第15話 断罪思想
断罪アカデミーの講義室。
その日の黒板には、たった一行だけ書かれていた。
断罪とは何か
学生たちはその言葉を見つめている。
リリスが小声で言った。
「いきなり重いテーマね…」
フィオナ
「哲学の授業?」
王子アルフレッドは椅子に深く座ったまま呟く。
「断罪って、そんな深いものなのか」
そのとき。
レティシアが教壇に立った。
「本日の授業は討論です」
学生たちが少し緊張する。
レティシアは続けた。
「断罪とは何か」
「自分の考えを述べてください」
沈黙。
学生たちは顔を見合わせる。
最初に手を挙げたのはリリスだった。
「はい!」
レティシア
「どうぞ」
リリスは胸を張る。
「断罪とは」
少し間。
「悪役令嬢の義務です!」
教室が一瞬静まる。
王子
「またそれか」
リリスは真剣だった。
「悪役令嬢は物語を動かす存在です!」
「だから断罪も重要な役割なんです!」
レティシアは淡々と言う。
「文学的解釈ですね」
リリスは少し嬉しそうだった。
次に手を挙げたのはレオン。
彼はメモを見ながら話す。
「断罪とは」
「社会制度です」
学生たちが聞き入る。
「貴族社会では」
「犯罪の証明が難しい」
「だから」
「公開断罪という形で社会秩序を維持する」
王子が頷く。
「それっぽい」
レティシア
「制度論ですね」
次はフィオナだった。
彼女は腕を広げる。
「断罪とは」
「劇場です!」
学生たちがざわめく。
フィオナは続ける。
「観客がいて」
「悪役がいて」
「ヒロインが泣いて」
「王子が宣言する」
「完全な舞台!」
王子が言う。
「確かに卒業パーティーはそんな感じだったな」
レティシアは小さく頷いた。
「演出論」
そのとき。
王子が手を挙げた。
「俺も言っていい?」
レティシア
「どうぞ」
王子は腕を組んで言う。
「断罪って」
少し考える。
「怖いイベント」
教室が静まり返る。
王子は続ける。
「人の人生終わるし」
「間違えたら大惨事」
「正直」
「できればやりたくない」
レティシアは少しだけ目を細めた。
「率直ですね」
そのとき。
静かな声がした。
「断罪は」
全員が振り向く。
カサンドラだった。
彼女は椅子に座ったまま言う。
「国家の武器」
教室が一瞬で静まった。
レティシアが言う。
「説明を」
カサンドラは淡々と話す。
「断罪は」
黒板の文字を見ながら言った。
「政治統制」
「貴族管理」
「秩序維持」
学生たちは息を呑む。
カサンドラは続ける。
「つまり」
「国家のための処刑制度」
教室が凍りついた。
リリス
「処刑って…」
レオンも眉をひそめる。
カサンドラは気にしない。
「断罪は見せしめ」
「秩序を保つための道具」
王子が言う。
「それ正義じゃないだろ」
カサンドラは肩をすくめる。
「正義なんて」
「後からつける言葉よ」
沈黙。
そのとき。
レティシアが言った。
「違います」
教室が静まる。
レティシアは黒板の前に立つ。
「断罪は」
静かな声だった。
「正義の最終手段です」
カサンドラの目が細くなる。
レティシアは続ける。
「証拠」
「弁明」
「審理」
「すべてを尽くした後」
「最後に下される判断」
「それが断罪です」
カサンドラは微笑んだ。
「理想ね」
レティシア
「現実です」
カサンドラ
「いいえ」
静かな声。
「正義は国家が決める」
教室の空気が変わる。
レティシアは迷わない。
「正義は」
一歩前に出る。
「証拠が決めます」
沈黙。
二人の視線がぶつかる。
学生たちは息を止めていた。
リリスが小さく言う。
「怖い…」
レオン
「思想対立ですね」
王子は頭をかいた。
「この学校」
「なんで哲学戦争になってるんだ」
しかし。
その討論は。
断罪アカデミーの未来を決める――
最初の思想衝突だった。




