの袖を揺らして顔を上げた。


「私もやるの?」


「見てるだけだと暇でしょう」


「報酬」


「蜂蜜牛乳一本」


「二本」


「交渉が成長してる」


「舞台と背景、二つ分」


「広場全体は暗くしないで」


 セラが言った。


「壁だけ。子どもの足元は残して」


「分かった」


 ノアは灰色の壁へ、薄い闇を一枚だけ置いた。


 昼を夜にはしない。


 ただ、光粒の輪郭が消えない程度の影を作る。


「これ以上はしない」


「十分」


「二本」


「公演後に」


 ノアは客席側面後方の椅子に座り、銀の瓶を抱えた。


 セラが簡易舞台へ上がる。


 酒場の作業着のまま。


 髪も、舞台用には整えていない。


 話していた子どもたちが、一人ずつ口を閉じた。


「短い歌を歌う」


 前置きは、それだけだった。


     ◇


 伴奏はない。


 セラが一度息を吸い、『帰れない灯』の最初の旋律を歌う。


 生の声が、南区の狭い広場へ広がった。


 リラは豆明かりをセラの左側へ置く。


「そこ?」


 歌の合間に、セラが小さく尋ねる。


「肩より少し下」


「もう少し遠く」


 光粒を、手のひら一つ分だけ離す。


 セラが次の言葉へ進んだ。


 リラは核から八つの光粒をほどく。


 二つは、セラの肩の後ろ。


 三つは、壁との間。


 残りは足元。


 窓も、花も作らない。


 光粒は呼吸に合わせて近づき、離れるだけだった。


 それでも、灰色の壁に奥行きが生まれる。


 セラの後ろに、見えない夜が続いているように感じられた。


 前列の子どもが一人、光を指さす。


 リラの指が、そちらへ動きかける。


 セラを見る。


 歌いながら、左手が少し開いた。


 変更の予告。


 次の呼吸が、予定より長くなる。


 リラは一粒だけ、指を伸ばした子どもの手元へ移した。


 小さな掌の上で、光が揺れる。


 隣の子も手を出した。


 総量は変わらない。


 客席へ分ければ、セラの周囲は暗くなる。


 リラは勝手に二粒目を出さず、歌い手を見た。


 セラはもう一度、呼吸を長くした。


「渡していい?」


 リラが小声で尋ねる。


 セラがうなずく。


 もう一粒を、隣の子へ渡した。


 舞台の光は薄くなった。


「暗くなった」


 フィンが言う。


「分けたからね」


 リラは、フィンの手元に残った光を指した。


「戻す?」


「そのまま持ってて」


 答えたのはセラだった。


 歌は、ほんの少しだけ遅くなった。


 子どもへ光を渡す時間を、自分の声で作っている。


 予定にはない変化だった。


 けれど、予告があった。


 リラは客席へ背を向けず、セラの呼吸を見た。


 ついてきて。


 今度の合図は、命令には見えなかった。


     ◇


 光はリラから遠くへ行けない。


 だから、子どもたち自身に隣へ渡してもらった。


 掌を寄せる。


 光粒が指の間を滑る。


 次の子が手を伸ばす。


 小さな光が、狭い客席を少しずつ移動した。


 中止になった人形劇の役者たちも、荷物を持ったまま足を止める。


 露店の客も集まり始めた。


 リラは、増えていく顔を見た。


 何人いるかという数字が、頭へ浮かびかける。


 広場の入口では、セインが立ち位置を指示していた。


「道路側ではなく、壁際へお願いします」


「ここからでも見える?」


「見えます。ただし、白線より前へは出ないでください」


 観客の数は、彼が見ている。


 リラは舞台へ視線を戻した。


 セラの声が、風に押されて少し外へ流れる。


 次の一節が聞こえにくくなった。


「水膜を使えます」


 客席の外から、レティアが言った。


 すぐには術を出さない。


「音を内側へ戻すための薄い膜です。視界は変えません」


 セラが歌を切らず、レティアを見る。


 次の呼吸で、一度うなずいた。


 レティアが広場の外周へ、透明な水膜を立てる。


 壁ではない。


 風へ押された声だけを、わずかに客席へ返した。


「手を貸してくれるの?」


 リラが小声で尋ねる。


「品質管理です」


「演出じゃない?」


「音響補助です」


「かなり参加してる気がするなあ」


「歌の景色は作っていません」


 レティアは水膜の厚みだけを調整した。


 ラウルは少し離れた場所で腕を組んでいた。


「俺は出さないぞ」


