第27話 消えた証人
帝国視察団の宿舎。
深夜。
部屋の机の上には、また新しい資料の山が積まれていた。
家系図。
戸籍記録。
古い新聞。
地方領地の人口台帳。
カサンドラ・ヴァルメリアは、その中央に座っていた。
ランプの光が書類を照らしている。
彼女は一枚の紙を見つめながら呟いた。
「証拠は消えていた」
白百合公爵断罪。
王国史上最大の裁判。
しかし文書館で見た資料には、肝心の証拠が存在しなかった。
証拠原本なし。
証言署名なし。
証人記録なし。
だが。
裁判には必ず証人がいる。
証言があるから裁判になる。
つまり。
証人は存在したはずだ。
「なら」
カサンドラは別の資料を開いた。
「人を追えばいい」
彼女は帝国の政治家の娘だった。
帝国では昔から言われている。
記録は消せる。
人は消しにくい。
だからこそ。
人を調べる。
それが一番確実な方法だった。
カサンドラは白百合事件の古い新聞を広げた。
そこには当時の証人の名前が載っている。
三人。
反逆の証言をした人物。
・元軍士官
・商会長
・地方領主
彼女はその名前を紙に書き出した。
「さて」
指で机を叩く。
「この人たちは」
「その後どうなったのかしら」
調査は数時間続いた。
王都の戸籍記録。
地方領地の台帳。
古い新聞。
断片的な情報を繋げていく。
やがて。
カサンドラの手が止まった。
「……あら」
一人目。
元軍士官。
事件から半年後。
事故死。
馬車転落。
カサンドラは次の資料をめくる。
二人目。
商会長。
事件から一年後。
病死。
急病。
次。
三人目。
地方領主。
事件から二年後。
失踪。
行方不明。
カサンドラは静かに椅子にもたれた。
「なるほど」
天井を見上げる。
そして小さく笑った。
「綺麗すぎる」
普通なら。
偶然の可能性もある。
事故。
病気。
失踪。
だが。
三人すべてが。
事件のあと短期間で消えている。
カサンドラは指で紙を叩いた。
「偶然?」
そして首を振る。
「ありえない」
彼女の目が鋭くなる。
「これは」
ゆっくり言う。
「処理されている」
部屋は静まり返っていた。
帝国では。
こういうことは珍しくない。
政治。
権力。
国家。
それらは時に。
都合の悪い人間を消す。
カサンドラは静かに言った。
「帝国なら」
「普通にやるわね」
皮肉な笑み。
そして。
机の資料を見下ろす。
証拠は消えていた。
そして。
証人も消えている。
カサンドラの頭の中で、一本の線が繋がった。
「なるほど」
彼女は椅子から立ち上がった。
窓の外には夜の王都。
遠くに王宮の灯りが見える。
カサンドラはその光を見ながら言った。
「国家は」
少し間を置く。
「証拠を作ることも」
「消すこともできる」
それは帝国の常識だった。
そして。
王国もまた国家だ。
つまり。
彼女の結論は一つしかない。
カサンドラは静かに呟いた。
「つまり」
ランプの火が揺れる。
「これは」
白百合公爵断罪。
王国最大の裁判。
その真実。
カサンドラは微笑んだ。
「作られた事件」




