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風鳴る翠嶺の郷、ラグナ

〈ゴトン、ゴトン〉


規則正しい揺れが身体を揺らす。

窓から吹き込む冷たい風に、オサリアはゆっくり目を開いた。


「……ん」


馬車の中は静かだった。

向かい側ではペプシルが腕を組んで目を閉じている。

眠っているのかと思ったが、

「起きたか」

と即座に声が返ってきた。

「おはよー、起きてたんだ」

「とっくに」

 

オサリアは窓の外を見た。


――そして、そのまま外の景色に釘付けになる。


「わぁ……」

思わず声が漏れた。

 

レヴァリアとは全く違う景色がその目に映る。

 

巨大な山々が幾重にも連なり、

その斜面を深い緑が覆っている。

 

切り立った岩壁のはるか下では、

白い川が激しく流れていた。

 

窓を開ければ、土と木の匂いを含んだ澄んだ風が頬を撫でる。


空も近い。

まるで山そのものが空へ伸びているようだった。


「すごい……」

オサリアは身を乗り出す。

「落ちるなよ」

ペプシルは立ち上がり、オサリアの右隣に席を変えた。

向かい側の席で、イリアスも頬杖をつきながら外を眺めている。


「こりゃ確かに自然の街だな」

「ラグナは元々自給自足文化だからね」

ヨザキは、手帳から窓の外に視線を移した。

「魔法や機械に頼らず生きてきた土地だ」

オサリアは遠くを見やる。

 

斜面では大きな風車がゆっくりと羽を回している。

 

谷沿いには木造の水車が並び、

絶えず流れる川の力を受けていた。

 

山道の先では大型の獣が、

荷車を引きながらのんびりと歩いている。

 

さらに高い山肌には、

階段のように連なる段々畑が広がっていた。


「本当だ……」

オサリアは感心したように呟く。

「なんか、全部自然の力で動いてる感じ」

「それがラグナだ」

ヨザキは小さく頷いた。

「不便そうだ」とイリアスは呟く。

「住んでる人間に言わせれば逆だろうさ」


馬車は山道を進み続け、木々の間を抜ける。


谷を越え、


さらに高みへ。


やがて御者が大きな声を上げた。


「見えてきたぞー!」


乗っていた他の旅人達が窓へ視線を向ける。


オサリアも身を乗り出した。


そして――


「うわぁ……!」


山の中腹。


巨大な樹々に囲まれるようにして、一つの集落が広がっていた。


木造の家々。

岩肌を利用した建築。

吊り橋で繋がれた高台。

煙突から立ち昇る白い煙。


まるで自然の中に街が溶け込んでいるような景色だった。


「ここが……」


ヨザキは小さく頷いた。


「翠嶺ラグナ」

「今回の最初の調査地だ」

眼鏡を押し上げ、窓の外の景色を見据える。

手帳を捲る手は止まっていた。

 

 

馬車はゆっくりと坂を下り始める。

 

