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侵食する黒き災害

翌朝。


〈ガン!!ガン!!ガン!!!〉


鍛冶屋の音。

そして。


「おら起きろォ!!」


〈バン!!〉


食堂の机が叩かれた。


「うぉっ……!!」

ペプシルが飛び起きる。


目の前には店員。


「営業始めるよ!」

「だから起きな!」


周囲を見渡す。

オサリアは机に突っ伏したまま。

サクヤは椅子にもたれたまま。

イリアスは椅子を三つ占領したまま。


グランヴィアは床。


やっぱり床だった。


「だから何で床なんだよ……」

ペプシルは朝から同じことを言った。


「床は落ち着くだろ!!」

当の本人は突然元気よく飛び起きた。

 

「うるせえ」

ペプシルは即答する。


「よう分からん」

サクヤが寝ぼけ眼で呟いた。


「俺も」

イリアスが椅子から落ちながら言う。


「うちも……」

オサリアはまだ半分寝ていた。


「お前らさっさと目覚ませ……」

ペプシルはため息をついた。

 

ヨザキは既に起きており、手帳や資料を眺めていた。

 

その時。


「ほらほら、起きたなら飯食いな!」

 

店員が皿を運んでくる。


「サービスだよ!」

 

〈ドン!!〉

 

机に並べられたのは大量のパン。

そして肉。


「朝から肉……」

「朝だからだ!!」


何故かグランヴィアが胸を張る。


「お前の店じゃねぇだろ」

「まあ食え食え!」

店員は豪快に笑う。


「腹が減ってちゃ仕事にならないからね!」

「それはそうやな」

サクヤは素直に頷いた。


気付けばオサリアは既に肉へ手を伸ばしている。


「早いな」

「だってお腹すいたもん」

「さっきまで寝てたろ」

イリアスが苦笑した。


朝食を終える頃には、全員すっかり目が覚めていた。

 

「……流石に脂がやばいかもしれねぇ」

「歳じゃない?」

「ガキ、俺はまだ三十超えてねえ」

イリアスは苦しそうにお腹をさすっている。

 

ヨザキは資料を閉じた。


「さて」


自然と視線が集まる。


「今日から本格的に調査を始める」


空気が少しだけ引き締まった。


昨日までとは違う。

ここからが本題だ。


「まずはどこ行くんや?」

 

ヨザキは地図を広げながら話す。


「西部鉱山」

 

その名前を聞いた瞬間、グランヴィアが僅かに頷く。


「……やっぱりそこか」

「知ってるの?」

オサリアが首を傾げる。


「ああ」

「今ガルディアで一番被害が出てる場所だ」


グランヴィアの表情は珍しく真面目だった。

ヨザキは資料を一枚めくる。


「被害が急増したのは三ヶ月前」

「最初は結晶の発見報告だけだった」

「だが今は違う」


地図の一点を指差した。


「ラグナ同様、魔物被害が急増」

「採掘作業員の負傷者も増加」

「現在は採掘区域の一部が封鎖されている」


サクヤが眉をひそめる。

「結構ヤバいやん」


「武器の材料とか採れなくなるんじゃねぇのか?」

イリアスが聞く。


「ああ」


グランヴィアは小さく息を吐く。


「ガルディアの鍛冶屋の大半はあそこの鉱石を使ってる」

「完全に止まれば困る奴は多い」


ペプシルは腕を組む。


「ガルディアの騎士団も放置してる訳じゃねぇんだろ?」

「もちろんだ」

ヨザキは手帳のページをめくる。


「定期的な十人委員会の会議や、討伐隊も出ている」

「だが根本的な解決には至っていない」


沈黙。



「十人委員会ってなに」

オサリアがコソッとペプシルに聞く。

「ガルディアの政治的なトップ達のことだ」


 

