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それぞれの朝

https://51583.mitemin.net/i1187793/


オサリアとペプシルを落描きました。

窓から差し込む柔らかな光が、

オサリアの瞼をくすぐった。


「……ん……」


ゆっくりと目を開く。


見慣れない天井。

数秒遅れて、騎士団の施設に泊まっていたことを思い出した。


鳥のさえずりに紛れて、

遠くで鍛冶の音が鳴り響いている。


「……朝かぁ」

ベッドから身体を起こす。

昨日よりは少しだけ気持ちが軽かった。


顔を洗い、身支度を整える。

廊下へ出れば、朝の静かな空気が流れていた。


ラウンジの方から紙を捲る音が微かに聞こえる。

覗いてみれば、グランヴィアが机へ向かって

大量の資料と睨めっこしていた。


「おはよ!」

元気よく声を掛ける。


「おお!オサリア!!おはよう!!」

いつもの大声だった。


机の上へ広げられた大量の紙を見て、オサリアは目を瞬かせる。


地図や結晶の資料、騎士団から借りた報告書。

そしてその隣には、数字がびっしり書かれた紙束。


「なにしてるの?」

「調査だ!!」

グランヴィアは胸を張る。


「結晶の情報整理と家計簿だな!!」


机の上には計算の跡が散らばっている。

どうやらかなり苦戦しているらしい。


その時。


一枚の紙が風で捲れた。


オサリアの目に、何かの数字が映る。


薬代。

診察代。

定期検査。

合計金額。


……思わず息を呑んだ。


高い。

オサリアが想像していたより、ずっと。


「……大変なんだね」


ぽつりと漏らす。

グランヴィアは一瞬だけ目を丸くした。


そして。


困ったように笑う。


「まあな」


昨日見せた豪快な笑顔とは少し違う。

疲れの滲んだ、大人の顔だった。


「でも、ソラが生きてるだけで十分だ」

迷いのない声だった。


「金は稼げば増える。でも、妹は一人しかいねぇからな」


オサリアは何も言えなかった。


胸の奥が少しだけ苦しくなる。


「……お手伝いする?」


そう言うと。


グランヴィアは一瞬固まった後、豪快に笑った。


「ガッハッハ!!ありがたいが計算出来るのか!?」

「……難しいかも!」

 

二人で小さく笑う。


その時だった。


「そこや!!踏み込みが甘い!!」

「うるせえ!!」


外から聞き覚えのある声が響く。


オサリアは窓に視線を移す。


中庭。


木槍と木刀を構えたサクヤとペプシルが向かい合っている。


「ほら見ろ!またや!!」

「黙れ!!」


〈ガキィン!!〉


木剣がぶつかり、サクヤの槍がしなる。

すかさずペプシルが踏み込む。


…朝練をしているらしい。

朝日を浴びながら戦う姿は、昨日死地を潜った人達とは思えないほど生き生きとしていた。


「元気だなぁ……」


オサリアは思わず笑った。


「オサリアも混ざってきたらどうだ?」

「うーん……木っ端微塵にされるかも…」

「ガッハッハ!!木刀だけにってか!」

「……」

 

オサリアは何も無かったことにして、辺りを見回した。


「ヨザキさんとイリアスは?」


グランヴィアは資料を見ながら答える。


「イリアスは中央街へ」

「ヨザキは図書館だ。朝早くから行ったぞ」

「図書館?」

「昨日の結晶について調べるらしい」


グランヴィアは紙へ視線を落としたまま言う。


「なんか、顔色悪かったけどな」


オサリアは少しだけ眉を下げた。


「……そっか」


窓の外を見る。


遠く。


ガルディアの街並みの向こうに、大きな図書館が見える。


「ちょっと行ってくる!」

「おう!」


グランヴィアが顔を上げる。


「迷子になるなよ!!」

「ならないもん!」


そう言い返しながら、オサリアは施設を飛び出した。


外に出れば、相変わらず街は活気に満ちていた。

熱気がわっと顔を覆う。


「やっぱり暑いな…」


暫く歩けば、中心街へと差し掛かる。

三軒に一軒は鍛冶屋。

闘技場まである街だ。武器が生活に深く根付いているのだろう。


「だからそこをこう加工すればだな――」


「おお!なるほど!!」


不意に、どこからかイリアスの声が聞こえてきた。

声のした方を見れば、イリアスが鍛冶屋らしき老人と

楽しそうに話している。


イリアスの眼前には加工前の鉄。手にはハンマー。

「……どう見ても弟子なんだけど」

オサリアは苦笑した。

 

