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第6話 建国戦争編-6

挿絵(By みてみん)

 〈時は少し戻り、亜人陣営会議の2日後〉


 再び、国王エスターの屋敷の食堂では会議が開かれていた。

 だが前回と違い、今回集められたのは亜人陣営の主要人物のみである。 商人ロスに近衛隊長、都市ギルドの代表者達。そして、新たにカインとエレミアの姿もあった。


 国王エスターがゆっくりと立ち上がった。


 「皆、集まってもらい感謝する。ここまでよく耐えてくれた」


 皆の視線がエスターに集中する。彼は深呼吸すると、堂々とした声で言い放った


 「我々は領主達を打倒し、この国を亜人の手へ取り戻す。そして新たな国家を築くのだ」


 会場からは大きな歓声が上がった。


 「おぉぉ! ついにですか! 」


 「長かった・・・・・・ この日をどれだけ待ち侘びたことか・・・・・・ 」


 ある者は興奮して立ち上がり、またある者は天を仰いで涙を流している。


 「北部だけでなく、南部のハイファの領主も討たれるのですか? 」


 「もちろんだ。全ての諸悪は今ここで終わらせる」


 再び、室内に熱気が広がった。

 だがそんな中、獣人商人ロス・チャールドだけは静かに目を瞑っていた。彼の脳裏には、2日前の会話がいまだに焼き付いている。


 あの「銃」と呼ばれる武器は確かに脅威的だった。

 武術の心得など全くない商人のロスですら扱え、引き金を引くだけで分厚い丸太を撃ち抜いたのだ。

 だがロスが本当に恐ろしいと思ったのは、その兵器そのものではない。その後、カインから聞かされた「異界」の話だった。


 ドラゴンの3倍以上、音に迫る速さで飛翔する飛行機械。

 帝都の皇城すら見下ろす300m以上の巨大高層建築。

 重さ6万4000トンを超える、島のような鋼鉄製の軍船。


 優れた魔導機械技術を持つ帝国ですら、そんな物は作れないだろう。夢物語にも思えるが、カインの作った武器を見た後では、笑い飛ばすこともできない。


 ロスがそんなことを考えていると、エスターがゆっくり口を開いた。


 「私からは以上だ。詳しい作戦は近衛隊長、あなたに任せたい」


 「お言葉ですが、それはカイン殿に任せるべきでしょう。銃や例の"セラミック盾”の運

用法を、私は理解しきれておりません」


 そう言うと、近衛隊長はカインへ視線を向ける。


 「それにカイン殿の目が、『自分に任せてくれ』と言っておりますのでな」


 会場に小さな笑いが起きた。


 「ならばカイン、任せられるか? 」


 「はい、お任せください」


 カインはテーブルの上いっぱいに、羊皮紙の地図を広げた。


 「作戦の詳細に入る前に、まず現状の確認をしましょう。ロス殿、近衛隊長殿、お願いしていた兵士の徴募及び訓練、そして銃の生産はどうなっていますか」


 まずロスが立ち上がった。続いて近衛隊長も立ち上がる。


 「では私から。カイン殿が手配した鍛治職人たちが到着し、庭に設置した作業場ですでに生産を始めています。予定の250丁が完成するまであと3週間かかる見込みです」


 「ギルトや農場で募集していた義勇兵も、たった今到着したところだ。近衛の練兵場で待機させているが大丈夫なのか? ロス殿の話を聞けば肝心の銃の完成は3週間後、それから訓練を始めて果たして間に合うかどうか」


 「問題ありません、義勇兵に行う訓練内容は主に隊列や陣形の維持ですから。弓矢や剣術は習得に何年もかかりますが、銃は前回お見せした通り、引き金を引くだけでも撃つことができます。しかも一斉射撃が前提ですから、個々人に高度な射撃技術は必要なく、訓練も短時間で済みます」


 「そう言うことなら安心だな」


 「では改めて戦力の確認を。まず我々の戦力は近衛兵100人と徴募した火縄銃兵250人、そして僕とエレミアさんの2人です。次に敵の戦力は北部と南部を合わせて歩兵800人、弓兵と弩兵200人、重装騎兵50騎、勇者20人。それから北部領主にはダマスカス王国からの増援があると聞きましたが、詳細はわかりますか?」


 するとエスターが口を開いた。


 「それなら私が説明しよう。もっとも、『ダマスカス王国からの増援』という表現は適切ではない。実際には、北部領主と繋がっているダマスカス有力者の私兵だ。奴らは亜人から搾り取った金で私腹を肥やすため、裏で領主を支援しているに過ぎない」