黒い結晶。

それが何なのか、誰も知らない。


「だからまた調べる」

ヨザキは静かに資料を閉じた。


「まずは現場を見る」

その言葉に全員が頷く。


オサリアは最後のパンを口へ放り込んだ。

「んぐっ」

「食いながら返事すんな」

「んぐぐ」

「飲み込んでから喋れ」

ペプシルは呆れる。


サクヤは笑った。

「相変わらずやな」


各々支度を済ませれば、グランヴィアが立ち上がる。


「準備は出来たか!!」


「ああ」

「出来てるで」

「出来てるよ」

「行けるぜ」

「うん!」


全員の返事を聞いて満足したらしい。

グランヴィアは大きく頷いた。


「よし!!」


「行くぞォォォォォ!!!」


食堂が揺れた。


「だから声がデカいねん!!」

サクヤの怒鳴り声が響く。


店員は腹を抱えて笑っていた。


「朝から元気だねぇ!」

「気をつけて行ってきな!」


そんな騒がしいやり取りをしながら、一行は食堂を後にした。


 

ガルディアの街は今日も賑やかだった。


鍛冶屋の槌音、市場の呼び込み、行き交う戦士達。

その活気の向こうに見える山々。


西部鉱山は、そのさらに奥にある。


昨日までの気楽な空気はない。


これから向かうのは、結晶被害の最前線だ。

ヨザキは遠くの山を見つめる。

そこに答えがあるかは分からない。


だが、行かなければ何も分からない。


六人は西部鉱山へ向けて歩き始めた。


街道へ出ると石畳が土の道へ変わり、

周囲の景色も徐々に変化していく。


遠くには山々。その麓に鉱山があるらしい。


「結構遠いの?」

オサリアが聞く。


「歩いて二時間ほどだ」

ヨザキが答える。


「うへぇ……」

オサリアが露骨に嫌そうな顔をした。


「食った直後だからな」

ペプシルが呆れる。


「眠いしお腹いっぱいだし……」

「食い過ぎなだけだ」


そんな他愛もないやり取りをしながら進む。


やがて街の喧騒も遠ざかり、風の音だけが聞こえるようになった。


「なあ」


珍しくグランヴィアが静かに口を開いた。


「結晶の話だが」


全員がそちらを見る。


「鉱山周辺では珍しくない。最近は街道沿いでも見つかる」

「魔物や家畜にも付いてることから、良くないのは確かだ」

「だがトップも騎士団も、それぐらいしか分かっていない」


グランヴィアの声は重かった。


ヨザキが頷く。


「現状、それが事実だ」


結晶は各地で発見されている。

結晶の近くでは魔物被害が増える。

痛みも恐怖も感じなくなり、魔物が異常に凶暴化する。

結晶が身体を突き破っている個体もいる。

――オサリアが執拗に狙われる。


だが、なぜそうなるのか。

結晶が何なのか。

誰も知らない。


「何だか気持ち悪いよね。理由が分からないのって」


誰も否定しなかった。


魔物なら倒せる。

盗賊なら捕まえられる。

 

だが結晶は違う。


正体が分からない。


だから不気味だった。


 

歩いているうちに、徐々に景色が変わり始めた。


木々は減り、代わりに岩肌が増える。


地面には採掘で削られた跡。

放置された荷車や錆びた工具もあった。


「近いな」

グランヴィアが呟く。


その時だった。


「……あれ」


オサリアが足を止めた。


皆も視線を向ける。

街道脇、岩の隙間から黒い何かが生えている。

細く、小さい。

黒い結晶だった。


「こんな所にも……」


ヨザキがしゃがみ込む。


昨日見た欠片とは違う。

 

地面から生えている。


岩の隙間に根を張るように伸びており、

まるで植物のようだった。


結晶の表面が僅かに軋む。

まるで何かが呼吸しているように。


誰も触れようとはしなかった。


そして再び歩き出す。



山の麓が見えてきた。


巨大な採掘施設の傍に、削り取られた岩山。

無数の坑道。


そして――その入り口付近に集まる騎士達。


ただならぬ空気だった。

 

ヨザキが目を細める。


「行こうか」


六人は足を止めることなく、西部鉱山へ向かった。


 

西部鉱山の入口付近は騒然としていた。

騎士達が慌ただしく行き来している。


荷車には負傷者らしき男達が居る。

治療班が走り回り、怒鳴り声まで飛び交っていた。


「何かあったんか」

サクヤが眉をひそめる。

グランヴィアも表情を引き締めた。


入口にいた騎士の一人がこちらへ気付く。


「グランヴィア様!」

 