「イリアスー!」

「お? オサリアじゃん」

イリアスは額の汗を拭った。


「何してるの?」

「鍛冶の話。ガルディア式の精錬技術が面白くてよぉ」


隣の老人が豪快に笑う。


「兄ちゃん筋が良いぞ! 半年も叩きゃ立派な鍛冶師だ!」

「いや、本業あるんで」

イリアスは苦笑した。


「アイゼルの機械仕掛けな武器も悪かねえ。

でも、ガルディアの鉄は人の手で鍛える」


老人は自らの拳を見せた。


「便利な道具が増えてもな、最後に鉄へ魂を込めるのは人間だ」


イリアスはハンマーを金床に置き、腕を組む。


「そりゃ、うちの技術者が聞いたら怒るぞ」

「上等だ!無認可魔法器なんぞ作っとる輩もいやがる!

 今度連れて来い!」

「喧嘩になるって」


イリアスはどこか複雑な表情を浮かべながら笑った。


「……すごいねえ」


オサリアが笑う。


「ん?」

「イリアスって、どこ行っても友達作るよね」


イリアスは目を瞬く。

そしてフッ、と笑った。


「友達っつうかね…単に話しやすい相手選んでるだけだよ」

「色々聞けるようにな」


そう言いつつ、イリアスは老人とすっかり打ち解けている。

老人も楽しそうに笑っていた。


「どんな技術か気になるだろ?

 他の街なんてそうそう来ねえんだから」


イリアスは当然のように答える。


オサリアはその様子を見て微笑んだ。


この人は、本当に知らないことを知るのが好きなんだな。


 

「そうだ」


イリアスがふと思い出したように口を開く。


「ヨザキ探してんだろ?」

「えっ」


オサリアは目を丸くした。


「なんで分かったの?」

「心を読んだ」

「えぇっ!?」

「嘘」

「え??」

イリアスは意地悪そうに笑った。

「施設にはグランヴィアとペプシルとサクヤ。

嬢ちゃんが暇な時に行くのは大体ペプシルのとこだろ」


「な……そんなことないよ!」

オサリアは手をパタパタとさせる。


「んで、昨日やたらヨザキにビビってた嬢ちゃん。なんかしら話に行くんじゃねえかと思っただけだ」


オサリアはつい息を呑む。


……え、バレてる。

そんなに顔に出ていたのだろうか。


「……わ、分かりやすかった?」

「めちゃくちゃ」

即答だった。


「うぅ……」

オサリアは項垂れる。


老人が豪快に笑った。

「ガッハッハ! 嬢ちゃん、顔に全部出るタイプだな!」

「くうぅぅ……」

なんだか少しだけ悔しい。


「ま、そんな怯えんな」

イリアスは肩を竦めた。


「アイツは理屈抜きで酷いことしねえ」


そういって、すっと視線を細める。


「……嬢ちゃんの闇についてもな」

 

オサリアの息が止まった。


「――え」


心臓が大きく跳ねる。

 

風の音だけが耳に残った。


「親父、嬢ちゃんはもう行くみたいだ。

 さっきの続き教えてくれよ」


イリアスは何事もなかったかのように、

ころりと話題を変えた。


「おう!叩き方の話だったな!」


背後で、再び鉄を叩く乾いた音が響き始める。二人はもう、鍛冶の話に夢中だ。

 

オサリアは立ち尽くしたまま、自分の胸元をぎゅっと握りしめた。

 

知っていた。

イリアスは知っていたのだ。

 

もしかしたら、ペプシルも、サクヤも、ヨザキさんも?


