第10話 断罪マナー試験
断罪アカデミーの講義室。
その日の空気は、いつもより少し緊張していた。
黒板には大きく書かれている。
断罪マナー試験
学生たちはざわついていた。
「ついに来た…」
「断罪の実技か」
後ろでは王子アルフレッドが椅子にもたれている。
「やっと断罪っぽい授業だな」
レティシアは教壇に立った。
「今日は試験です」
教室が静かになる。
レティシアは続けた。
「テーマは」
黒板に新しい文字を書く。
婚約破棄事件
学生たちがうなずく。
貴族社会では最もよくある断罪事件だった。
レティシアは説明する。
「王子」
「ヒロイン」
「悪役令嬢」
「証人」
「弁明」
「判決」
「一連の断罪を行ってください」
学生たちは一斉に緊張した。
最初のグループ。
学生Aが王子役。
学生Bが悪役令嬢。
学生Cがヒロイン。
王子が立ち上がる。
「悪役令嬢!」
「お前はヒロインをいじめた!」
学生たちが頷く。
悪役令嬢役
「そんな証拠は――」
王子
「黙れ!」
ヒロイン役が泣く。
「ひどいです…」
王子
「証人!」
証人役
「見ました!」
王子
「よって有罪!」
教室が静まる。
レティシア
「減点です」
学生
「え?」
レティシアは冷静だった。
「証拠なし」
「尋問なし」
「弁明なし」
「ただの感情断罪です」
学生たちは青ざめた。
二組目。
今度は少し慎重だった。
証人を呼ぶ。
証言を聞く。
しかし最後は――
「悪役令嬢が悪いに決まっている」
レティシア
「減点」
三組目。
同じ結果だった。
教室の空気が重くなる。
王子が呟く。
「みんな俺と同じ失敗してるな」
そのとき。
カサンドラが立ち上がった。
教室が静まる。
帝国の令嬢。
彼女は静かに歩き、中央に立つ。
「始めましょう」
役割が配置される。
王子役。
ヒロイン役。
証人。
悪役令嬢。
カサンドラは進行役だった。
彼女はまず言う。
「まず証言を聞きます」
証人が証言する。
「悪役令嬢がヒロインを侮辱しました」
カサンドラ
「具体的に」
証人
「廊下で」
カサンドラ
「日時」
証人
「昨日」
カサンドラ
「他の証人」
証人
「いません」
次にヒロイン。
ヒロイン役
「確かに言われました」
カサンドラ
「言葉は?」
ヒロイン
「覚えていません」
カサンドラ
「なるほど」
彼女は悪役令嬢を見る。
「弁明は?」
悪役令嬢役
「私は言っていません」
カサンドラは少し考える。
そして言った。
「証言は一致しています」
「よって」
「有罪」
静かな断罪。
完璧な進行だった。
学生たちがざわめく。
「すごい」
「完璧だ」
王子も頷く。
「これは文句ないだろ」
しかし。
レティシアは静かに言った。
「減点です」
教室が凍りつく。
カサンドラがレティシアを見る。
「理由を」
レティシアは答える。
「あなたは最初から」
「有罪前提でした」
沈黙。
カサンドラ
「違います」
レティシア
「いいえ」
レティシアは黒板に書いた。
断罪
その下に続ける。
過程
レティシアは言う。
「断罪とは」
「結論ではありません」
教室が静まり返る。
「過程です」
カサンドラは静かに聞いている。
レティシアは続ける。
「証言が一致しても」
「それが真実とは限らない」
「証拠が必要です」
カサンドラは少し笑った。
「面白い考えね」
レティシア
「断罪は」
「正義の最終手段です」
カサンドラ
「帝国では違うわ」
学生たちが息を呑む。
カサンドラは言った。
「秩序のためなら」
「疑わしい者を裁く」
レティシア
「それは」
「粛清です」
沈黙。
二人の視線がぶつかる。
教室の空気が変わった。
王子が小声で言う。
「……ケンカ?」
レオンが答える。
「思想対立だ」
レティシア。
カサンドラ。
二人の考えは似ているようで――
決定的に違っていた。