山の街が、少しずつ近付いてきた。


〈ガタン〉


やがて、馬車は広場の端で停止した。


「到着だ!」

御者の声が高らかに響く。

旅人達が次々と席を立つ中、オサリアも勢いよく立ち上がった。

「着いたー!」

そのまま走って馬車の外へ駆けていく。

ペプシルはやれやれと言った感じで、自分とオサリアの分の荷物も受け取って馬車を降りる。


外に出れば、冷たい山風が頬を撫でた。


「おお……」

オサリアは辺りを見回す。

広場には木材で組まれた露店。

軒先に干された毛皮。

大きな籠を背負って行き交う住民達。

肩に弓を担ぐ狩人の姿も見える。


レヴァリアとはまるで違う光景だった。


「何かみんな体格良くない?」

「山育ちだからな」

後から出てきたイリアスが、荷物を受け取りながら答える。

「確かに強そうだ」

ペプシルも周囲を見回した。

住民達の腕や脚はよく鍛えられている。

日常的に山を歩き、狩りをし、畑を耕しているのだろう。

自然と身体が出来上がる環境だ。


「まずは聞き込みだね」

ヨザキが手帳を開く。

「魔物被害と黒い結晶について情報を集めよう」

「地味だなぁ」

「調査ってのはそういうものさ」


ペプシルはオサリアに荷物を手渡す。

そしてヨザキが歩き出そうとした、その時だった。


「だからちゃうって言っとるやろ!!」


突然、広場の奥から怒鳴り声が響いた。


四人は思わず足を止める。

声のした方を見れば、人だかりが出来ていた。

「何だ?」

イリアスが目を細める。

距離があるせいで姿までは見えない。

だが言い争う声だけははっきり聞こえた。


「またサクヤか!」

「ちゃう言うとるやんか!」

「お前以外に誰がおる!」


周囲の住民達も困ったような顔をしている。

オサリアが首を傾げた。


「サクヤ?」

「何があったんだろ」

「行ってみる?」

オサリアが興味津々に人だかりを見た。


「情報収集に丁度いいかもしれないね」

ヨザキはペンを握る。

四人は人混みの方へ歩いていった。

近付くにつれ、騒ぎの内容も聞こえてくる。


「財布が無くなったんだ!」

「だからオレちゃう言うとるやろ!」

「この前も似たようなことしてただろ!」


人垣の隙間から見えたのは、鮮やかな緑色の髪をした一人の女性だった。

 

燃えるような赤い瞳。

こめかみ辺りには獣のような耳。

腰には長槍。

尾てい骨辺りから生えている尻尾。

獣と人のハーフだ。

年齢はペプシルとそれほど変わらなそうだ。


「いやいや! あれはちょっと事故で立入禁止区域に入っただけやん!」

「十分問題だ!」

「ほな今回の財布と何の関係があんねん!」


「……問題児だな」

「有名人なのかな」

オサリアは面白そうに見ている。

「さぁね。でも魔物調査にはあまり関係なさそうだ」


騒ぎを横目に、四人は広場を後にする。

背後ではまだ怒鳴り声が続いていた。


広場を離れると、人通りも少し落ち着いてくる。

木造の家々が並ぶ坂道。

軒先には干された野菜や薬草がある。

家の壁には獣の角や牙が飾られていた。

 

「魔物被害の話なら猟師や農家から聞くのが早いかな」

ヨザキが手帳になにか書き込んでいる。

 

「別行動にするか?」

ペプシルが尋ねた。

「そうだね。効率は良い」

ヨザキは少し考えた後、


「ただし二人一組で」

と付け加えた。


「オサリアちゃん単独は禁止」

「えー」

「迷子になるからだ」

「否定できねぇな」

イリアスが頷く。


「じゃあ」

ヨザキは指さし棒代わりにペンを指す。

「僕はイリアスと回ろう」

「はいよ」

「ペプシルはオサリアちゃんと」

「分かった」

「じゃあ昼頃に広場集合ね」

「了解」


四人はそこで別れた。



「まず何聞くんだ?」

坂道を歩きながらペプシルが聞く。

「魔物!」

オサリアが元気よく答える。

「具体的には」

「任せた!」

「おい…」

ペプシルはため息を吐いた。


しばらく歩いていると、

「ペプシル!」とオサリアが足を止めた。

「何だ」

「見て!」


指差した先には屋台。

大きな串に刺さった肉が豪快に焼かれていた。

 

じゅうじゅうと脂が落ちる音。

香ばしい匂いが鼻をくすぐる。


「…」

オサリアは無言でペプシルの方を見る。

「…さっさと行け」

「わーい!」

オサリアは既に屋台へ向かっていた。


「旅人さんかい?」

店主らしい中年男性が笑う。

「これ何のお肉ですか?」

「山鹿だよ」

「山鹿?」

「ラグナじゃ定番だな」

ペプシルが答える。

「へぇー!」

オサリアは目を輝かせる。

そのまま店主に硬貨を手渡し、鹿串を受け取りその場で頬張る。


「…うまっ!」

「そりゃ良かったな」

「ペプシルも食べる?」

「いらん」

 

ペプシルは店主に話しかけた。

「ひとつ尋ねたいことがある」

「おう、なんだ?」

「最近、ラグナで何か変わった事はないか」

「変わった事ォ?」

店主は鹿肉を焼きながらうーんと唸る。

 

