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見た目でビッチだと誤解されているピンク髪巨乳の保健委員は、なぜか俺にだけ距離が近い  作者: カルラ


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第6章:熱と距離

 放課後。


 教室の喧騒が少しずつ薄れていく時間。


 窓の外は、夕焼けに染まり始めていた。


 鞄を持って立ち上がる。


 向かう先は決まっている。


 保健室。


 昼間に交わした約束。


 あれは勢いだったかもしれない。


 けれど、今さら取り消すつもりもない。


 廊下は静かで、足音だけがやけに響く。


 少しだけ、緊張している自分に気づく。


 ――ただ話すだけだろ。


 自分に言い聞かせながら、扉の前に立つ。


 コンコン、とノック。


「どうぞ」


 いつもの声。


 扉を開ける。


「神崎くん」


 夕日に照らされた彼女が、柔らかく微笑んだ。


「来てくれたんですね」


 その言葉に、ほんの少しだけ胸が軽くなる。


「約束したし」


「はい」


 彼女は嬉しそうに頷く。


 昼間と違って、保健室には他に誰もいない。


 完全な二人きり。


 カーテン越しの光が、空間をやわらかく包んでいる。


「座ります?」


「うん」


 椅子に腰を下ろす。


 すると、彼女はいつものように近くへ来た。


 だが。


 今日は、ほんの少しだけ違った。


 距離が、いつもより近い。


 気のせいかと思ったが、そうではない。


「……近くない?」


 思わず口に出る。


「え?」


 彼女はきょとんとした顔をした。


「そうですか?」


「いや、その……」


 言葉に詰まる。


 だが彼女は、少しだけ考えてから――。


「……すみません」


 ほんのわずかに距離を取った。


 だが、それでもまだ近い。


 完全には離れない。


「無意識でした」


 小さく笑う。


 その仕草が、妙に自然だった。


 ――本当に、無意識なんだな。


 そう思うと、逆に意識してしまう。


「……で、話って」


 話題を変える。


「はい」


 彼女は一度だけ深呼吸をした。


 そして、少しだけ視線を落とす。


「さっきのことなんですけど」


 やはりそこに触れるか。


「相沢さんの言っていたこと、間違ってはいないと思います」


 静かな声。


「見え方が大事、というのも分かります」


「……でも?」


 続きを促す。


 彼女は、ほんの少しだけ迷った。


「でも、全部を変えるのは難しくて」


 ぽつりとこぼす。


「……どういう意味?」


「距離を取れば、誤解は減るかもしれません」


「でも」


 少しだけ顔を上げる。


「それだと、本当に来てくれる人も減ってしまう気がして」


 その言葉に、少しだけ納得する。


 確かに。


 もし彼女が、今よりも冷たく、事務的に対応するようになれば。


 俺も、ここまで来なかったかもしれない。


「……難しいな」


「はい」


 苦笑する。


 その表情は、どこか大人びて見えた。


「だから、あまり考えすぎないようにしてたんです」


「でも、さっきので考えちゃった?」


「少しだけ」


 素直に頷く。


 その仕草が、妙に可愛く見えた。


「……別に、今のままでいいと思うけど」


 自然と口から出る。


 彼女は一瞬だけ驚いた顔をした。


「来る人は来るし、来ないやつは来ない」


「それだけじゃないですか」


 自分でも、雑な言い方だと思う。


 だが――。


「……ふふっ」


 彼女は、小さく笑った。


「神崎くんらしいですね」


「そうか?」


「はい」


 穏やかに頷く。


「でも」


 少しだけ距離が縮まる。


「その言葉、少しだけ救われました」


 真っ直ぐな視線。


 思わず、目を逸らす。


 距離が近い。


 さっきよりも、さらに。


「……あのさ」


「はい?」


「やっぱり近くない?」


 再び指摘する。


「……すみません」


 今度は、少しだけ慌てたように離れた。


 だが――。


 その直後。


「でも」


 小さく呟く。


「神崎くんと話してると、安心するので」


 その言葉は、あまりにも自然だった。


 作った感じがない。


 だからこそ。


 余計に響く。


「……それ、ずるくない?」


 思わずそう返す。


「え?」


「そういうこと普通に言うの」


 少しだけ視線を逸らす。


 彼女は数秒考えてから――。


「……本当のことなので」


 少しだけ照れたように笑った。


 その表情に、一瞬だけ目を奪われる。


 ――やばいな。


 自覚する。


 これは、少し危ない。


 ただ話しているだけのはずなのに。


 距離が、想像以上に近い。


 その時だった。


「……あれ?」


 彼女が、こちらをじっと見つめる。


「どうした?」


「少し、顔が赤いです」


 指摘される。


「いや、これは」


 言い訳を考える。


 だが――。


「少し失礼しますね」


 彼女が、さらに距離を詰めてきた。


 そして。


 額に、手が触れる。


「……少し熱いですね」


 その距離。


 その体温。


 心臓の音が、やけに大きくなる。


「本当に大丈夫ですか?」


 真剣な表情。


 さっきまでの空気とは違う。


 保健委員としての顔。


 だが。


 距離は、そのまま。


 近い。


 近すぎる。


「……大丈夫」


 なんとか答える。


「でも」


 彼女は少しだけ眉を寄せた。


「無理はよくないです」


 その声は、優しかった。


 ただの仕事ではない。


 そう思わせる何かがある。


 その距離で。


 その声で。


 そう言われると――。


 どうしようもなく、意識してしまう。


 夕焼けが、少しだけ濃くなる。


 その中で。


 二人の距離は、確実に縮まっていた。









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