なのに、誰も何も言わない。

腫れ物に触るようでもなく。

怖がるでもなく。


ただ、いつも通りに笑ってくれる。


闇は怖いものなのに。

うちだって怖いのに。


……なんで?

 

「.....ありがと」

 

ぽつりと呟いた声に、イリアスは振り返らない。

ただ、背中越しに片手だけをひらひらと振った。


 

「……図書館、行こう」

オサリアはぎゅっと胸元を押さえる。

ガルディアの大図書館へ向かって歩き出した。



石畳の先。

街の中央に建つ巨大な建造物が、朝日を受けて静かに佇んでいた。


中央街の喧騒が嘘のように、この辺りだけは穏やかな空気が流れている。

図書館へ足を運ぶ者は多くないのだろう。

人影はまばらで、風に揺れる木々の音だけが耳へ届いた。

建物を囲うように植えられた草木は青々と茂り、

石畳の隙間からも小さな草花が顔を覗かせている。

まるで街の中に切り取られた別世界のようだった。


「わぁ……」


オサリアは思わず小さく声を漏らした。


図書館は騎士団の施設よりも遥かに大きい。

白い石造りの外壁には蔦が絡み、長い年月を感じさせる。

入口へ続く階段の両脇には大樹が根を張り、その木陰が夏の日差しを優しく遮っていた。


闘技の街。


そんなガルディアの中で、この場所だけは別の時間が流れているようだった。


「なんだか……ヨザキさんっぽい場所かも」

 

静かで。


少しだけ近寄り難くて。


でも、どこか落ち着く場所。



オサリアは階段を上り、大きな扉へ手を掛ける。


ぎぃ、と重い音を立てて扉が開くと、

ひんやりとした空気が頬を撫でた。


中はさらに広かった。

 

壁一面を埋め尽くす、無数の本。

高窓から差し込む柔らかな光が、宙を漂う埃を淡く照らしている。


紙とインクの独特な匂い。

そして時折、本をめくる音だけが静かに響く。


オサリアはきょろきょろと辺りを見回す。


「えっと……ヨザキさん……」


だが、広い。

とにかく広い。

本棚が迷路みたいに並んでいて、どこにいるのか見当もつかなかった。


「うーん……」


とりあえず奥へ進んでみる。

歴史書。

地誌。

魔法理論。

見たこともない難しい本が並んでいる。

 

「ペプシル、こういうの好きそう」

 

だが、自分は題名を眺めているだけで眠くなりそうだった。


「ヨザキさん、こういうの全部読むのかなぁ……」

 

考えただけで頭が痛くなる。


その時だった。


「あっ」


本棚の隙間から、見覚えのある黒髪が見えた。


窓際の、柔らかな光の差し込む席。

数冊の本を積み上げ、何かを書き留めている青年がいた。


横顔は少し青白い。

昨夜よりも、どこか疲れて見えた。


オサリアは思わず足を止める。


……いた。


見つけた。


なのに。


どうして来たんだっけ。

何を話そうと思ってたんだっけ。


胸の奥が少しだけざわつく。


闇のこと。

ソラのこと。

昨日の鉱山のこと。


聞きたいことは沢山あるはずなのに、言葉が出てこない。


その時。


ぱたり、と本が閉じられた。


ヨザキが顔を上げる。

紫の瞳が、真っ直ぐオサリアを捉えた。


少しだけ目を見開いて。


「……迷子になったのかい?」


そう、いつものように穏やかに呟いた。


オサリアはぱちぱちと瞬きをする。


「ち、違うもん。ヨザキさんを探してたの」

「それは失礼した」


口ではそう言いながらも、ヨザキの表情はあまり変わらない。


けれど。


本当に少しだけ、肩の力が抜けたように見えた。


「隣、座るかい?」

窓際の席を軽く示される。


オサリアは小さく頷くと、椅子を引き、隣へ腰掛ける。


窓から吹き込む風が心地よかった。

机の上には何冊もの本が積まれている。

セレスティア災害史。

古代魔法体系論。

禁書指定目録。

難しそうな文字ばかりだ。


「……読めるの?」

「一応ね」


さらりと返ってくる。


やっぱり凄い。

オサリアは素直にそう思った。


その時だった。


ふと、ヨザキの手元が目に入る。


細く長い指先。

それは僅かに震えていた。


「……ヨザキさん」


「何だい?」

 