「そうだなぁ…昔と比べてだいぶ貧相になったな」

店主は串をひっくり返した。

 

「税か?」

「お、分かるか」

店主は苦笑する。


「最近はどこも大変さ。アストラ様に納める分が増えてな」

オサリアが鹿串を咥えながらうんうん、と相槌を打つ。

 

「元々ラグナは自分達で食っていける土地だからなぁ」

「飢える訳じゃねぇ。だが余裕は減った」

広場を歩く住民達へ視線を向ける。


「昔なら売りに出してた分を、自分達で食うようになったしな」

「…そうなのか」

ペプシルは眉を顰めた。

「増えたとはいえ、他の街より税は少ない。新星騎士団の支配も強いんだ」

店主は控えめに指を指す。

その先には、ルミナスで見たのと同じ白銀の甲冑。

数人の騎士が広場を巡回していた。

 

「今じゃセレスティア全部がアストラの縄張りみたいなもんだな」

店主は苦笑した。

 


一方その頃。

 

「で、何で俺達は村長の家探してんの?」

イリアスは坂道を登りながら聞いた。


「聞き込みの一環さ。村の代表者から話を聞くのが一番早いだろう?」

ヨザキは手帳を見ながら答える。

 

「合理的だなぁ」



二人は坂道を進む。

道端では住民達が薪を割り、

畑では何人もの人々が作業をしていた。


「しかし本当に山か川しかねぇな」

イリアスが周囲を見回す。


「綺麗だけど多分明日には飽きちまうよ」

「君の街は忙しないからね」


二人は坂を登り続ける。

やがて他より一回り大きな建物が見えてきた。

 

丸太を組み上げた重厚な木造建築。

入口にはラグナの紋章が掲げられている。


「あれか?」

「恐らくね」


ヨザキは扉を叩いた。

 

「失礼します」

扉を開ける。

中には白髪混じりの壮年男性が座っていた。

 

「旅人か?」

「レヴァリア学府から来ました、ヨザキと申します」

「どうも、ヨザキの補佐イリアスです」

ヨザキは書状を差し出す。

男は目を通すと小さく頷いた。


「…わざわざこんな所まで、よく来た」

「村長のガインだ」

村長は深々と頭を下げる。


簡単な挨拶を済ませた後、ヨザキは早速本題へ入った。


「最近の魔物被害について伺いたい」

村長の顔が険しくなる。


「増えている」

即答だった。


「家畜被害は去年の三倍だ」

「三倍?」

イリアスが眉を上げる。


「山の奥にいるはずの魔物まで降りてきている」

「餌不足か?」

「分からぬ」


ガインは腕を組んだ。


「だが妙なのだ」

「妙?」

ヨザキがペンを走らせる。


「本来なら縄張りが違う魔物同士が、同じ地域で目撃されている」

「狼型の群れが現れた数日後、同じ場所で熊型の魔物が出た」

ガインは眉を顰めた。


「普通ならあり得ん」

「縄張り争いになるからか」

「そうだ」

ヨザキのペンが止まる。


「生態系そのものが乱れている可能性がある、と」

「儂らもそう考えておる」

ガインは重く頷いた。


「猟師達も同じことを言っていた。…あの北の山には迂闊に近づかん方がいい」

「…魔物の様子もおかしくてな。まるで山の何かから逃げてきたようにも思える」

 

部屋に少しだけ沈黙が落ちる。


窓の外では風車がゆっくりと回っていた。


「それと……」

ガインの表情がさらに険しくなる。

「行方不明者が、九名」

「九…!?多いな…」

「七名は山じゃ。もう二人は街外れの道の目撃を最後に、消息を絶った」

ヨザキは素早く書き留める。


「共通点は?」

「……税を納められなかった」


イリアスとヨザキが顔を見合わせる。


「全員?」

「ああ」

ガインは静かに頷いた。

「家畜や魔物被害の影響で、猟師も薬草採りも商人も…皆、生活は苦しい」

 

