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見た目でビッチだと誤解されているピンク髪巨乳の保健委員は、なぜか俺にだけ距離が近い  作者: カルラ


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第2章:距離の近い保健委員

 次の日。


 朝の教室は、いつも通りのざわめきに満ちていた。


 特別なことは何もない。


 いつもと同じ、変わらない風景。


 ――のはずだった。


 だが、意識だけが違う。


 昨日の出来事が、妙に頭に残っている。


 ノートを開いても、視線は文字の上を滑るだけで意味を結ばない。


 桜井桃花。


 名前を思い浮かべるだけで、なぜか少し落ち着かない。


 理由は分かっている。


 あの距離感。


 あの声。


 あの、何気ない一言。


 ――また来てくれて、嬉しいです。


 たったそれだけの言葉なのに、妙に引っかかる。


「おい、神崎」


 横から声が飛んできた。


「さっきからぼーっとしてるけど、どうした?」


 隣の席の男子が、半ば呆れたような顔でこちらを見ている。


「別に」


「いや絶対なんかあるだろ」


「ないって」


 適当に流す。


 説明する気もないし、説明できる気もしない。


「……まさか昨日の保健室?」


 妙に鋭い。


「何もないって言っただろ」


「いやいや、あの子だぞ?」


 またそれか。


 わずかに、苛立ちが混じる。


 昨日よりも、はっきりと。


「普通だったって言ってるだろ」


 少しだけ強く言い切る。


 相手は一瞬だけ驚いた顔をした。


「……へえ」


 それ以上は何も言ってこない。


 自分でも分かる。


 今のは少し、感情が出ていた。


 ――なんで、こんなに引っかかるんだ。


 まだ二回しか話していない。


 それなのに。


 チャイムが鳴る。


 授業が始まる。


 だが、やはり集中できない。


 ――行く理由は、ある。


 昨日と違って、今日ははっきりしている。


 “様子を見るため”ではない。


 会いたいから行く。


 その事実を認めた瞬間、少しだけ苦笑した。


 我ながら単純だ。


 昼休み。


 弁当を適当に流し込み、すぐに席を立つ。


「どこ行くんだよ」


 背後から声が飛ぶ。


「ちょっと」


 それだけ返して、教室を出た。


 廊下を歩く足取りは、昨日よりも軽い。


 迷いもない。


 保健室の前。


 今度は躊躇しなかった。


 コンコン、とノックする。


「どうぞ」


 同じ声。


 扉を開ける。


「……あ」


 彼女は一瞬だけ目を丸くした。


 そして、すぐに柔らかく笑う。


「神崎くん」


 名前を呼ばれる。


 それだけで、少しだけ安心する自分がいる。


「どうしましたか?」


「えっと……」


 昨日と同じように言葉が詰まる。


 だが、今回は誤魔化さない。


「特に用事はないんですけど」


 正直に言った。


「……来ちゃダメでした?」


 ほんの少しだけ、様子をうかがう。


 すると彼女は――。


「いいえ」


 即答だった。


「むしろ、嬉しいです」


 迷いのない言葉。


 その一言で、胸の奥が少しだけ軽くなる。


「じゃあ、座りますね」


「はい」


 椅子に腰掛ける。


 ベッドではなく、少し離れた位置。


 だが――。


 彼女は、自然にこちらへ歩み寄ってきた。


 距離が近い。


 昨日よりも、さらに一歩踏み込んだ位置。


「今日は元気そうですね」


「まあ、普通に」


「良かったです」


 微笑む。


 やはり、この人は変だ。


 いい意味で。


 距離が近いのに、不快感がない。


 むしろ安心感がある。


 それが一番の違和感だった。


「神崎くんは、授業は大丈夫なんですか?」


「昼休みですし」


「それもそうですね」


 くすり、と笑う。


 小さな仕草一つ一つが、やけに柔らかい。


「ここ、よく来るんですか?」


 何気なく聞く。


「保健委員なので、基本はいますよ」


「じゃなくて、生徒が」


「……あまり来ませんね」


 少しだけ間を置いて答える。


 やはり、そうか。


「みんな、忙しいですから」


 そう言って、彼女は微笑む。


 だが、その言葉は明らかに本音ではない。


 理由は、分かっている。


 噂。


 それが、この場所を遠ざけている。


 少しだけ、胸の奥に何かが引っかかる。


「……じゃあ、俺が来ても迷惑じゃないですか?」


 確認するように聞く。


「全然」


 やはり即答。


「むしろ、来てくれると安心します」


「安心?」


「はい」


 彼女は少しだけ視線を逸らした。


「誰かが来てくれると、ちゃんと仕事ができてる気がするので」


 その言葉に、妙なリアルさを感じる。


 役割を果たせているかどうか。


 それを気にしている。


 ただ優しいだけじゃない。


 ちゃんと、自分の立場を理解している。


 ――やっぱり、違う。


 噂の中の人物とは、根本から違う。


「……じゃあ、また来ます」


 自然とそう言っていた。


「はい」


 彼女は嬉しそうに頷く。


「待ってますね」


 やはり、その言葉。


 同じなのに、毎回少しだけ響きが違う気がする。


 その理由は、まだ分からない。


 ただ一つ言えるのは。


 ここに来る時間が、少しずつ楽しみになっているということ。


 そして――。


 彼女との距離が、確実に縮まっているということ。


 その事実だけは、はっきりと感じていた。













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