「具合、悪いの?」


ヨザキの手が止まる。


僅かな間。


「少し寝不足なだけだよ」

 

穏やかな声。

だが、紫の瞳は揺れていた。


オサリアはぎゅっと膝の上で手を握る。


「……ねえ、ヨザキさん」


喉が少しだけ震えた。


「どうしたんだい」


ヨザキは声色を変えず問いかける。


「もしさ」


「……知ってる誰かが、危ない力を持ってたとして」


窓の外で木々が揺れる。


「それでも、一緒に居たいって思うこと……あるのかな」


ヨザキは何も言わなかった。


ただ静かに、窓の外へ視線を向ける。


頁がぱらりと揺れた。


「あるよ」


迷いのない声だった。


ヨザキは本を閉じる。

その横顔は、どこか少しだけ寂しそうだった。


「人は力だけで誰かを判断したりしない」


静かな声。


まるで、自分自身に言い聞かせるような声。


「少なくとも、僕の知る人達はね」


そういって、紫の視線は琥珀の瞳を一瞬映す。


オサリアは目を見開いた。


自分のことを言われた訳じゃない。

なのに、胸の奥で何かがほどけていく気がした。


「……でも」


気づけば、言葉が零れていた。


「でももし、その力が誰かを傷つけちゃったら?」


声が震える。

なにかに縋るように、許しを乞うように。

 

ヨザキは答えない。


窓の外で青空に手を伸ばすように揺れる木々を、

紫の瞳が静かに映している。

 

長い沈黙の後。


「責任は取らなきゃいけないだろうね」


静かな声だった。


優しくも、甘くもない。

ただ事実を語るような声。


オサリアの肩が僅かに震える。


「……でも、人は失敗する」


ヨザキは続けた。


「間違えることもあるし、誰かを傷つけることもある」


「一人では抱えきれない」


そこで初めて、ヨザキは真っ直ぐオサリアを見た。

その視線は、不思議なくらいに穏やかだった。


「傷つけないように生きるんじゃなくて、

傷つけてしまった時に向き合えるように生きればいい」


「誰かを傷つける可能性があるからって、

最初から独りでいる必要はないのさ」


オサリアは紫色の瞳を見つめる。


喉の奥が熱くなった。

泣きたいわけじゃない。

でも、胸の奥で固く凍っていた何かが、

少しだけ溶けていくような気がした。

ぎゅっと自分の服の裾を握る。


溢れそうな感情をごまかすように、慌てて視線を落とす。

その時、机の端に置かれた紙に書かれた文字が、

偶然目に入った。


『サンクチュアリ』

『グリモワール』

『古代ノクス』


オサリアの表情が固まる。


ヨザキは静かに紙を伏せた。

まるで見せたくなかったものを隠すように。


「……今の」


オサリアが小さく呟く。


「ノクスって……」


喉がひりつく。


自分の故郷。

闇を持つ者達の国。

世界から恐れられ、隔離された土地。


ヨザキは少しだけ目を伏せた。


「調べ物だよ」

穏やかな声だった。

だが、その答えはあまりにも曖昧だった。


「結晶と古代文明の関連を探してる」

「……そうなんだ」


「……オサリアちゃん」


不意に名前を呼ばれる。

顔を上げると、紫の瞳と目が合った。


静かで。


深くて。


まるで何かを見透かすような目。


「君は、自分が思っているより優しい人だ」


突然の言葉に、オサリアは目を瞬かせた。


「え?」

「だから、自分の力を必要以上に怖がっている」


窓辺のカーテンが揺れた。


「力に善悪はない」


ヨザキは静かに言う。


「使う人間が、どう在るかだ」


オサリアは息を呑む。


それは誰かに言われたことのない言葉だった。


闇は危険で、恐ろしくて、忌むべきもの。

だから隠さなきゃいけない。

ずっと、そう思って生きてきたオサリアにとって、

その言葉はあまりにも優しかった。


「……でも」


オサリアは俯く。


「うち、怖いよ」


本音だった。

初めて零れた本音だった。


「みんなを傷つけたくない」


「嫌われたくない」

 

