第35話 真犯人
王都大法廷。
静まり返った空間。
クラリスの言葉は、まだ空気の中に残っていた。
「この人は無実です」
観客席はざわめいている。
貴族たちが小声で話し合う。
記者が慌ててメモを取る。
学生席。
レオンは帳簿を見直していた。
「……確かに」
小さく呟く。
「時間が合わない」
リリスも証言資料をめくる。
「告発者の証言だと」
「この日、この時間に賄賂を受け取った」
レオン
「でも帳簿の送金は」
指で数字をなぞる。
「二日前」
フィオナは証言記録を並べていた。
机の上に書類を広げる。
「舞台が崩れてる」
彼女は苦笑する。
「証言」
「証拠」
「タイミング」
「全部ズレてる」
クラリスは静かに言う。
「つまり」
「この事件は」
「作られている」
王子が腕を組んだ。
「冤罪事件か」
「でも誰が?」
その質問に答えたのはレオンだった。
「再構築しましょう」
彼は黒板に図を書き始める。
送金記録。
証言。
告発者。
財務局。
貴族。
すべてを線でつなぐ。
「まず」
レオンは言う。
「汚職は存在します」
学生たちは頷く。
送金は本物。
金の流れはある。
つまり。
誰かは賄賂を受け取っている。
しかし。
「問題は」
レオンは続ける。
「それがこの人ではない」
クラリスも言う。
「心理的にも一致しません」
リリスが口を開いた。
「じゃあ」
「誰が得する?」
その言葉で。
全員が一つの方向を見る。
政治。
フィオナが言う。
「政治劇」
「王都の一番好きなジャンル」
レオンは頷く。
「もし」
「この高官が消えれば」
彼は図に新しい名前を書く。
政治勢力
「財務局のポストが空く」
リリスが目を見開いた。
「つまり」
「政敵排除」
王子が小さく笑う。
「なるほど」
「王都らしい話だ」
レオンはまとめた。
「本当の犯人は」
黒板の中心に書く。
別の政治勢力
「汚職を利用して」
「冤罪を作った」
つまり。
本物の犯罪。
偽の犯人。
完全な政治工作。
学生たちは黙った。
そのとき。
後ろから声がした。
「なるほど」
カサンドラだった。
彼女は壁にもたれながら拍手した。
小さく。
「素晴らしい」
彼女は笑う。
「また国家ね」
学生たちは振り向く。
カサンドラは続ける。
「白百合事件」
「今回の事件」
肩をすくめる。
「同じ構造」
国家。
政治。
権力。
そして断罪。
「結局」
カサンドラは言う。
「断罪は」
「国家の武器」
彼女の視線はレティシアに向いた。
試すような目。
だが。
レティシアは静かだった。
彼女はゆっくり立ち上がる。
そして言った。
「違います」
法廷が静まる。
カサンドラは少し眉を上げた。
「違う?」
レティシアは学生たちを見る。
そして法廷を見る。
貴族。
市民。
被告。
全員が彼女を見ていた。
レティシアは静かに言った。
「確かに」
「国家は断罪を利用できます」
白百合事件。
それが証明している。
だが。
レティシアは続けた。
「それは」
少し間を置く。
「制度が弱い時です」
彼女は机に置かれた証拠を見る。
帳簿。
証言。
分析。
そして。
学生たち。
レティシアは言う。
「今回は違います」
学生たちは彼女を見ている。
レティシアは宣言した。
「今回は」
法廷の空気が張り詰める。
そして。
はっきり言った。
「断罪がそれを止めます」
沈黙。
その言葉は重く響いた。
国家の武器ではない。
政治の道具でもない。
断罪は。
政治を止める制度。
カサンドラはしばらくレティシアを見ていた。
そして。
小さく笑った。
「……本当に」
静かに呟く。
「面白いわね」
断罪アカデミー。
最後の授業。
真犯人を追う裁判は。
最終局面へ向かっていた。