駆け寄ってきた騎士は、どこか焦った様子だった。


「どうした」

グランヴィアが聞く。


騎士は一度息を整える。


「今朝方、封鎖区域付近で結晶化した魔物が出現しました」

「またか」

グランヴィアが舌打ちする。


「討伐は?」

ヨザキが尋ねた。


「完了しています。…ですが問題は別です」


騎士は苦い顔をする。


「結晶が増えています」

 


「以前は坑道の奥だけでした」

「ですが今は違います」


騎士は鉱山の斜面を指差した。


そこには――黒い結晶。


岩肌から突き出すように、

大小様々な結晶が生えていた。

昨日見た街道脇の物とは比べ物にならない。


人の背丈ほどある物まで存在する。


「……でけえ」


ペプシルが思わず呟く。


「三ヶ月前はまだ小さな結晶でした」


騎士が言う。


「今では毎週のように増えています」

「……このままでは、いずれ坑道そのものが埋まるかもしれません」

 

風が吹く。


〈ミシ……〉

 

黒い結晶が僅かに軋んだ。

…嫌な音だ。

まるで生き物の骨が鳴るような。


ヨザキは手帳を取り出す。


「近くで見ても?」

「構いません」


騎士は頷いた。

ヨザキは結晶へ近付く。

 

表面を観察する。


鉱石とは違う。

ガラスとも違う。


何か別の――生物的な不気味さがあった。


「……成長している…?」

小さく呟く。


「何か分かったか?」

ペプシルが聞く。


「まだ分からない」

ヨザキは首を横に振った。

だが、その目だけは険しい。


「ただ、一つだけ言える。これは自然の鉱石じゃない」



その時。


鉱山の奥から――


〈ギャアアアアアアアアアッ!!〉


獣の咆哮が鉱山全体へ響き渡る。


騎士達が一斉に動いた。


「第二層だ!!」

「急げ!!」

慌ただしく駆け出していく。


グランヴィアは大剣を肩へ担いだ。

「……仕事だな」

「調査開始一分で戦闘かよ」

ペプシルが顔をしかめる。


「いつも通りやな」

サクヤは槍を握る。

 

「ま、ささっと片付けましょうや」

イリアスは銃をクルッと回した。


ヨザキは騎士へ向き直る。


「状況を聞かせてください」

 

騎士は走りながら答える。


「今朝討伐したはずの区域です!」

「結晶化した魔物は全滅させた!」

「なら何でまた出る?」

イリアスが聞く。


「分からない!」

騎士は悔しそうに歯を食いしばる。


「以前は数日空いていたんです!」

「最近は半日も持たない!」


全員の表情が変わった。


「半日……」

オサリアが呟く。


坑道へ足を踏み入れる。

外の光は徐々に遠ざかり、冷たい岩肌が周囲を覆った。


奥からは怒号。


金属音。


そして獣の唸り声。


〈ガァァァァァッ!!〉


「いたぞ!!」


騎士の叫び。


視界が開けると、そこは採掘場だった。

地面には砕けた荷車に散乱する鉱石。


そして――巨大な狼。


「うわっ……」


オサリアは思わず口を覆う。


普通の狼ではない。

全身の至る所から黒い結晶が突き出していた。

肩、脚、背中。

まるで身体の内側から結晶が生えているようだった。

瞳は真っ赤で、理性など欠片も感じられない。


「結晶化個体か」

ペプシルが大剣へ手を掛ける。


〈ガァァァァァッ!!〉


狼は騎士へ飛び掛かった――はずだった。

途中で動きが変わる。


「……?」


赤い瞳が一点を見つめていた。


その先。


「……やば」


次の瞬間。


〈ギャアアアアアアアアッ!!〉


狼が方向を変える。

騎士達を無視して一直線。


オサリアへ飛び掛かった。


「っ!!」


「オサリア!!」


ペプシルが反射的に飛び出す。


〈ガギィィィン!!〉


大剣と牙が激突した。

凄まじい衝撃。


「またかよ……!!」

 

ペプシルが舌打ちする。

狼はペプシルを見ていない。


その後ろ。


オサリアだけを見ている。


「やっぱりかよ……」

イリアスが眉をひそめた。

サクヤも違和感を覚える。

 