消えかけの蝋燭のような、小さな声。


ヨザキは何も言わない。


ただ、ほんの少しだけ目を細めた。

…その言葉を、ずっと前から知っていたかのように。


「――だったら」


静かな、けれど確かな響きを持った声が降ってくる。


「一人で抱えないことだ」


その言葉に。

オサリアはゆっくりと顔を上げた。

 

紫の瞳が、静かにオサリアを映す。


「自分が暗闇で迷子になった時に、

光の方へ連れて行ってくれる人を見つけるんだ」


ヨザキは小さく目を伏せる。


「……僕も、そうしてもらったから」


その言葉は独り言のようだった。


オサリアが「え?」と瞬きをすると、

ヨザキはほんの少しだけ、悪戯っぽく笑ってみせた。


「君たちが思っているより、人は誰かに支えられて生きてるってことさ」



オサリアは窓の外を見上げた。


青い空。


揺れる木々。


街は今日も変わらず動いている。


「……なんか、お腹空いたかも」


ぽつりと呟く。


ヨザキが小さく瞬きをした。


「さっきまで深刻そうな顔をしていたのに?」

「だって考えすぎるとお腹空くもん」

「初めて聞いた理論だね」


ヨザキはほんの少しだけ笑った。


それだけで、胸が少し温かくなる。


全部は分からない。

怖いものも、まだ沢山ある。

ペプシル達が本当はどう思っているのかも、分からない。


でも、一人じゃないのかもしれない。

そんな気がした。


オサリアは小さく笑った。


「……ありがと、ヨザキさん」

その言葉に、ヨザキは少しだけ目を丸くした。


そして。


「どういたしまして」

窓から吹く風が、本の頁を静かに揺らした。


図書館には、再び穏やかな時間が流れる。


 

その時だった。


 

〈――ゴォォォン〉


低く重い音が、お腹の底を揺らすように響いた。

図書館の大きな高窓が、微かにカタカタと震える。

オサリアはびくりと肩を跳ねさせた。


「……?」


図書館の中がざわつく。

本を読んでいた人々が顔を上げ、司書達も驚いたように窓の外を見た。


それは、闘技場の開幕を告げる銅鑼の音ではない。

何かの非常事態を知らせるような、胸がざわつく音。

 

ヨザキの表情が僅かに変わる。


「……警鐘?」


静かに立ち上がる。


続けて、二度目の音が鳴った。


〈――ゴォォォン〉


今度は先程よりも短く、鋭い。

図書館の空気が目に見えて張り詰めた。


「二回……?」

オサリアが小さく呟く。


ヨザキの目が細まる。


「グランヴィア達の所に戻ろう」


オサリア達は図書館を出て、急いで街へ戻る。

 

中央街まで行けば、熱気と共に悲鳴が飛び込んできた。

さっきまで活気に満ちていた鍛冶屋の通りは、大混乱に陥っている。

商品の鉄器をひっくり返したまま走る店主。

泣き叫ぶ子供を抱きかかえる母親。


『道を空けろ!!』


『騎士団を呼べ!!』


『結晶だ!!』


『人間が結晶化してるぞ!!』


その言葉に、二人の背筋を冷たいものが走る。


――人間。


昨日まで、魔物の話だったはずなのに。


ヨザキは無言でオサリアの手を強く握る。

その動きには、普段の穏やかさとは違う焦りが滲んでいる。


「波にのまれる前に行こう」

 

嫌な予感がする。


二人は人の波をかき分け、施設へと向かった。

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