炎城のお祭り騒ぎ
城門をくぐった瞬間、熱気が襲ってきた。
「暑っ!!」
オサリアが叫ぶ。
「言うたやろ」
サクヤが平然と答える。
ガルディアはラグナと全く違った。
鉄を打つ音。剣を交える者。
怒鳴り声、笑い声。
とにかく全部うるさい。
〈カン!!〉
〈カン!!〉
街中で鍛冶屋が金属を叩いている。
「耳が痛い……」
オサリアが耳を押さえる。
「アイゼルとは大違いだな」
「こっちはなんつーか、熱血だよな」
イリアスは打ち付けられる鉄を興味深そうに見ている。
「まだマシな方だ。祭りの日はもっと凄いぞ!」
グランヴィアがイリアスの肩を叩きながら笑う。
「痛え!力加減考えろ!」
「ガッハッハ!!悪い悪い!!」
騎士に案内されながら歩く。
すると、通りの先から歓声が聞こえた。
〈ウォォォォォォ!!〉
巨大な円形闘技場。
客席は満員だ。
「お、やってる!」
サクヤの耳が立つ。
「ダメだ」
ペプシルが即答する。
「まだ何も言うてへん」
「顔に書いてある」
騎士達の案内で街を進む。
ヨザキは周囲を見渡していた。
鍛冶屋、市場、行き交う人々。
恐らく、どこの街よりも活気がある。
だが――
「……ん?」
ふと足を止める。
路地裏だった。
「どうした?」
イリアスが振り返る。
ヨザキは視線を下へ向けていた。
そこに居たのは一匹の猫。
「ミィ……」
弱々しい鳴き声。
首元から黒い結晶が生えていた。
ヨザキはしゃがみ込む。
猫は暴れない。ただ、苦しそうに呼吸している。
呼吸のたびに結晶が軋む音を立てる。
「…魔物じゃない、ただの動物…?」
ヨザキの眉が僅かに歪む。
静かな声だった。
ペプシル達はそのまま、
ガルディアの騎士団の施設へ案内される。
長机の上には地図とヨザキの手帳。
そして黒い結晶の欠片。
壮年の騎士は腕を組む。
「…そうか…やはり他の街も結晶が」
「はい」
「結晶が影響している魔物は、並の強さではありません」
「文献にも一切載ってないんだとよ」
イリアスが補足する。
「被害は半年で急増した」
全員が耳を傾ける。
「最初は魔物だけだった」
「だが今は違う」
地図の各地を指差す。
「家畜や野生動物が謎の結晶に蝕まれている」
「…植物にまでな」
ヨザキの表情が険しくなる。
「広がっている……」
「そうだ」
騎士は頷く。
「討伐しても減らん、原因も分からん」
「俺たちの街は、まだ武力行使が効くからいい」
「だが――他の街がどうなるかは分からない」
「正直、手詰まりだ」
部屋に沈黙が落ちる。
ヨザキは地図を見つめていた。
結晶の発生地点と、魔物被害は一致している。
だが――結晶発生の原因がわからない。
「レヴァリアからも、特に進展はないらしい」
ヨザキは通信魔法器で連絡を確認している。
ペプシルが舌打ちする。
「…また手探りかよ」
「残念ながらな」
重い空気。
その時だった。
「なら!」
グランヴィアが勢いよく立ち上がった。
机が揺れる。
「気分転換に闘技場行こうぜ!!」
全員が固まる。
「は?」
ペプシルが真顔になる。
「何でそうなる」
「考えても分からねぇ時は体を動かす!!」
グランヴィアは胸を張った。
「名言っぽく言うな」
イリアスが即座に突っ込む。
「あとサクヤと戦いてぇ!!」
グランヴィアが指を差す。
「よし決まりだ!!」
「オイ!決まってへんわ!!」
サクヤの怒鳴り声が響いた。
騎士はため息を着く。
「…ま、どうせ今日は資料整理だ」
「グランヴィアに頭を使う仕事は任せられん」
