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闘志燃ゆる炎城、ガルディア

馬車がゆっくりと動き出す。


車輪が石畳を踏みしめ、

景色が少しずつ流れ始めた。


「おぉ〜……!」

サクヤが窓に張り付く。


「速っ!」

「普通だろ」

ペプシルが呆れたように言う。


「普通ちゃうやろ!?」

サクヤは振り返る。


「めっちゃ速いやん!」

「速いよねー!!」

「そうか?」

イリアスが首を傾げた。


「ガルディアまでどれくらいかかるん?」

「順調なら夕方には着くぞ」


その瞬間、サクヤが固まった。


「……は?」


沈黙。


「夕方?」

「夕方」

「今日の?」

「今日の」


再び沈黙。


オサリアが首を傾げる。

「サクヤ?」

「待て待て待て」

サクヤは額を押さえた。

 

「ガルディアってそんな近かったんか?」

「近いっていうか馬車だからな」

イリアスが答える。

 

サクヤはしばらく黙り込んだ。


そして。


「……オレ今まで何しとったん?」


真顔で呟いた。


「何って?」

「ガルディアまで徒歩や。木の上も飛んどった」


「……」


「……」


「アホじゃね?」

イリアスが言った。


「野性的だね」

ヨザキも頷く。


「何でや!?馬車代もったいないやろ!」

胸を張って言い切る。


その様子を見ながら、ペプシルは深くため息をついた。


やっぱり騒がしい。


加入して半日も経っていないのに、

何故か最初から居たような空気になっていた。



「ねえ……サクヤ」

オサリアがおずおずと話しかける。

 

「ん?どないした」


チラ。

チラ。

オサリアの視線はサクヤの揺れる尻尾へ向いていた。


「……触っていい?」


沈黙。


「え?」

「尻尾」


オサリアが指差した。


「ふわふわそう」

「……」

サクヤは自分の尻尾を見る。

そしてオサリアを見る。

また尻尾を見る。


「別にええけど」

あっさり許可した。


「やった!」

オサリアの顔がぱっと明るくなる。


恐る恐る手を伸ばし――


もふ。


「!」


目を輝かせた。


「すごい!」


もふもふ。


「柔らかい!」


もふもふもふ。


「めっちゃ触るやん!?」


サクヤが慌てる。


「えへへへ〜」

オサリアは満面の笑みだった。


「いいなぁ」

イリアスが横から覗く。


「俺も触っていい?」

「アカン」


即答。


「差別だ」

「当たり前や」


サクヤは尻尾を引っ込める。


すると今度は――


「ね、耳は?」

オサリアが聞いた。


「耳ぃ?……まあええけど」

サクヤが少し身を屈める。


ぴくり。


三角の耳が動いた。


「おぉ……」

オサリアの目が輝く。


そっと手を伸ばし――


なで。


「!」


耳が跳ねた。


「ここもふわふわ!」

「うぉ」

もう一度撫でる。


ぴくっ。


「動いた!」

「勝手に動くんよ」

「かわいい〜」

「かわいない!」

 

尻尾までぶわっと膨らむ。

 

「尻尾も膨らんだ!」

「見るな!」


サクヤが慌てて尻尾を抱える。

オサリアは楽しそうに笑った。


「へぇ」

イリアスが興味深そうに眺める。


「耳触られるとそんな反応するんだな」

「生理現象や!」

その様子を見ながら、ヨザキは静かに手帳へ何かを書き込んだ。

「獣人の耳や尻尾は犬のような触覚に近い反応あり、と」

「オ オ カ ミ や!!」

大きい声で訂正が飛んだ。

馬車の中に笑い声が広がる。


その時だった。


「……」


ペプシルは窓際に座ったまま黙っていた。

そして。


「なあ」


ぼそりと呟く。


「何や?」

「お前、本当に獣だったんだな」


沈黙。


「今さらぁ!?」


馬車が揺れるほどの大声が響いた。


 