普通じゃない。

獲物を選ぶなら騎士でも戦士でもいいはずだ。


だが結晶化した魔物は違う。


執拗にオサリアだけを狙っている。


「オサリア、何かしたのか?」

グランヴィアが素で聞いた。


「…してない」

本人も困惑している。

ヨザキだけが無言だった。

その表情は険しい。


以前から続いている現象。


結晶化した個体はオサリアを見た途端、優先する。


偶然ではない。

だが、その理由はまだ分からない。


 

「まあいい、下がっとけ!!」

グランヴィアが飛び出した。

炎を纏った大剣が唸る。


〈ドゴォォォォン!!〉


狼の巨体が吹き飛んだ。

岩壁へ激突する。

普通の魔物なら、それで終わりだった。


だが――


〈グルルルル……〉


狼は立ち上がる。

砕けた結晶の破片が地面へ散らばっていた。


「しぶてぇな」

サクヤが舌打ちする。


「いや……」

ヨザキの視線は別の場所へ向いていた。


狼の身体だった。


「あれを見てみろ」

全員が目を凝らす。

砕けたはずの肩の結晶。

――その断面から、黒い結晶が再び伸び始めていた。


「……は?」

ペプシルが眉をひそめる。


結晶はゆっくりと成長する。

まるで傷を塞ぐように。


「おいおい……」

イリアスの表情が曇った。


「冗談だろ」

騎士達も言葉を失う。


「そんな報告は……」

誰かが呟く。

だが現実だった。狼の身体から新たな結晶が生えている。


「だから討伐しても減らないのか」

ヨザキが小さく呟いた。


その時、狼が再びオサリアを見た。


赤い瞳。

狂気じみた執着。


〈ギャアアアアアアアアッ!!〉


再び飛び出す。


「またかよ!!」

イリアスが迎え撃つ。


だがその瞬間だった。


狼の身体が突然硬直した。


「……?」


全員が動きを止める。

狼は苦しむように身体を震わせている。

結晶が軋む。


〈ミシ……ミシミシ……〉


嫌な音だった。

まるで無理やり何かが成長しているような。


次の瞬間。


〈バキィッ!!〉


狼の背中から巨大な結晶が突き出した。


「ひっ……!?」

オサリアは後ずさる。


狼自身も制御できていない。

苦しむように暴れている。

その姿は魔物というより――

何かに侵食されている被害者のようだった。


ヨザキの表情が険しくなる。


「…結晶が魔物を変えているんじゃない…なら」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


「……乗っ取っている?」

 

その時だった。


採掘場のさらに奥。

暗闇の向こうで。


〈ドクン〉


何かが脈打った。


全員が振り向く。

坑道の最深部――そこには巨大な黒い結晶があった。


人の背丈どころではない。

一軒家ほどの大きさ。

結晶の周囲だけ、やけに温度が低い。


そして今、確かに脈打った。

まるで心臓のように。


〈ドクン〉


狼の身体も同時に震える。


沈黙。


ヨザキは目を細めた。


「……あれだ」


静かな声だった。


「この鉱山の異常は、あれが中心かもしれない」


ヨザキの言葉に誰も反論しなかった。

巨大結晶はゆっくりと脈打っている。


〈ドクン〉


〈ドクン〉


その度に、狼の身体から生えた結晶も震えた。


「連動してる……?」

イリアスが眉をひそめる。


「かもしれない」

ヨザキは目を離さない。


「待て」


ペプシルが短く声をあげる。


「それってラグナの時と似てねぇか」


全員がそちらを見る。


「結晶樹」

ペプシルは目の前の巨大結晶を指差した。


「ラグナの結晶樹は結晶人に魔力かなんかを流してた」

「なら、この巨大結晶も狼に何か流してんじゃねぇのか?」


ヨザキは少し考え込んだ。


「……可能性はある」

「だが…受けているとしても、おかしい」


「何がや?」


ヨザキは巨大結晶を見る。


「供給量だ」


〈ドクン〉


黒い結晶が脈打つ。


「ラグナの結晶樹は半年かけてあそこまで成長した」

「でもこれは違う」


騎士が小さく頷く。


「一ヶ月前は人の腕ほどだった」

「今は一軒家くらいあります」


沈黙。


「一ヶ月?冗談だろ」

イリアスが顔を引きつらせる。


ヨザキの表情は険しい。

「もし何かから供給を受けているなら、これは過供給だ」


誰も言葉を返せなかった。

自然現象では説明できない。


植物でもない、鉱石でもない。


何か別の――もっと巨大な力が関わっている。


そんな嫌な予感だけが胸に残った。

 