「おい言い方!!」
騎士は少し笑う。
「ガルディアでは強さが名刺代わりだからな」
「腕試しでも、観戦でもしてきたらいい」
グランヴィアが親指を立てた。
「聞いたか!!」
「聞いてへん」
サクヤが即答する。
「……別に闘いは好きやで?でもなあ…」
「何が不満なんだ!?」
「うるさいし暑苦しいねんな!!オマエと闘ってる時!!」
サクヤは心底うんざりした顔で言った。
「オマエ戦いながらペラペラペラペラ喋るやろ!」
「当然だ!!」
「当然ちゃうねん!!普通は集中するんや!!」
「俺も集中してるぞ!」
「集中してる奴は技名叫びながら突っ込まへん!」
「気合いだ!!」
「うるさい!!」
四人は悟ってしまった。
この二人は会わせるべきでは無かったと。
ヨザキはお腹をさすっている。
イリアスは苦笑しながら耳を塞いでいる。
ペプシルはどこか遠い一点を見つめていた。
オサリアは…二人に目もくれず、施設内の装飾を見ていた。
騎士は額を押さえる。
「もう行ってこい」
諦めたような声だった。
「ここに居られる方が仕事にならん」
半ば追い出されるような形で、六人は外に出た。
「何やねんあの扱い」
サクヤが不満そうに頬を膨らませる。
「妥当だろ」
ペプシルが即答した。
「何でや!」
「お前らがうるせぇからだ」
「オレも!?」
「同罪だ」
サクヤは納得いかない顔をした。
グランヴィアは豪快に笑っている。
「ガッハッハッハ!!」
「お前は主犯や」
「何故だ!!」
「声がデカいからや!!」
サクヤは頭を抱えた。
ガルディアの大通りを歩く。
鍛冶屋の熱気。
露店から漂う肉の匂い。
至る所から聞こえる笑い声。
「なんか皆元気だねぇ」
オサリアはいつの間にか買っていた骨付き肉を頬張る。
「元気っつーか暑苦しいな」
イリアスが苦笑した。
「お前、いつの間に買ってたんだ…」
ペプシルはオサリアの骨付き肉を見る。
「食べる?」
「要らん」
「焼き串一本どうだァ!!今日の肉は最高だぞォ!!」
「今日は最高にイカした武器があるぜぇ!!」
「樽ごとビール入荷してるぜ!!」
あちこちから飛ぶ大声。
オサリアは自然と笑みがこぼれる。
確かに騒がしい。
でも嫌な感じではない。
ラグナとも、アイゼルとも、レヴァリアとも違う。
この街は、全身全霊で生きている。
「お」
サクヤの耳がぴくりと動いた。
「着いたで」
顔を上げる。
目の前には巨大な石造りの建物。
闘技場だ。
近くで見ると圧倒されるほど大きい。
観客席の上部には無数の旗が翻り、
中からは地響きのような歓声が漏れていた。
〈ウォォォォォォォォォ!!〉
オサリアが目を丸くする。
「近くで聞くと凄い……!」
「せやろ」
サクヤは少しだけ得意そうだった。
すると。
グランヴィアが不敵に笑う。
「さて」
嫌な予感がした。
「サクヤ」
「何や」
「逃げんなよ?」
沈黙。
サクヤが踵を返した。
「帰るわ」
「待てェ!!」
「離せやァ!!」
グランヴィアに首根っこを掴まれたまま、
サクヤはずるずると闘技場へ引きずられていく。
「離せや!!」
「嫌だ!!」
「子供か!!」
「お前がな!!」
観客達が何事かと振り返る。
「ん?」
「誰だ?」
「お、グランヴィアだ。誰か連れて来てんぞ」
ざわざわと声が広がる。
闘技場の通路を抜ける。
そして――
「うわぁ……!」
オサリアが思わず声を漏らした。
視界が開ける。
巨大な闘技場、何千人もの観客、赤土の広場、熱気、歓声。