馬車は街道を進んでいく。

窓の外には広い草原が広がっていた。


「ねえねえサクヤ、ガルディアってどんな街なの?」

オサリアが身を乗り出す。


サクヤは少し考える。

 

「暑い」


「……だけ?」

「暑い」

「それしか無いの?」

「いや、あるで」


サクヤは指を折る。


「飯が美味い」

「おぉ」

「肉が美味い」

「おぉ〜」

「暑苦しい」

「貶してねぇか」

ペプシルが呆れたように言った。


「事実や」

サクヤは悪びれもなく言う。


「あと人が多い」

「ラグナとは全然違うね」

ヨザキが頷く。


「闘技場もあるんだよね?」

オサリアが聞く。


その瞬間。


サクヤの耳がぴくりと動いた。


「ある」


少しだけ口元が緩む。


「でっかいで」

「そんなに?」

「ラグナの広場十個分くらいある」

「それは盛ってるだろ」

イリアスが突っ込んだ。


「多分盛っとる」

サクヤも認めた。


「でもホンマにデカい」


窓の外を眺めながら続ける。


「毎日誰かしら戦っとるし、観客もぎょうさんおる」

「楽しそう!」


オサリアが目を輝かせる。


「楽しいで」

サクヤは頷いた。


「騒がしいけどな」

「サクヤが言うほどってどんだけだそれ」

「おい、それどういう意味や?」

サクヤはイリアスをジト目で見つめている。

その様子を見ながら、ペプシルは窓の外へ視線を向けた。


「で」


ぼそりと言う。


「そのグランヴィアって奴もそこに居るんだろ」

「……居る」

「嫌そうだな」

「嫌や」


即答だった。


「会えば分かる」


サクヤは嫌そうな顔のままそう言った。


 

馬車は順調に進んでいた。

 

窓の外では草原が流れ、

遠くには赤茶色の山々が見え始めている。


御者が前方を指差した。


「見えてきましたよー!」


オサリアが窓へ飛び付く。


「えっ!?」


目線の先には――巨大な城壁。


夕日に照らされた赤褐色の街並み。

煙突から立ち上る白煙。


そして。


街の中央にそびえる巨大な円形闘技場。


「わぁぁぁ……!」

オサリアが目を輝かせた。


「でっけぇ……」

イリアスも思わず呟く。


「ガルディアや」

サクヤが少し懐かしそうに笑った。


「もう着くで」


その時だった。


〈――――ドゴォォォォォォン!!!!〉


凄まじい轟音が耳を貫いた。

ぐらりと馬車が大きく傾く。


「うおっ!?」

「きゃあっ!?」


馬車内から悲鳴が上がった。

車体が激しく揺れ、荷物が転がっていく。

馬が悲鳴のような鳴き声を上げた。


「何や!?」


サクヤが立ち上がる。


「襲撃だ!」


御者の怒鳴り声が響いた。


馬車が急停止する。

五人は荷物を手に取りすぐさま外へ飛び出した。


そこに居たのは――魔物の群れだった。


狼型、猪型、猿のような魔物まで混じっている。


その数ざっと数十体。

しかも全員が異様だった。

ギラギラと光る赤い瞳。

涎を垂らし、まるで理性を失ったように暴れ回っていた。


「んだコイツら……!」

イリアスが銃を構える。

魔物達は旅人にも馬にも見境なく襲い掛かっていた。


「…?」

ヨザキが眉をひそめる。


「おい、体を見てみろ」


ペプシルが目を凝らす。

そして気付いた。


魔物の肩、首、背中。

皮膚を突き破るようにして――黒い結晶が生えていた。


「……またかよ」

ペプシルが舌打ちする。


レヴァリア。

ラグナ。

そしてガルディア。


同じだった。


「あの黒い結晶や!」

サクヤも目を見開く。


「ここにもあったんか!?」

「どうやらそのようだね」

ヨザキの表情が険しくなる。


考える時間は無かった。


一体の狼型魔物がオサリアへ飛び掛かる。

 

