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見た目でビッチだと誤解されているピンク髪巨乳の保健委員は、なぜか俺にだけ距離が近い  作者: カルラ


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第4章:ほんの少しの影

 保健室の空気は、いつ来ても変わらない。


 白くて、静かで、どこか時間の流れが緩やかだ。


「今日は少し遅かったですね」


 桜井はそう言って、穏やかに微笑む。


「ちょっと寄り道してただけ」


 嘘ではない。


 ただ、その“寄り道”の中身までは言わない。


「そうなんですね」


 彼女は特に深く追及することもなく、自然に頷いた。


 この距離感が心地いい。


 踏み込みすぎず、それでいて遠すぎない。


「座ります?」


「うん」


 椅子に腰を下ろす。


 すると、彼女はいつものように近くへ来た。


 やはり近い。


 だがもう、最初ほどの戸惑いはない。


「顔色は大丈夫そうですね」


「今日は普通に元気」


「それなら良かったです」


 ふわりとした笑顔。


 ――本当に、この人は。


 何度見ても、噂の人物像とは結びつかない。


「神崎くんは、よくここに来てくれますね」


「来ちゃダメだった?」


「いいえ」


 すぐに首を振る。


「むしろ、嬉しいです」


 やはり同じ言葉。


 だが、不思議と飽きない。


 その理由を考えようとして――やめた。


 多分、理屈じゃない。


「……あの」


 ふと、口を開く。


「はい?」


「ここ、なんでこんなに人来ないの?」


 少しだけ踏み込んだ質問。


 彼女は一瞬だけ、動きを止めた。


 ほんのわずか。


 本当にわずかな変化。


 だが、それは確かにあった。


「……そうですね」


 ゆっくりとした返答。


「みなさん、元気なんだと思います」


 柔らかい言い方。


 だが、それが本音でないことは分かる。


 昨日の会話が頭をよぎる。


 噂。


 それが原因なのは、ほぼ間違いない。


「……そうじゃなくてさ」


 言葉を選びながら続ける。


「避けられてるとか、そういうのじゃないの?」


 少しだけ踏み込む。


 彼女は、ほんの少しだけ視線を逸らした。


「……どうでしょう」


 曖昧な答え。


 だが、その声音には、わずかな揺れがあった。


「気にしてないならいいけど」


 それ以上は追わない。


 無理に聞き出すつもりはない。


 けれど――。


「……少しだけ、あります」


 小さな声。


 思わず顔を上げる。


 彼女は、さっきよりも少しだけ表情を曇らせていた。


「やっぱり?」


「はい」


 静かに頷く。


「理由は分かってるんです」


 その言葉は、やけに落ち着いていた。


 諦めに近い響き。


「見た目、だと思います」


 あっさりと言った。


「髪の色とか、その……」


 少しだけ言い淀む。


「いろいろ、目立つので」


 自嘲気味に笑う。


 胸の奥が、少しだけざわつく。


 それだけじゃない。


 分かっているはずだ。


 噂。


 だが彼女は、それを口にしない。


 否定もしない。


 ただ、受け入れている。


 その在り方が、少しだけ引っかかった。


「……それだけじゃないだろ」


 思わず言ってしまう。


「え?」


「噂とか、あるだろ」


 言葉にすると、少しだけ空気が変わる。


 彼女は一瞬だけ、目を伏せた。


 そして――。


「ありますね」


 否定しなかった。


 むしろ、あっさりと認めた。


「でも」


 ゆっくりと顔を上げる。


「全部、本当じゃないので」


 静かな声。


 強さはない。


 だが、揺らぎもない。


 それだけで、十分だった。


「……そっか」


 それ以上の言葉は出てこない。


 だが、何か言わなければと思った。


「俺は、気にしてないけど」


 結局、そんなありきたりな言葉になる。


 けれど――。


「……はい」


 彼女は、少しだけ驚いたように目を見開いた。


 そして。


「ありがとうございます」


 小さく、しかしはっきりと笑った。


 その笑顔は、いつものものとは少し違う。


 どこか、力が抜けたような。


 少しだけ、素に近いもの。


 ――ああ。


 今のは、多分。


 本当の笑顔だ。


 そう思った。


 その瞬間。


 ガラッ、と扉が開いた。


「失礼するわ」


 聞き覚えのある声。


 振り返る。


 そこにいたのは――。


 相沢凛だった。


 黒髪を揺らしながら、まっすぐこちらを見る。


 その視線は、昨日と同じく鋭い。


「……神崎」


 名前を呼ばれる。


 そして、すぐに視線が横へ移る。


「桜井さん」


 呼び方が変わった。


 距離を取るような言い方。


 空気が、わずかに張り詰める。


「何か用?」


 俺が聞く前に、桜井が口を開いた。


「保健委員としての確認よ」


 相沢は淡々と答える。


「少し、話があるの」


 その言葉は、表面上は穏やかだ。


 だが――。


 どこか、嵐の前の静けさに似ていた。


 そして。


 俺は直感する。


 ――ここから、何かが動く。


 ただの“誤解”では終わらない何かが。










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