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見た目でビッチだと誤解されているピンク髪巨乳の保健委員は、なぜか俺にだけ距離が近い  作者: カルラ


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第15章:二人のかたち

 放課後。


 教室に残る人影は、もうまばらだった。


 窓の外は、少しずつ夕焼けに染まり始めている。


 鞄を手に取る。


 向かう場所は、もう迷わない。


 廊下を歩く。


 視線は、やはりある。


 昨日よりも、今日よりも。


 だが――。


 足は止まらない。


 保健室の前に立つ。


 コンコン、とノック。


「どうぞ」


 聞き慣れた声。


 扉を開ける。


「……いらっしゃい」


 桜井が、微笑む。


 その表情を見た瞬間。


 ほんの少しだけ、肩の力が抜ける。


「来た」


 短く言う。


「はい」


 彼女は嬉しそうに頷いた。


 そのまま、一歩近づく。


 自然な距離。


 近すぎず、遠すぎない。


 何度も試して、選んだ距離。


「今日は、静かですね」


「みたいだな」


 周囲を見渡す。


 他に人はいない。


 完全な二人きり。


 けれど――。


 前とは、少し違う。


 ただ近いだけじゃない。


 ただ優しいだけでもない。


 そこに、はっきりとした“選択”がある。


「……神崎くん」


 名前を呼ばれる。


「はい」


「少し、話してもいいですか?」


 落ち着いた声。


「いいけど」


 頷く。


 彼女は一瞬だけ考えてから、口を開いた。


「この数日で、いろいろありました」


 静かな語り出し。


「正直、少し怖かったです」


 視線を落とす。


「噂とか、周りの目とか」


「自分がどう見られているのか」


 一つ一つ、言葉を選ぶ。


「でも」


 ゆっくりと顔を上げる。


「それ以上に、大事なものがあるって分かりました」


 その視線は、まっすぐこちらを向いている。


 言葉にしなくても、分かる。


「……それって」


 思わず聞く。


 彼女は、少しだけ笑った。


「来てくれる人です」


 やわらかな答え。


「安心してくれる人」


「落ち着くって言ってくれる人」


 その言葉は、まっすぐだった。


 そして――。


「……神崎くん、です」


 はっきりと、名前が出る。


 一瞬、言葉を失う。


 冗談でも、曖昧でもない。


 真っ直ぐな感情。


「だから」


 彼女は一歩だけ近づく。


「この距離は、やめません」


 静かに、宣言する。


 その距離。


 昨日よりも、今日よりも。


 ほんの少しだけ、近い。


 だが。


 不思議と、違和感はない。


 むしろ――。


 自然だった。


「……いいのか、それで」


 確認するように聞く。


「はい」


 迷いのない返事。


「問題が起きたら、その時に考えます」


 少しだけ笑う。


「でも、今はこれが一番いいので」


 その強さに、少しだけ息を飲む。


 ――この人は。


 ちゃんと、自分で選んでいる。


 誰かに流されるんじゃなくて。


「……そっか」


 短く返す。


 それ以上の言葉は、いらなかった。


「神崎くんは?」


 逆に聞かれる。


「俺?」


「はい」


「どうしたいですか?」


 少しだけ、不安を含んだ声。


 その問いに、少しだけ考える。


 だが――。


「今まで通りでいい」


 答えは変わらない。


「来たい時に来る」


「話したい時に話す」


 シンプルな答え。


「それで十分だろ」


 一瞬、沈黙。


 そして――。


「……はい」


 彼女は、嬉しそうに頷いた。


 その笑顔は、今までで一番自然だった。


 作っていない。


 無理もしていない。


 本当に、そう思っている顔。


 夕焼けが、部屋を染める。


 オレンジ色の光が、二人の影を伸ばす。


 その距離は、近い。


 けれど。


 もう、曖昧じゃない。


 ただ近いだけの関係じゃない。


 名前のない関係。


 それでも。


 確かに、ここにある。


「……神崎くん」


 最後に、もう一度呼ばれる。


「なに」


「また、明日も来てくれますか?」


 少しだけ照れたような声。


「行くよ」


 迷わず答える。


「待ってます」


 柔らかな笑顔。


 それだけで、十分だった。


 扉の外には、まだざわめきがある。


 けれど。


 この場所だけは、静かだ。


 その静けさが、心地いい。


 だから――。


 また、ここに来る。


 理由は、もういらない。


 それでいいと思えた。













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