 さらにロスが補足する。


 「そもそもペリシア藩王国は毎年多額の上納金を納めています。ダマスカス王国政府からすれば、わざわざ領主側へ付く理由がありませんな」


 「そう言うことですか。ならば我々のとる作戦は、シンプルに各個撃破です」


 カインは小さく頷くと、改めて地図へ視線を向けた。


 「ご覧の通り、ペリシア藩王国は大陸側にある北部と、ハイファ市のある南のシナイ半島で構成されています。そして両者を繋ぐのは、この細い地峡だけです。つまりここを封鎖すれば、北部と南部は完全に分断できます。最初の目標は、ハイファ市を支配する南部領主バラムです」


 近衛隊長が腕を組む。


 「ふむ・・・・・・ まずは南部の方を叩くわけですな」


 「敵戦力の中核は、南部に集中しています。正面から全軍を相手取れば、たとえ銃があってもこちらに勝ち目はありません。ならば敵が連携する前に、一つずつ潰していくべきです。まず開戦と同時に地峡と港を封鎖し、外部への通信を遮断します。そしてそのまま、ハイファ市へ奇襲を仕掛けるのです」


 カインは地図に羽ペンで次々と印をつけて行く。


 「南部制圧後は、今度は北部とダマスカス王国を結ぶ街道を封鎖します。領主達が援軍を求める時間を与えません」


 近衛隊長はゆっくりと頷いた。


 「つまり、ダマスカスにいる領主の協力者には『戦争が始まった』という報告と同時に、“領主達が敗北した”という報告が届くと言う訳ですな」


 「敵の通信を断つには時間が命です。なので2日でケリをつけます」


 会場の視線はカインに集中する。


 「決行日はちょうど1ヶ月後。そして、我々は必ず勝利します! 」


 その瞬間、会場から大きな歓声が巻き起こった。



 *  *  *  *



 〈1ヶ月後 ハイファ市の港〉


 日没が迫った街をカインとエレミアの2人は歩いている。普段なら港の酒場から商人や船乗りのにぎやかな話し声が聞こえてくる時間だが、今は灯りがポツポツと見えるだけだ。


 そんな中、広場の一角だけに人だかりができていた。


 「ん? 何かしら」


 エレミアが背伸びして覗き込む。

 人混みの中心では、旅装束の女性がハープを奏でながら歌を語っていた。

 吟遊詩人一一各地を旅し、歌と物語で情報を伝える語り部だ。現代で言うマスメディアに当たる存在だ。


 「ーーある森の村に、小さな少女がおりました。

少女は病気の姉を支えながら、慎ましく暮らしていたのです。

ですが領主の兵達は、反逆者を匿ったという濡れ衣で村へ押し入りました。

家は焼かれ、村人は殺され、最後に残された少女は、冷たくなった姉を抱きしめながら泣き続けたのです」


 広場は静まり返っていた。やがて、聞いていた男の1人が怒りを滲ませる。


 「ふざけやがって。領主の連中は、どこまで俺達を苦しめりゃ気が済むんだ」


 「そうだ、今こそ領主に反旗をひるがえす時じゃないのか」


 「あんたら何言ってんだ。こんなの領主の衛兵に聞かれたらどんすんだよ。縛り首だぞ」


 すると最初の男は吐き捨てた。


 「知るかよ。どうせこのままでも飢えて死ぬんだ」


 周囲の何人かも、頷いていた。

 その様子を見ながら、エレミアはふと首を傾げる。

 

 「あれ、今の話し、どこかで聞いたような・・・・・・ 」


 「ええ、何しろ僕自身の身の上話ですから。かなり脚色した上で、吟遊詩人達に広めてもらっています」


 「なんでわざわざそんなことを? 」


 「『1人の死は悲劇だが、100万人の死は統計上の数字でしかない』ーー 100万人以上を粛清した独裁者の言葉です。今、街の人達は恐怖に支配されています。ですが何かきっかけを与えれば、その恐怖はたちまち領主への怒りへ変わるでしょう」


 吟遊詩人の物語に聞き入る人々を見ながら続ける。


 「人は大勢の犠牲を"ただの数字”として捉えます。ですが、目の前で苦しむ”1人”には強く感情移入する。特に、それがか弱い少女なら尚更です」


 「なるほどね。 って話していたら、もう着いたわよ」


 2人は大きな倉庫の前で立ち止まると、扉を4回叩くのを繰り返す。すると扉が開き、なかにいた兵士がカインとエレミアを招き入れる。


 「お待ちしておりました」


 倉庫の中には100人程の完全武装の亜人兵士が整列していた。兵士達は背筋を伸ばし、 敬礼で2人を迎える。


 他にも市内各所には、兵士達がそれぞれ配置についている。


 カインは不敵な笑みを浮かべる。


 「さぁ! 全ての用意はできました。あとは夜明けを待つだけです!

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