第9話 ヒロイン対応演習
断罪アカデミー。
朝の講義室。
学生たちはすでに席についていたが、どこか落ち着かない空気だった。
前回の授業――噂戦争。
その結果、王子退学の噂が学園全体に広がり、王子本人が半泣きになるという事件が起きたからだ。
王子アルフレッドは教室の後ろで腕を組んでいる。
「……今日はまともな授業だよな」
レティシアは何も答えない。
黒板にゆっくり文字を書く。
ヒロイン対応演習
学生たちがざわめく。
「ヒロイン?」
「対応?」
レティシアは振り向く。
「断罪の現場には」
「必ずヒロインがいます」
学生たちがうなずく。
「そして」
「最も面倒なのもヒロインです」
王子が小声で言う。
「言い方」
レティシアは続ける。
「ヒロインは」
・被害者
・象徴
・世論
「この三つを同時に持ちます」
学生たちはメモを取る。
「つまり」
「扱いを間違えると」
「断罪は失敗します」
そこでレティシアは言った。
「本日の演習」
「ヒロイン対応」
学生たちの視線が前の席へ向く。
そこにはクラリスが座っていた。
クラリス
「え?」
レティシア
「あなたがヒロイン役です」
クラリス
「私!?」
学生たちがざわつく。
レティシアは説明する。
「役割は三つ」
悪役令嬢
王子
ヒロイン
「悪役令嬢がヒロインにどう対応するか」
「それを評価します」
王子がぼそっと言う。
「俺また使われるの?」
レティシア
「王子役です」
王子
「本人だぞ」
授業が始まった。
最初の挑戦者はリリスだった。
リリスは悪役令嬢役。
クラリスの前に立つ。
リリス
「あなたがヒロインですか」
クラリス
「はい…」
リリスは腕を組んだ。
「では聞きます」
「王子に近づいた理由は?」
クラリス
「え…」
リリス
「権力ですか?」
クラリス
「ち、違います」
リリス
「では恋?」
クラリス
「……」
リリス
「証拠は?」
クラリス
「証拠!?」
クラリスの目がうるむ。
数秒後。
クラリス
「ひどい…」
泣いた。
教室
「あー」
レティシア
「失格です」
リリス
「ええ!?」
レティシア
「ヒロインを泣かせると」
「世論が敵になります」
リリスは頭を抱えた。
「悪役令嬢って難しい…」
次はフィオナだった。
彼女は舞台のように腕を広げる。
「愛と裏切りの物語!」
学生たちがざわつく。
フィオナ
「王子!」
王子
「はい」
フィオナ
「ヒロイン!」
クラリス
「はい」
フィオナ
「そして私!」
「悲劇の悪役令嬢!」
完全に劇が始まった。
セリフ。
ポーズ。
涙。
数分後。
レティシア
「演習ではありません」
フィオナ
「え?」
レティシア
「演劇です」
フィオナは落ち込んだ。
「ダメか…」
三人目。
レオン。
彼は真面目に資料を持ってきた。
レオン
「まず事実確認をします」
クラリス
「え?」
レオン
「王子と接触した回数」
「時間」
「会話内容」
クラリスは困っている。
レオン
「次に」
「あなたの行動と」
「社会的影響を」
クラリス
「えっと…」
レオン
「つまり」
「あなたの主張は――」
クラリス
「待ってください」
完全に困っていた。
レティシア
「不合格です」
レオン
「なぜ!?」
レティシア
「ヒロインは」
「論理で動きません」
レオン
「そんな…」
最後に。
カサンドラが立ち上がった。
教室が静まる。
彼女はクラリスの前に来た。
しばらく黙って見つめる。
そして言った。
「あなた」
「王子が好き?」
クラリス
「え?」
カサンドラ
「正直に」
クラリスは少し考えた。
そして言った。
「……好きです」
カサンドラはうなずく。
「なら」
「私たちは敵じゃない」
クラリス
「え?」
カサンドラ
「私は王子に興味ないもの」
教室がざわつく。
王子
「ちょっと待て」
カサンドラは続ける。
「だから安心して」
「あなたの恋の邪魔はしない」
クラリスは少し笑った。
「本当?」
カサンドラ
「ええ」
「むしろ応援する」
クラリスは完全に安心した顔になる。
教室が静まる。
レティシアは少しだけ目を細めた。
そして評価する。
「政治的に正解です」
学生たちが驚く。
レティシアは説明する。
「ヒロインを敵にしない」
「最も安全な方法です」
王子は頭を抱えた。
「俺の扱い軽くない?」
カサンドラは微笑んだ。
「重要よ」
王子
「どこが?」
カサンドラ
「噂の中心」
王子
「嬉しくない!」
教室に笑いが広がる。
しかし。
レティシアは静かに思っていた。
(この子)
(危険ですね)
カサンドラは――
断罪の才能を持っている。