「炎を?」


「昼間の木舞台で火を出したら、歌より先に避難誘導が始まる」


「成長したね」


「今ので出したくなった」


「我慢も演出」


「それは認める」


 ラウルは代わりに、屋台の脇へ置かれていた金属板を動かした。


 陽を反射していた板の向きを変え、光がセラの目へ入らないようにする。


 派手な魔法ではない。


 観客には、何をしたのかも分からない。


 それでも、セラは眩しさに目を細めず、歌い続けられた。


     ◇


 エヴレンは、暗くなった壁を見ていた。


 何もない場所へ指を上げ、動かす前に止める。


「セラ」


 歌の切れ目を待って呼んだ。


「窓の輪郭だけを置きたい」


「中は?」


「空白です」


「人は出さないで」


「承知しました」


 壁に、細い窓枠が一つ現れた。


 中には誰もいない。


 花も、家の形もない。


 リラの光粒子が、窓の外を行き来する。


 誰がいた場所なのか。


 誰が戻るのか。


 観客がそれぞれ考えられる空白だった。


 マリエは簡易舞台の横へ立ち、楽器を出していなかった。


 セラの生の声を聞きながら、指だけで四和音の間隔を取っている。


 最後の部分へ入る直前、セラが左手を開いた。


 大きな変更の予告。


 マリエが顔を上げる。


「音、いる?」


 セラが歌の合間に尋ねた。


「必要ですか」


「一つだけ」


 近くの人形劇用の小さな打弦楽器を借り、マリエが最も低い弦を一度鳴らした。


 戻れと命じる音ではない。


 戻ってもよいと知らせる、低い一音だった。


 セラが最後の一節へ入る。


 ――帰れない道の向こうで。

 ――消えない灯を探してる。


 フィンが持っていた光粒を、隣の少女へ渡す。


 少女は、さらに隣へ渡した。


 光は、一人の手へ留まらない。


 セラが長く息を吸った。


 左手は、まだ開いている。


 リラは豆明かりの核で、小さな円を描いた。


 次の展開へ移る可能性。


 ラウルは動かない。


 レティアは水膜の厚さを変えず、光の反射だけを少し落とした。


 エヴレンは窓を残し、それ以上何も作らない。


 ノアは壁の闇を薄く保つ。


 セインは入口の人の流れを止め、新しい観客を中へ入れなかった。


 セラの声が変わる。


 ――ひとりで持てない夜ならば。

 ――隣の手を探せばいい。


 初めて歌う言葉だった。


 リラは意味を決めなかった。


 孤立していた光粒を、近くの光粒へ寄せる。


 一つへ重ねず、二つずつの距離を近づけた。


 レティアの水膜が、それぞれの光を淡く映す。


 ノアの闇は、光粒と光粒の間に空白を残した。


 エヴレンは何も足さない。


 マリエの音も、すでに消えている。


 大魔法は一つもなかった。


 炎の鳥も。


 空中の海も。


 白い雷もない。


 それでも、灰色の壁と木箱の舞台は、短い歌の世界になっていた。


     ◇


 歌が終わった。


 子どもたちが拍手をする。


 人形劇の役者も、露店の客も手を叩いた。


 リラは音の大きさを測らなかった。


 拍手が始まるまでの時間も数えない。


「今日のは、近かった!」


 フィンが叫んだ。


「何が?」


 セラが舞台の上から尋ねる。


「歌。触れそうだった」


「触ったのは光でしょう」


「歌も、その近くにいた」


 フィンはうまく説明できず、掌の上に残る光粒を見た。


 セラも、少し考えるようにその光を見る。


「最低限、成立した」


「最低限どころか、かなりよかったよ」


 リラが言う。


「途中から、全員が同じ歌の中にいた」


「最初は二人だった」


「ノアも最初から」


「闇は背景設備ということで」


「報酬二本」


 後方から、ノアが指を二本上げた。


「忘れてないよ」


「今、忘れそうな顔だった」


「公演直後は忙しいんです」


「数えてないのに?」


「数えないことと、支払いを忘れることは別」


 ノアは満足したように指を下ろした。


 笑い声が落ち着いても、子どもたちは掌を閉じなかった。


 リラから渡された光粒を、消えるまで互いに見せ合っている。


「私の、まだ少し動く」


「僕のは、さっき道の端にいた」


 その中の少女が、掌に浮かぶ光粒を見たまま尋ねた。


「星冠祭でも、みんなに一つずつくれるの?」


 リラは指先へ残った豆明かりを見た。


