表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシアは怒っていた  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/36

第26話 消えた証拠

王都中央区。


石造りの巨大な建物が静かに立っている。


王国文書館。


王国の歴史。


法律。


議会記録。


すべての公文書が保管されている場所だ。


重い扉を押して、一人の少女が中に入った。


カサンドラ・ヴァルメリア。


帝国からの留学生。


そして今は――


調査者だった。


館内は静まり返っている。


高い天井。


壁一面の書架。


何百年分もの記録が、整然と並んでいた。


カサンドラは受付の机に近づく。


司書の老人が顔を上げた。


「何かお探しですか」


カサンドラは微笑む。


「ええ」


そして静かに言った。


「白百合公爵断罪事件の資料を」


老人の眉が、わずかに動いた。


ほんの一瞬。


だがカサンドラは見逃さない。


老人はすぐに平静を装った。


「……古い事件ですね」


「八十年前の」


「その通りよ」


カサンドラは頷いた。


「王国最大の断罪事件でしょう?」


老人は少し考えてから言った。


「資料庫の奥にあります」


数十分後。


地下資料室。


分厚い石壁に囲まれた部屋。


机の上には古い書類が山のように積まれていた。


カサンドラは一つ一つページをめくる。


紙の匂い。


古いインク。


王国の歴史そのもの。


彼女は集中していた。


「さて」


最初の書類。


裁判概要。


事件内容。


被告。


白百合公爵。


罪状。


国家反逆罪。


次の資料。


議会決議。


断罪承認。


そして。


裁判結果。


有罪。


断罪執行。


カサンドラは頷いた。


「ここまでは普通ね」


だが。


次の資料を探す。


証拠資料。


証言記録。


証人署名。


彼女は次々と書類をめくる。


しかし。


数分後。


手が止まった。


「……あら?」


カサンドラは書類を見直す。


もう一度。


最初から。


そして。


もう一度。


沈黙。


カサンドラはゆっくり椅子にもたれた。


「おかしい」


机の上に並んでいる資料。


事件概要。


議会決議。


裁判結果。


しかし。


一番重要なものがない。


彼女は指で数える。


「証拠原本」


ない。


「証人記録」


ない。


「証言署名」


ない。


本来なら裁判資料の中心にあるべきもの。


それが。


全部ない。


あるのは――


結果だけ。


カサンドラは小さく笑った。


「面白い」


そのとき。


後ろから声がした。


「気づきましたか」


振り向くと。


文書館の司書が立っていた。


老人はゆっくり近づく。


カサンドラは書類を指差した。


「これ」


「肝心の資料がないわ」


老人は静かに頷いた。


「はい」


そして言った。


「その事件は……」


少し間を置く。


「資料が失われているのです」


カサンドラ


「失われた?」


司書


「ええ」


指を折る。


「火災」


「戦争」


「記録破損」


王国の歴史は長い。


文書が消えることもある。


司書は続けた。


「古い事件ほど」


「完全な記録は残りません」


説明としては。


もっともらしい。


普通なら納得する。


だが。


カサンドラは帝国の人間だった。


そして帝国では。


国家の歴史の扱い方を知っている。


彼女は少しだけ笑った。


「偶然?」


司書は何も答えない。


カサンドラは椅子から立ち上がった。


そして書類をもう一度眺める。


証拠なし。


証人なし。


署名なし。


裁判なのに。


肝心なものが消えている。


彼女は静かに言った。


「そんなわけないわね」


その声には確信があった。


国家の裁判。


王国最大の事件。


それなのに。


証拠だけが消える。


そんな偶然は存在しない。


カサンドラは窓のない石壁を見つめた。


「これは」


ゆっくり呟く。


「隠されている」


白百合公爵断罪。


王国史上最大の裁判。


そして。


その証拠は――


存在しない。


カサンドラは小さく笑った。


そして呟く。


「証拠が消えている」


調査は。


まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