全てが一気に押し寄せてくる。
〈ウォォォォォォォォォォ!!〉
耳が痺れるほどの歓声。
「へえ……」
ヨザキも思わず声を漏らす。
ラグナの広場など比べ物にならない。
まるで村一つが丸ごと詰め込まれているようだった。
中央では試合が終わったばかりらしい。
倒れた戦士が担架で運ばれている。
司会者が大声を張り上げた。
『さあ次の挑戦者はいるかァァァァァ!!』
歓声が爆発する。
その時。
グランヴィアがサクヤの腕を持ち上げた。
「おいアホ!!!」
嫌な予感しかしない。
「お前らァァァァァ!!」
「ラグナの狼女が来てるぞォォォォォ!!」
静寂。
そして。
〈ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!〉
闘技場が揺れた。
サクヤの顔から血の気が引く。
「アカン」
「何がだ」
ペプシルが聞く。
「覚えられとる」
サクヤは真顔だった。
「マジか!?」
「帰ってきたのか!?」
「グランヴィアの連勝止めた奴だ!!」
「闘技場荒らしじゃねぇか!!」
「賭け直せ賭け直せ!!」
サクヤの来訪で、一瞬で客席が沸騰する。
サクヤは頭を抱えた。
「ほら見ぃ!!」
「人気者じゃねぇか!」
グランヴィアは嬉しそうだ。
「ちゃうねん!!」
サクヤは叫ぶ。
「オレ賞金目当てで何回か出ただけや!!」
「何回だ?」
ペプシルが聞く。
サクヤは目を逸らした。
「……三十回くらい」
「十分多いだろ」
「俺はサクヤに16敗している!!!」
客席からさらに歓声が飛ぶ。
〈サクヤァァァァァ!!〉
〈狼女ァァァァ!!〉
〈グランヴィア倒せェェェ!!〉
〈いやグランヴィアだァァァ!!〉
もはや収拾がつかない。
オサリアだけが目を輝かせていた。
「二人ともすごーーーい!!!」
「褒めんな!!」
「ガッハッハ!!!!」
その時。
拡声魔導具越しから司会者の声が響く。
『まさかの来訪者ァァァ!!』
『ラグナの狼女サクヤと!!』
『炎剣グランヴィアァァァァァ!!』
歓声が爆発した。
グランヴィアがニヤリと笑う。
サクヤは嫌そうな顔をする。
そして。
『見たいかァァァァァ!!』
〈ウォォォォォォォォォォォォォ!!!!〉
逃げ道が消えた。
歓声が爆発する。
サクヤは頭を抱えた。
「……最悪や」
「やるのか!!」
グランヴィアが目を輝かせる。
「やらん言うてもやらされる流れやろコレ」
観客席を見上げる。
誰一人として帰してくれそうな顔をしていない。
「……はぁ」
盛大なため息。
そして。
サクヤは槍を肩へ担いだ。
「一試合だけやぞ」
〈ウォォォォォォォォォォ!!!!〉
歓声が爆発する。
グランヴィアは満面の笑みを浮かべた。
「待ってたぜェ!!」
「やるからには容赦せんで」
二人は闘技場の中央へ向かう。
四人は一番前の席に座り、観戦することになった。
赤土を踏みしめる音。
観客の熱気。
空気が変わる。
サクヤの顔から笑みが消えた。
獲物を捕らえるような目。
槍を構える。
グランヴィアも大剣を肩から下ろした。
この瞬間を待ちわびていたかのように、ニヤリと笑う。
観客席が静まり返る。
司会者が叫んだ。
『ラグナの狼女ァァァァ!!』
〈ウォォォォォ!!〉
『炎剣グランヴィアァァァァ!!』
〈ウォォォォォ!!〉
『因縁の再戦!!』
『――始めェェェェェ!!!!』
その瞬間。
サクヤの姿が消えた。
「は?」
ペプシルが目を見開く。
次の瞬間には。
〈ガギィィィィン!!!!〉
