第29話 王命断罪
帝国視察団の宿舎。
夜は深かった。
机の上には、これまで集めた資料が並んでいる。
白百合公爵断罪。
証拠なし。
証人消失。
議事録の空白。
すべてが、同じ方向を指していた。
だが。
カサンドラはまだ確信を持っていなかった。
仮説ではなく。
証拠が必要だった。
彼女は椅子から立ち上がる。
「最後の場所ね」
静かに呟いた。
向かう先は一つ。
王宮。
王宮書庫。
王国でもっとも厳重な文書保管庫。
ここには議会記録や裁判資料とは別に。
王宮内部文書が保存されている。
王の命令書。
外交記録。
極秘書類。
普通の人間は入れない場所だ。
だが。
帝国視察団には特別な権限が与えられていた。
カサンドラは書庫の奥へ進む。
古い棚。
重い箱。
何百年分もの歴史が眠っている。
彼女は一つの箱を取り出した。
表面には古い文字。
王宮内部記録 八十年前
カサンドラはゆっくり蓋を開けた。
中には束ねられた書類。
手紙。
覚書。
命令書。
彼女は一枚ずつ確認していく。
そして。
ある文書で手が止まった。
薄い羊皮紙。
封印はすでに破れている。
だが。
その上にははっきりと書かれていた。
王命
カサンドラの目が細くなる。
彼女は静かに読み始めた。
文章は短い。
しかし。
その内容は決定的だった。
白百合公爵家。
王国最大の名門。
その家がなぜ滅びたのか。
答えはそこに書かれていた。
白百合公爵は――
反逆していない。
カサンドラは小さく息を吐いた。
「やっぱり」
文書には理由が書かれていた。
白百合公爵家。
巨大な軍事力。
広大な領地。
そして。
多くの貴族の支持。
つまり。
王にとって危険な存在。
王位を脅かす可能性。
カサンドラはゆっくり読み上げた。
「軍事力」
「貴族支持」
「王位脅威」
三つの理由。
それだけだった。
反逆の証拠はない。
裏切りもない。
だが。
王は危険だと判断した。
だから。
命じた。
羊皮紙の最後の一行。
そこにははっきりと書かれている。
断罪せよ
カサンドラは文書を机に置いた。
静かな書庫。
彼女は少し笑った。
「なるほど」
すべてが繋がる。
証拠が消えた理由。
証人が消えた理由。
議事録が消えた理由。
すべて。
この一枚の命令書のためだった。
白百合公爵断罪。
それは裁判ではない。
国家の処刑。
王の命令。
つまり。
王命断罪
そして。
その命令を実行した人物がいる。
カサンドラはもう一つの書類を見た。
断罪執行者。
名前が書かれている。
エレノア・ルミナリア
王国初の断罪官。
彼女が。
この命令を執行した。
王命を。
断罪として。
白百合公爵家は一夜で滅びた。
カサンドラは椅子にもたれた。
「なるほど」
小さく笑う。
「断罪は」
少し間を置く。
「国家の武器」
それが帝国の常識。
そして。
王国も同じだった。
彼女は机の上の文書を見つめる。
白百合公爵断罪。
王国史最大の事件。
その真実は。
王の命令だった。
カサンドラは立ち上がる。
書庫の窓から夜の王宮が見える。
遠くに断罪アカデミーの方向。
彼女は静かに呟いた。
「そして」
少し笑う。
「レティシアは」
その視線は遠くを見ていた。
「その血筋」




