第34話 矛盾
王都大法廷。
高い天井。
石の柱。
重い空気。
観客席には多くの人が集まっていた。
貴族。
役人。
記者。
そして――
断罪アカデミーの学生たち。
今日は卒業試験。
だが同時に。
本物の裁判だった。
中央の席に座る男。
王国財務局の高官。
年齢は五十代。
冷静な表情だが、どこか疲れている。
レティシアが断罪官席に立つ。
黒い断罪官のローブ。
講堂ではなく、国家法廷。
学生たちは補佐席に並んでいた。
レオン。
クラリス。
フィオナ。
リリス。
王子。
そして。
後方席。
腕を組みながら観察している少女。
カサンドラ。
帝国視察団の代表。
彼女は静かに呟く。
「国家断罪演習」
「本当にやるのね」
やがて。
法廷係が声を上げる。
「国家断罪裁判を開始します」
静寂。
レティシアが宣言する。
「被告」
「王国財務局上級監察官」
「汚職容疑」
彼女は資料をめくる。
「証拠提出」
レオンが立ち上がった。
冷静な声。
「賄賂記録」
彼は帳簿を掲げる。
「被告名義の口座に」
「複数の貴族から送金」
ざわめきが広がる。
レオンは続ける。
「金額」
「合計三万金貨」
観客席から声が漏れた。
「三万…」
「巨大な賄賂だ」
次。
フィオナが立つ。
「証言提出」
彼女は紙を広げた。
「内部告発者の証言」
「財務局内部職員」
声を読み上げる。
「被告は賄賂を受け取り」
「税務調査を操作した」
ざわめき。
王子が小声で言う。
「証拠揃いすぎじゃない?」
リリスも頷く。
「完璧な汚職事件…」
レティシアは冷静だった。
「証拠確認」
帳簿。
送金記録。
証言。
すべてが一致している。
普通の裁判なら。
ここで終わりだ。
有罪確定。
観客席でもそんな空気が流れていた。
だが。
一人だけ。
静かに被告を見つめている学生がいた。
クラリス。
心理分析担当。
彼女はずっと観察していた。
被告の表情。
呼吸。
視線。
手の動き。
細かな癖。
そして。
彼女は小さく呟いた。
「……おかしい」
隣のレオンが聞く。
「何がです?」
クラリスは言う。
「反応です」
彼女は被告を見る。
被告は静かに座っている。
恐怖。
焦り。
混乱。
それが普通だ。
だが。
今の被告は違う。
静かすぎる。
まるで。
理解できていない人間の反応。
クラリスは立ち上がった。
「発言よろしいでしょうか」
法廷の視線が集まる。
レティシア
「許可します」
クラリスはゆっくり言う。
「心理分析の結果」
少し間。
「被告の反応は」
「汚職犯の反応ではありません」
ざわめき。
レオンが驚く。
「どういう意味です」
クラリス
「罪を犯した人間は」
「証拠が出た瞬間」
「恐怖か防御反応を示します」
だが。
彼女は被告を見る。
「この人は違う」
被告は静かにこちらを見ていた。
困惑している。
だが。
罪悪感はない。
クラリスは言う。
「むしろ」
「冤罪の反応です」
観客席がざわめく。
王子が小声で言った。
「おいおい」
レティシアは落ち着いていた。
「続けてください」
クラリスは資料を見る。
「さらに」
「証拠を確認しました」
彼女は一枚の帳簿を指す。
「賄賂送金」
「この時間」
次に証言を指す。
「内部告発者の証言」
彼女は静かに言った。
「時間が一致しません」
レオンが驚く。
「何?」
クラリスは続ける。
「さらに」
帳簿の数字。
送金日。
証言。
「細かく確認すると」
彼女はゆっくり言った。
「矛盾が増えます」
法廷は静まり返る。
証拠は完璧に見えた。
だが。
一つ崩れると。
次々と崩れ始める。
フィオナが呟く。
「舞台のセットが…」
リリス
「壊れてる…」
クラリスは最後に被告を見る。
そして。
はっきり言った。
「この人は」
少し間。
「無実です」
法廷が完全に静まり返った。
誰も言葉を出さない。
レティシアも。
王子も。
レオンも。
ただ。
カサンドラだけが小さく笑った。
「……面白い」
断罪アカデミー。
最後の授業。
裁判は。
完全に崩れ始めていた。