グランヴィアの眼前。
槍と大剣が激突していた。
サクヤの槍がグランヴィアの首元を狙う。
だが。
「甘ぇ!!」
大剣が受け止める。
火花が散った。
観客席が沸く。
〈速ぇぇぇぇ!!〉
〈始まったぞォォォ!!〉
サクヤは舌打ちする。
「相変わらず硬いな…ッ!」
「お前は速ぇな!!」
再び激突。
槍と大剣が交差する。
互いに一歩も譲らない。
オサリアは目を丸くした。
「見えない……」
「サクヤは速さ特化だな」
イリアスが呟く。
「グランヴィアは逆ってわけか」
ペプシルは興味深そうに見ている。
その瞬間。
「我が紅蓮の刃よ!!!」
グランヴィアが踏み込んだ。
途端、大剣が炎に包まれる。
「えっ……!?」
オサリアは思わず立ち上がる。
「焼き尽くせェェェッ!!!!」
大剣が振り下ろされる。
〈ドゴォォォォン!!〉
地面が砕けた。辺りに炎の海ができる。
サクヤは紙一重で回避していた。
「アホか!!」
「当たれば終わりだぞ!!」
「当てる気満々やんけ!!」
観客席が爆笑した。
「…すごい」
オサリアは見入っている。
ヨザキは物珍しそうに眼鏡を押し上げた。
「…スキルだね、恐らく生まれつきの」
「へえ、炎の才能か。暑苦しいアイツにゃピッタリだな」
イリアスは楽しそうに二人の勝負を観戦していた。
「ね、ペプシルは勝負しないの?」
「俺がやると思うか?」
「やるわけねぇ」
イリアスは笑いながら脚を組む。
「うちもああいうことしてみたいなぁ」
「魔物とじゃなくて、人と真剣勝負」
「やめとけ」
ペプシルが即答する。
「何で!?」
「何でって……」
ペプシルが少し視線を泳がした後。
「オサリアだぞ?」
「どういう意味!?」
イリアスは苦笑している。
「どういう意味も何も、嬢ちゃんは治癒魔法しか使えねぇだろ」
「剣も持てなそうな細っせぇ腕してるくせに」
オサリアは頬を膨らませた。
「うちだって本気出せば強いんだよ!?」
ペプシルをポカポカと叩く。
「なんで俺」
ヨザキはサクヤ達の方に視線を向けたまま呟く。
「オサリアちゃんは人を倒す役割じゃない」
「人を助ける役割だ」
オサリアは少しだけきょとんとした。
その間にも。
〈ドガァァァン!!〉
闘技場から轟音が響く。
「うわぁ……」
オサリアは音につられ、思わずそちらを見る。
「やっぱりちょっとやってみたいかも」
「絶対やめろ」
「やめとけ」
「やめた方がいい」
「うわーん…」
その後も激しい攻防が続いていた。
だがそれも終わりを迎える。
サクヤの槍が頬を掠める。
〈決まったか!?〉
だがその瞬間、グランヴィアは踏み込んだ。
「捕まえたぞォ!!」
大剣の柄がサクヤの脇腹に叩き込まれる。
バランスを崩したサクヤの喉元へ剣先が止まった。
沈黙。
『――勝者ァァァ!!グランヴィアァァァ!!』
〈ウォォォォォォォォォォ!!〉
闘技場が歓声に揺れる。
「っしゃァァァ!!」
グランヴィアが大剣を掲げた。
対するサクヤは。
「……」
赤土の上に座り込んでいた。
肩を上下させながら、額の汗を拭う。
「いい戦いだった!!」
グランヴィアがサクヤに手を差し出す。
サクヤは少しだけ顔をしかめた。
悔しそうに拳を握りしめた後。
「……」
「……次は勝つ」
静かな声だった。
グランヴィアは一瞬だけ目を丸くして――
次の瞬間、大笑いした。
「ガッハッハッハ!!」
「それでこそだ!!」
サクヤはグランヴィアの手を強く取り、立ち上がった。
観客席から拍手と歓声が降り注ぐ。