 二十人へ分けただけでも、一粒ずつの輪郭はずいぶん薄くなっている。セラの顔を照らしていた光も、歌の終わりには消えかけていた。


「三千人に一つずつは、無理だなあ」


「じゃあ、自分で光を出すの?」


 フィンが掌の光粒を見ながら尋ねる。


 隣の少女は首を横へ振った。


「私はできない。今日は、リラがくれたから動かせた」


 責める声ではなかった。


 それでも、リラの視線が少女の掌で止まる。


 生活灯を出せる者だけなら、客席にも光は作れる。


 けれど、それでは歌へ何かを返したくても、返すための灯を持たない者が残る。


「じゃあ、借りられる灯が必要だね」


 リラが言った。


「三千人分?」


 セラが舞台から尋ねる。


「全員分じゃなくていいと思う」


「どうして」


「光を持ちたい人にだけ渡す。歌だけを聞きたい人まで、無理に光らせる必要はないでしょう」


 セラは少し考えてから、うなずいた。


「持たない人も、同じ客席にいる」


「うん」


 リラは演出表の余白へ、二行だけ書き込んだ。


 ――三千人の客席で、必要な人へ貸せる小さな灯を探す。


 ――受け取るかは、観客が決める。


 書き終えて顔を上げると、セラはまだ客席を見ていた。


 子どもたちの掌には、リラから渡された光が残っている。


 けれど、その光を動かしている本人は、舞台の斜め後ろに立っていた。


 セラは客席からリラへ視線を移す。


「次は、リラも舞台の端へ立って」


「私が?」


「光は見える。でも、誰が動かしてるか分からない」


「裏方は、分からない方が成功じゃない?」


「私は嫌」


 セラは迷わなかった。


「私一人で、歌を見せたみたいに見える」


 リラは、冗談へ変える言葉を探した。


 いつものように「歌姫が主役だから」と笑えば済む。


 けれど、セラは役割の話をしているのではなかった。


 誰と作ったものなのかを、隠したくないと言っている。


「端でいいの?」


「中央に来たら邪魔」


「扱いが具体的だなあ」


「十五歩以上離れないで」


 リラの口元が、ようやく少しだけ上がった。


「了解」


     ◇


「本番前に、勝手な公演をするな」


 広場の後ろから、アルドの声がした。


 いつ来たのか分からない。


 銀の杖を持ち、子どもたちの外側へ立っている。


「中止になった人形劇の代演です」


 リラが答えた。


「出演許可は」


「南区露店祭には、十分以内の路上演目を認める包括許可があります」


 セインが、責任者から受け取った札を見せる。


「観客は最大収容数以内。道路へのはみ出しもありません」


「準備がいいな」


「リラさんと行動する際の基本です」


「信用の方向が悲しい」


「安全の方向です」


 アルドは簡易舞台を見る。


 灰色の壁。


 薄い闇。


 空の窓。


 子どもたちの手に残る、小さな光。


「何を見た?」


 リラが尋ねた。


 倉庫で聞いたとき、アルドは本番で答えると言った。


 老人は少しだけ眉を上げる。


「これは本番ではないぞ」


「客として見たでしょう」


「抜け道を使うようになったな」


「師匠に似たんです」


 アルドは杖へ両手を重ねた。


 すぐには答えず、フィンから隣の子へ渡される光を見る。


「舞台は、歌から始められる」


 やがて言った。


「歌う者がいて、それを誰かへ届かせようとする者がいる」


「観客は?」


「一人が立ち止まれば、公演になる」


 アルドは、広場へ増えた人々を見回す。


「ただし、続けるうちに人が加わったなら、もう始めた者だけのものではなくなる」


 ラウルが動かした金属板。


 レティアの水膜。


 エヴレンの空の窓。


 マリエの低い一音。


 セインが守った通路。


 ノアの薄い闇。


 誰も、リラに集められただけではない。


 歌を聞き、自分で残ることを選んでいた。


「次は、私も最初から?」


 ノアが尋ねる。


「正式メンバーに入りたい?」


「二本」


「毎回?」


「物価が上がった」


「蜂蜜牛乳だけ、急激な値上がりだね」


「技術料」


 セラが小さく笑った。


 ほんの短い笑顔だった。


 リラは時間を見なかった。


 光を足して、美しく見せようともしなかった。


 ただ、その隣に立っていた。

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