窓の外では風車が変わらぬ速さで回り続けている。


「税が払えなくなった人間は珍しくない」

「じゃが最近は特にな」

ガインは遠くを見るような目をした。


「連れて行かれたのか」

イリアスが低く呟く。


ガインはすぐには答えなかった。


数秒の沈黙。


「……新星騎士団が来た翌日には居なくなっていた」

それが答えだった。

ヨザキはペンを走らせる。


「中には親が居なくなり、子供だけになった家もある」


イリアスが僅かに眉を顰めた。


「嫌な話だな」

「だからと言って税を拒めば、街そのものが立ち行かなくなる」

ガインは苦々しく言った。


「ラグナは昔より貧しくなった。それでも生きるしかない」

 

部屋に重い空気が流れた。


 

「なんかさ、レヴァリアと全然違うね」

「そりゃ街が違うからな」

「そうなんだけど…なんて言うか」

オサリアは周囲を警戒している。


「どこか重苦しい感じがする。ピリピリというか」


ペプシルも足を止め、辺りを見る。


行き交う住民達。

笑い声はあるし、会話もある。

だがどこか小さい。


アイゼルのような賑やかさとは違った。


広場の端では白銀の甲冑を纏った騎士達が巡回している。

住民達は騎士と目を合わせないように横を通り過ぎていた。

 

「…騎士団も多いみたいだし、あまり目立つ行動はするな」

「…うん」

オサリアも珍しく素直に頷いた。


山から吹き下ろす風が木々を揺らす。


自然は穏やかなのに、

街の空気だけが妙に張り詰めているように感じられた。



しばらく歩くと、大きな吊り橋が見えてきた。

太い縄と木板で作られた橋は、谷と谷を繋ぐように架かっている。

下を覗けば、遥か谷底を白い川が流れていた。


「うわぁ!」

オサリアが目を輝かせる。


「凄い高い!」

「落ちるなよ」

「わー!」

オサリアはそのまま橋へ駆け出した。


「走るな」

「大丈夫だよー!」

「……走るな!!」

橋がぎしぎしと揺れる。

オサリアは気にもせず先へ進んでいく。

その後ろを歩くペプシルの足取りは、何故か少しぎこちなかった。


「……」

下は見ない。

絶対に見ない。

ただ真っ直ぐ前だけを見る。


「ペプシル?」

「何だ」

「もしかして高い所苦手?」

「違う」

即答だった。

だが縄を握る手は白くなるほど力が入っていた。


そのまま橋を渡り切る。

渡りきった後、道端で薬草を干していた老婆が声を掛けてきた。

「旅人さんかい?」

「はい!」

オサリアが元気よく答える。


「なら橋は気を付けて渡りな」

「何でですか?」

「たまに落ちる」

「…」


オサリアはそっと橋を振り返った。

ペプシルは無言でオサリアの頭に拳をぐりぐりめり込ませる。

「いだだだだ!! ごめんんんっ!!」

「だから走るなと言ったんだ」

老婆はケラケラ笑った。


「ところで」


ペプシルが話を切り替えた。


「最近、ラグナで何か変わった事はないか」

老婆の笑顔が少しだけ薄れる。


「そうだねぇ…」


風が吹いた。


「魔物が、昔より増えたねぇ」

「どの辺だ?」

「北の山だよ」

老婆は山の奥を指差した。


「猟師も最近は奥まで入らなくなったよ」

「そんなに危険なの?」

オサリアが聞く。


「さてねぇ」

老婆は首を傾げる。


「魔物だけじゃない」

その言葉に、ペプシルの目が僅かに細くなった。


「どういう意味だ?」

老婆は少し考える。


「変な話だからねぇ」

「構わん」


老婆は声を潜めた。

「最近…といっても、半年くらい前かしらねぇ。この街じゃ盗難騒ぎが増えてるのよ」

「あー……」

オサリアの頭に先程の騒ぎが浮かぶ。


「サクヤかって皆言うけどねぇ」

「違うのか」

老婆は困ったように笑った。

 

「どうだろうねぇ」

「でもあの子、損する側ばっか選ぶからね」

ペプシルは黙って聞いていた。

 