〈ウォォォォォォ!!〉
〈いい試合だァァァ!!〉
〈もう一回やれェ!!〉
「嫌やー!!!」
即答だった。
観客席が爆笑する。
「何故だ!?」
グランヴィアが不満そうに言う。
「疲れたからや!!」
肩で息をしながら叫ぶ。
「お前体力おかしいねん!!」
「鍛えてるからな!!」
「知っとるわ!!」
再び笑いが起きる。
どうやらこのやり取りにも慣れているらしい。
「サクヤーーー!!」
その時。
客席最前列からオサリアが手を振った。
「すごかったぁ!!」
目をきらきらさせている。
「へへっ」
サクヤが少しだけ照れ臭そうに鼻を掻いた。
グランヴィアは観客へ手を振っている。
「お前らァ!!今日は飲むぞォォォ!!」
〈お前が奢れェ!!〉
「ガッハッハ!!断る!!」
〈ブーッ!!〉
「人気者だな」
イリアスが苦笑する。
「騒がしいだけだろ」
ペプシルはグランヴィアを横目に見ている。
だが周囲の歓声を見る限り、
グランヴィアは本当に慕われているらしかった。
闘技場を出る。
まだ観客達の歓声が背後から聞こえていた。
〈サクヤァァァ!!〉
〈また来いよォォォ!!〉
「ったくアイツら…」
サクヤは苦笑する。
その時だった。
〈ぐぅぅぅぅぅ〉
妙に大きな音。
全員が振り向く。
「……」
オサリアだった。
「えへ、お腹すいた」
恥ずかしそうに言った。
沈黙。
そして。
「飯の時間だァァァァァ!!!」
グランヴィアが叫んだ。
「だからァ声デカいねん!!」
サクヤは叫びながらグランヴィアの頭を小突いた。
数十分後。
グランヴィアに有名な大衆食堂へと案内される。
店に入った瞬間、肉の焼ける匂いが襲ってくる。
〈ジュウウウウウ〉
〈カンパーイ!!〉
〈おかわりだァ!!〉
やはり騒がしい。
「この街、どこ行っても同じだな」
ペプシルが呆れる。
「それが良いんだろうよ。レヴァリアより好きだぜ俺は」
イリアスは慣れた様子だった。
席へ案内される。
そして、グランヴィアがメニューを見るなり叫んだ。
「全部六人前で!!」
「おい待て」
ペプシルが止めた。
「何だ!」
「何で全部だ」
「食うからだ」
「食えねぇよ」
ペプシルは頭を抱える。
「すまんなあ戦士くんよ、俺らあんまり金の余裕がねぇんだ」
「心配するな!!俺の奢りだ!!!」
その言葉を聞いて、サクヤとオサリアが目を輝かせた。
「奢りだって!!」
「何食う!?一番高いヤツ頼んだろかな!?」
「お前ら切り替え早すぎんだろ」
ペプシルが呆れる。
「遠慮は失礼やからな!」
「そうだよね!」
オサリアは全力で頷く。
サクヤはメニューを開き――
「これとこれとこれとこれ」
「待て…!」
ヨザキが慌てた様子で止める。
「何や?」
「君今どれだけ頼んだ」
「まだ前菜や」
「ぜ、前菜…!?」
ヨザキは今にも倒れそうだ。
グランヴィアは爆笑している。
「ガッハッハッハ!!」
「いいぞサクヤ!!もっと食え!!」
「んじゃ、俺も甘えさせてもらうかな」
イリアスもメニューをじっくり読み始めた。
各々が食べたいものを口にし、
店員が慣れた様子で注文を書き取る。
「今日は景気いいねぇ」
「全部コイツの奢りや!」
サクヤがグランヴィアを指差した。
「おぉ!」
店員の目が輝く。
「太っ腹だねぇグランヴィア!」
「ガッハッハ!!」
「今日は楽しませてもらったからな!!」
グランヴィアは満面の笑みだ。
「…ふふ」
オサリアはどこか懐かしそうに笑った。
「そんなに面白いか」