「っ!」

 

「危ねぇ!」

 

ペプシルが飛び出した。


機械大剣が唸る。


〈ドガァン!!〉


狼型魔物が吹き飛んだ。

だが、次から次へと押し寄せてくる。


「数が多い!」


イリアスの銃声が何度も響く。

オサリアの治癒魔法が飛ぶ。

サクヤの槍が風を切る。


それでも終わらない。


「ちっ!」

ペプシルが舌打ちした。


普通の魔物ならとっくに逃げている。


だがコイツらは違う。

痛みも恐怖も感じていないかのようだった。


「何だよコレ……!」

 

その瞬間。


遠くの草原から。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


馬鹿みたいな大声が響いた。


全員が振り向く。


「……は?」

ペプシルが固まる。


夕日に照らされた草原。


その向こうから、何かが物凄い勢いで突っ込んできていた。


それは人影だった。


巨大な剣を担ぎ、真っ赤なマントを翻している。

そのまま一直線に、魔物の群れへ向かってくる。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


〈ズドォォォォォン!!!〉


着地。


衝撃で土が吹き飛ぶ。


次の瞬間、巨大剣が横薙ぎに振るわれた。


〈ドガァァァァァァン!!!〉


魔物が三体まとめて吹き飛んでいく。

空高く舞い上がり、遥か彼方へ消えた。


沈黙。


全員が呆然とする。


そして。


その男は豪快に笑った。


「ガッハッハッハッハ!!」


赤いメッシュの入った黒髪。

片目を覆うほどの前髪。

大剣を肩に担いだ長身の男。


いかにも暑苦しい。


サクヤの顔から表情が消えた。


「……あ」


ペプシルが横を見る。


「知り合いか」


サクヤは死んだ目で答えた。


「最悪や」


そして、男の視線がこちらを向く。


数秒。


沈黙。


やがて。


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「サクヤじゃねえかァァァァァァァ!!!!」

 

グランヴィアが叫んだ。

オサリアは耳を押さえる。


「声でかっ!?」

 

サクヤなんて比にならないぐらいの大声。


「気付かれた」

「……ホントにうるせぇな」

ペプシルが真顔で呟いた。


「やろ?」

サクヤも真顔だった。


だが。

グランヴィアはそんなことお構いなしに突っ込んでくる。


「元気かサクヤァ!!」

 

〈ドゴォォン!!〉


魔物を踏み潰しながら。


「会いたかったぜェ!!」


〈ブンッ!!〉


巨大剣が振るわれる。

魔物が二体まとめて吹き飛んだ。

 

あの一振りだけで空気が震える。

只者では無いと、一目でわかった。


「勝負するかァ!?」


〈ドガァァァン!!〉


今度は猪型魔物が宙を舞う。


「状況見ろや!!」

サクヤの怒鳴り声が飛ぶ。


「ガッハッハ!わぁってるよ!」

全然反省していない。

グランヴィアは豪快に笑った。

 

「さっさと片付けちまうか!!」

「最初からそのつもりや!」


再び大剣が唸る。

凄まじい腕力だった。


魔法でもない。

技術でもない。


ただ純粋な腕力で魔物を叩き潰している。


「うわぁ……」

「何なんだあの人は」

「グランヴィアや」

サクヤは槍を魔物に突き立てながら、引き気味に見ている。

「説明になってない」

イリアスが即座に突っ込んだ。


その時。


グランヴィアの足元へ狼型魔物が飛び掛かった。


だが。


「甘いッ!!」


拳を突き出す。ただそれだけ。


〈ゴッッッ!!!!〉


狼型魔物が地面に叩き付けられた。

 