「ま、変な子だよ」

老婆はそう言って笑う。


山の風が音を立てて吹き抜けた。



広場へ戻る。太陽はまだ高かった。


「思ったより早かったな」

イリアスが手を振る。


「そっちも?」

ヨザキは眼鏡を押し上げる。


「ああ」

ペプシルは頷く。


四人は広場の端にある木製のベンチへ腰を下ろした。


「じゃあ情報共有だね」

ヨザキが真っ先に手帳を開いた。


「まず結論から言うと、魔物被害はかなり深刻だ」

オサリアも真面目な顔になる。


「村長の話では家畜被害は去年の三倍」

「縄張りの違う魔物が同じ場所に現れているらしい」

「それに、山から逃げてきたような動きも確認されてる」


「逃げてきた?」

ペプシルが眉を顰める。


「何かが山にあるってことか」

「可能性は高いね」

ヨザキは頷いた。


「黒い結晶との関連も十分考えられる」


「こっちは税の話が出た」

ペプシルが言う。


「街全体が貧しくなってる」

「騎士団の巡回も多い。あまり目立ちすぎない方がいい」

「そうみたいだな」

イリアスは周囲を見渡してため息を着く。

そして少しだけ表情を曇らせた。


「あとは、ラグナでの行方不明者が九人」

三人は顔を上げる。

「き、九って…多すぎるよ」

オサリアは不安そうに周囲を見ている。

 

「全員、税を払えなくなった人間だ」

空気が少し重くなった。


「新星騎士団が来た翌日に消えたらしい」

「証拠は無いがな」

「……」

オサリアは黙り込む。

ペプシルも何も言わない。

言葉にしなくても分かる。

良い話ではない。


「あ、あと」

オサリアが思い出したように口を開いた。


「サクヤって人」

「ああ」

「みんな泥棒だって言ってたけど、薬草のおばあちゃんは違う感じだったよ」

ヨザキがメモを取る。


「損する側ばかり選ぶ人、だったかな」

「変な奴らしい」

ペプシルが付け加えた。

 

その時だった。

 

「待てコラァ!!」


「うわーーーーっ!!」

 

広場の奥から、聞き覚えのある騒がしい声が聞こえてきた。

四人が同時に振り返る。


サクヤは俊敏な身のこなしで、広場を全力で駆け抜ける。


一直線ではない。


荷車の荷台へ飛び乗り、そこから木箱へ。

さらに屋台の支柱を蹴って身体を持ち上げる。


「うおっ!?」


店主が驚く中、サクヤは軽々と屋根の上へ着地した。

獣のような身軽さだった。


屋根から屋根へ飛び移り、

吊るされた干し肉を避け、洗濯物の間をすり抜ける。


その動きに一切の無駄が無い。


まるでこの街の地形を全て覚えているかのようだった。

 

「待たんかい!」

「止まれ!」


追い掛ける男達との距離はむしろ広がっている。

 

「無理や!!オレ別に悪いことしてへんもん!!」

サクヤは振り返りながら叫んだ。


「なら証拠を出せぇー!!!」


広場中の視線が集まる。


オサリアがぽかんと口を開けた。


「……」


数秒。


「めちゃくちゃ目立ってるね」


「アイツがいるお陰で、俺らはあまり目立たずに済みそうだ」

ペプシルは脚を組んでその様子を見ていた。

 

オサリア達の近くで、

「わぁーサクヤ姉ちゃんかっこいー!」

と数人の子供が歓声をあげていた。

興奮したようにオサリアのすぐ横まで駆け寄ってくる。

「サクヤ姉ちゃんすごいでしょー!?」

「あはは、本当だね!」

オサリアはサクヤの動きに釘付けだ。

 

「情報は十分集まったかな」

ヨザキは手帳を閉じた。


「まずは現場確認だ」

「北の山?」

オサリアは山の方角を向く。

「ああ」

 

「魔物が逃げている原因があるなら、その近くや山の中に行けば何か分かるだろう」

「ようやく調査っぽくなってきたな」

イリアスが腕を回しながら立ち上がる。


「街の情報だけじゃ限界があるしな」

ペプシルも腰を上げた。


「じゃあ行こうか」

 

四人は広場を後にし、北の山へ続く道を歩き始めた。

「うちもあんなぴょんぴょん飛んでみたいなあ」

「やめとけ、絶対に怪我する」

「治癒魔法で自分を治せば何回でもチャレンジ出来るぞ」

「確かに!」

「やめて」

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