その時だった。


〈ギャアアアアアアッ!!〉


狼が再び咆哮する。

全身の結晶が異常な速度で成長していた。

 

肩、背中、脚。

まるで身体を食い破るように黒い結晶が伸びる。


「まずい!」

ヨザキが叫ぶ。


次の瞬間。


〈バキバキバキィィィッ!!〉


狼の身体が崩れた。


「なっ――」

ペプシルが目を見開く。


肉体が砕けたのではない。


結晶に呑まれたのだ。


狼だったものは、もはや狼の形をしていなかった。


黒い結晶の塊。


その中心で赤い光だけが揺れている。


「何やねんあれ……」

サクヤですら顔をしかめる。


理性も本能も感じない、

ただ暴力だけが形になったような異形だった。


〈ギャアアアアアアアアアッ!!〉


異形が暴れる。

巨大な結晶の腕が地面を薙ぎ払った。


騎士達が吹き飛ぶ。


「うわっ!!」

「退け!!」

坑道に悲鳴が響く。


そして。


赤い光がオサリアの方へ動いた。

 

「またうちぃ!?」

オサリアが叫ぶ。


「逃げろ!!」

ペプシルが前へ出る。


だがその瞬間。


〈ドクン〉


奥の巨大結晶が脈打った。

異形の動きが止まる。

全員が固まった。


〈ドクン〉


再び脈打つ。

まるで命令を受け取っているようだった。


ヨザキの背筋に冷たいものが走る。

誰にも聞こえないほど小さな声。

 

「……魔物が結晶化してるんじゃない」


巨大結晶を見る。


脈打つ黒い塊。


その奥で何かが蠢いた気がした。


「結晶が魔物を操っているんだ」

坑道の空気が一気に重くなった。


そして次の瞬間。


巨大結晶の表面に――亀裂が走った。


〈パキ……〉


表面に走った亀裂は、ゆっくりと広がる。


〈パキパキパキ……〉


まるで卵が割れるような音。

採掘場に緊張が走る。


「……何が出てくるんだよ」

ペプシルが大剣を構える。

騎士達も武器を握り直した。


だが、何も出てくる様子が無い。


代わりに――


〈ドクン〉


巨大結晶が脈打った。


その瞬間だった。


〈ミシ……〉


音は足元から聞こえた。


「……え?」

オサリアが下を見る。


地面に転がっていた結晶の破片が震えていた。


〈ミシミシミシ……〉


次の瞬間。


〈バキッ!!〉


破片から新たな結晶が伸びた。


「なっ!?」

騎士が後退る。

それだけでは終わらない。


壁、床、天井。

採掘場中の黒い結晶が一斉に軋み始めた。


〈ミシミシミシミシ……!!〉


「まずい!!」


ヨザキの顔色が変わる。

巨大結晶へ向けられていた視線が周囲へ移る。

見れば、結晶が増えている。


目に見えて。


今この瞬間も。


「全員離れろ!!」

 

ヨザキが叫んだ。


〈バキィッ!!〉


床から黒い結晶が突き出す。


ヨザキの隣にいた騎士は、足元が結晶に貫かれていた。


「ぐあああああっ!!」


さらに壁面からも無数の結晶が伸びる。

採掘場全体が生きているかのようだった。


「退避だ!!」

グランヴィアが怒鳴る。


「騎士を連れて下がれ!!」


〈ゴゴゴゴゴ……〉


天井から小石が落ちた。


嫌な音だった。


「これ…崩れるんちゃうか!?」

サクヤが顔をしかめる。

 

「その通りだ!!」

ヨザキが即答する。


「今は調査じゃない!」

再び巨大結晶が脈打つ。


〈ドクン〉


それに呼応するように、採掘場中の結晶が一斉に成長した。


〈バキバキバキバキィィィッ!!〉


誰もが理解した。


これは災害だ。


「君たち!!」

ヨザキが叫ぶ。


「負傷者の救助を優先しろ!!」

「言われなくても分かってる!!」

ペプシルは吹き飛ばされた騎士へ駆け出した。


その背後で。


巨大結晶は静かに脈打ち続けていた。


まるで鉱山そのものを侵食する心臓のように。

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