ペプシルは頬杖をつきながら彼らを見ている。
「いや、ルミナスに居た時のペプシルみたいだなって」
「は?」
オサリアは続ける。
「街のみんなに愛されてるところとか」
「なんかふと思い出しちゃった」
ペプシルは少しだけ目を丸くした。
「……俺が?」
「うん」
「ルミナスの人達もペプシルが居ると楽しそうだったし」
「そんなことねぇだろ」
ペプシルは立てかけられた大剣を見る。
自分が居なくなった街は今、どうなっているのだろう。
変わらず暮らしているだろうか。
それとも――
「ペプシル」
不意に呼ばれる。
顔を上げると、オサリアがにこにこしていた。
「何だ」
「ルミナスの皆に会いたい?」
少しだけ。
言葉に詰まった。
「……別に」
反射的にそう答える。
「会いたいんだね」
「顔に書いてある」
「一緒にすんな」
「えー」とオサリアが楽しそうに笑う。
「まあでも、大層なもんくすねちゃったからなあ」
イリアスは苦笑しながら小さく呟く。
「ここまで来たんだ、今更戻りはしねぇよ」
ペプシルは肩をすくめる。
今は黒い結晶の件がある。
聖剣の問題もある。
旅はまだ終わっていない。
「それに」
ペプシルは少しだけ視線を逸らした。
「俺が居なくても大丈夫だろ」
アイツらにとってはただの近所の子供感覚。
自分一人居なくなったくらいでなにか変わるような存在でもない。
「それとこれとは別だよ」
オサリアはグイッと身を乗り出す。
「別?」
「大丈夫だから寂しくない、にはならないでしょ?」
ペプシルは言葉を失う。
沈黙。
「はいお待ちィ!!」
〈ドン!!〉
音ともにしんみりとしていた空気が一瞬で吹き飛んでいく。
「おおおおおおお!!」
オサリアの目が輝く。
「でっか!!」
サクヤが笑う。
机には、巨大な骨付き肉が置かれている。
「食うぞ食うぞ」
イリアスも頷く。
「出来たてが一番美味しいからね」
ヨザキまで真面目な顔で同意した。
「何なんだお前ら」
ペプシルは呆れる。
だが。
少しだけ口元が緩んでいた。
きっとそれには気づいていない。
「いただきます!!」
オサリアが真っ先に骨付き肉へ飛び付いた。
「待て待て待て!!」
「熱っ!!」
「そらそうやろ!!」
食堂に笑い声が響く。
その後も料理は次々と運ばれてきた。
肉。
肉。
肉。
たまに野菜。
そしてまた肉。
「この街アホやろ……」
サクヤが呆れたように呟く。
「最高だろ!!」
グランヴィアは満面の笑みだった。
――そして、気付けば深夜。
オサリアは机に突っ伏して寝ていた。
サクヤも椅子にもたれ掛かったまま寝息を立てている。
イリアスは椅子を三つ並べ、横たわって寝ている。
グランヴィアに至っては床で大の字だった。
「何で、何で床なんだよ……」
ペプシルが心底理解できないといった感じで額に手を当てている。
「さあ」
ヨザキも苦笑した。
いくら揺さぶっても起きる様子が無い。
流石に四人を運ぶのは大の大人二人でも厳しかった。
「……申し訳ない」
ペプシルとヨザキが店員へ頭を下げる。
だが店員は笑った。
「気にしなさんな!ガルディアじゃよくあることさ!」
「むしろ店壊してないだけ優秀だよ!」
「基準がおかしいだろ」
ペプシルは思わず突っ込んだ。
その夜、一行はそのまま食堂で雑魚寝することになった。
ガルディアの夜は騒がしく――そして平和だった。
「…お腹が」
「脂でやられたか」
「違う。…恐らく」
「歳だな」
「違う」
「歳」
「しつこいね君」




