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見た目でビッチだと誤解されているピンク髪巨乳の保健委員は、なぜか俺にだけ距離が近い  作者: カルラ


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第10章:無遠慮な観察者

 保健室の空気に、軽い風が入り込んだようだった。


「へえー、やっぱり」


 小柄な少女は、興味深そうにこちらを見ている。


「よく来てる人だよね?」


 遠慮のない問い。


「……まあ、そんな感じ」


 曖昧に答える。


「やっぱりだ」


 にやりと笑う。


 距離感が妙に近い。


 だが桜井とは違う。


 こちらは、単純に遠慮がないタイプだ。


「君さ、名前なんていうの?」


 いきなり踏み込んでくる。


「神崎」


「神崎くんね」


 すぐに覚えたように頷く。


「私は七瀬」


 軽く名乗る。


「よろしくー」


 手を振るような軽さ。


 初対面とは思えない距離感。


「七瀬さん、どうしましたか?」


 桜井がいつもの穏やかな声で尋ねる。


「あー、ちょっとね」


 七瀬はそう言いながら、ベッドの方へ歩く。


「体育で軽くぶつかってさ」


「痛みはありますか?」


「そこまでじゃないけど、一応見てもらおうかなって」


 そう言いながら、ちらりとこちらを見る。


 その視線に、妙な含みを感じる。


「……で?」


 思わず聞く。


「で?」


 七瀬はとぼけたように首を傾げた。


「いや、なんか言いたそうだっただろ」


「別にー?」


 わざとらしく視線を逸らす。


 絶対に何かある。


「たださ」


 少しだけ声のトーンが変わる。


「噂って、案外当たってるのかなーって思って」


 一瞬で空気が変わる。


 桜井の手が、わずかに止まる。


「……どういう意味?」


 自然と声が低くなる。


「そのまんまだよ」


 七瀬はあっけらかんと答えた。


「保健室に入り浸ってる男子と、距離が近い保健委員」


 指を一本立てる。


「そりゃ、いろいろ言われるでしょ」


 悪気はない。


 むしろ、純粋な観察に近い。


 だからこそ、厄介だ。


「七瀬さん」


 桜井が静かに呼ぶ。


 その声は、いつもと同じ。


 だが――。


「今は診察を優先してもいいですか?」


 ほんのわずかに、距離を置く響き。


「あ、はいはい」


 七瀬は軽く手を上げる。


「すいませんねー」


 そう言いながらも、口元には笑みが残っている。


 桜井は、淡々と処置を始めた。


 必要以上に近づかない。


 無駄な会話もしない。


 明らかに、さっきまでとは違う対応。


 “距離を取る”。


 それを、実行している。


 その様子を見て、胸の奥が少しだけざわつく。


 これが正しい。


 分かっている。


 でも――。


 どこか、違和感がある。


「……ねえ」


 七瀬が小さく呟く。


「なんか、急に普通だね」


 その言葉に、手が止まりそうになる。


「前はもっと、こう……優しかった感じするけど」


 悪意のない一言。


 だが。


 的確すぎる。


「……変ですか?」


 桜井が静かに聞く。


「変っていうか」


 七瀬は少しだけ考えてから――。


「つまんない」


 はっきりと言い切った。


 一瞬、沈黙。


 俺は思わず顔を上げる。


 だが。


 桜井は、何も言わなかった。


 ただ、少しだけ目を伏せる。


「……そっか」


 小さく呟く。


 それ以上は、何も言わない。


 処置を終え、距離を保ったまま一歩下がる。


「お大事にしてください」


 形式的な言葉。


 七瀬はそれを聞いて、しばらく黙っていた。


 そして――。


「……ねえ、神崎くん」


 突然、こちらに話を振ってくる。


「なに」


「どっちがいいと思う?」


 意味が分からない。


「どっちって?」


「前の桜井さんと、今の桜井さん」


 直球すぎる質問。


 言葉に詰まる。


 どちらも正しい。


 どちらも間違っていない。


 だが――。


「……前の方」


 気づけば、そう答えていた。


 一瞬、静寂。


 桜井が、わずかに目を見開く。


 七瀬は、にやっと笑った。


「だよね」


 あっさりと頷く。


「そっちの方が、面白いし」


 その言葉に、思わずため息が出る。


「面白さで決めるなよ」


「でも大事でしょ?」


 悪びれもなく返す。


「人ってさ、“正しい”だけじゃ好きにならないし」


 その一言に、少しだけ言葉を失う。


「むしろ、ちょっと変なくらいの方が印象残るじゃん」


 軽い口調。


 だが――。


 妙に核心を突いている。


 桜井は、何も言わない。


 ただ、静かに立っている。


 その表情は読めない。


 だが。


 少しだけ、揺れている気がした。


「……ま、私はどっちでもいいけど」


 七瀬は肩をすくめる。


「でもさ」


 最後に、にやっと笑って。


「そのままじゃ、もったいないよ?」


 そう言い残した。


 そして、軽い足取りで保健室を出ていく。


 扉が閉まる。


 再び、二人きり。


 だが。


 さっきまでとは、空気が違う。


「……神崎くん」


 静かな声。


「さっきの」


 少しだけ間を置く。


「本音ですか?」


 逃げ場のない問い。


 少しだけ、考える。


 だが。


「……本音」


 正直に答える。


 桜井は、しばらく何も言わなかった。


 ただ。


 ほんの少しだけ。


 距離が、縮まった。


 昨日よりも。


 今日よりも。


 ほんの一歩だけ。


 その変化は、小さい。


 だが。


 確かに、何かが動いた証だった。













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