全員が黙る。


「……剣使えよ」

ペプシルが呟いた。


「剣より拳の方が近かったのだろうね」

ヨザキが冷静に分析する。


何で冷静に分析できるんだ。

そんな空気だった。


だが、突然ヨザキの表情が変わる。


「…ん?」

「何や?」

サクヤが振り向く。


ヨザキは地面へ転がった魔物を見ていた。


首元や肩、背中にまでびっしり生えた黒い結晶。


「……結晶の量が増えてる」


全員の空気が変わった。


「何?」


ペプシルが眉をひそめる。

ヨザキはしゃがみ込んだ。


「ラグナで見た個体より侵食が進んでいるように見える」

 

黒い結晶は皮膚に刺さっているだけではない。

肉へ食い込み、骨にまで達しているように見えた。


「つまり?」

イリアスが聞く。


ヨザキは険しい顔で答える。

「まるで悪化してるみたいだ」


沈黙。


「環境じゃない」

「結晶そのものが成長している可能性がある」


嫌な予感。


全員が同じものを感じた。


ルミナス。

レヴァリア。

ラグナ。

そしてガルディア。


もしこれらが繋がっているなら――。


その時。


遠くから警笛が鳴り響いた。


〈ピィィィィィィィィィッ!!〉


城門の方だった。

見れば、ガルディアの兵士達が駆けてくる。

 

兵士達はそのまま、次々と魔物を取り囲んだ。


「こちらで対処する!民間人は下がれ!」


怒号が飛ぶ。

だが既に大半の魔物は倒れていた。

主にグランヴィアのせい…おかげで。


「ガッハッハッハッ!!」

巨大剣を肩に担ぎながら笑っている。

足元には魔物の山。


「一人で半分くらい倒してない?」

オサリアが引いた顔で言う。


「何なんだアイツ」

ペプシルも珍しくドン引きだ。


「おーい!」

グランヴィアが大きく手を振る。


「久しぶりだなサクヤァ!」

「久しぶりやない!三週間前会ったやろ!」

「大体ひと月だろ!」

 

兵士達が慣れた様子で魔物の死体を回収していく。

その様子を見てヨザキが眉をひそめた。


「……慣れている」

「何が?」

オサリアが聞く。


「魔物襲撃への対応だよ」

ヨザキは静かに答える。


「まるで日常的に起きているみたいだ」


その時だった。


「その通りだ」


低い声。


兵士達の中から一人の男が前へ出る。

全身を赤銅色の鎧で包んだ壮年の騎士だった。


「最近増えている」

男は魔物の死体を見る。


「ここ半年で急激にな」

 

ペプシル達の表情が変わる。


「……黒い結晶のせいか」


ペプシルが呟く。

男は目を細めた。


「知っているのか?」


沈黙。


「レヴァリア学府からのお達しでね。

 こちらも調べているんだ」


ヨザキが答える。

男は数秒、ヨザキを怪訝そうに見つめる。


やがて。


「…話を、聞かせてくれないか」


そう言った。

 

男の視線は、ペプシル達ではなく――

地面へ転がる黒い結晶へ向いていた。


「正直なところ――こちらも手詰まりなんだ」

 

男は苦々しく呟いた。

背後では巨大な城門が開いている。

 

サクヤがぽつりと呟いた。

「面倒なことになる予感しかせぇへん」


隣でグランヴィアが満面の笑みを浮かべた。

「安心しろサクヤァ!!」

「何がや」

「もう面倒なことになってるぜ!!」

「知っとるわ!!」


赤茶色の巨大な城壁。

煙を吐く鍛冶場。

夕日に燃える街並み。


――闘志燃ゆる炎城、ガルディア。


五人は、黒い結晶事件の次なる舞台へ

足を踏み入れようとしている。




――魔物の死体から、黒い結晶が脈打つように光った。

「グランヴィアは力持ちだねー!」

「だろう!!カッコイイだろう!!!!」

「…声だけじゃなく図体もでけえ」

「イリアスと同じくらいちゃう?」

「筋肉の付き方はまるで違うけれどね」

「アイツが鍛えすぎなだけだっつーの!」

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