第4話 建国戦争編-4
〈国王エスターの屋敷 裏庭〉
放置された古い兵舎が、今回作業場として使われることになった。
「それでは作りましょうか、魔法攻撃を防ぐ盾を」
「おー! って言いたいところだけど・・・・・・ 」
だが、エレミアは並べられた材料を見ると言った。
「鉱石の残りカスに中古の木盾、それから毛布。疑ってるみたいで悪いけど、本当にこれだけでできるの? 」
「ええ、もちろん。任せてください」
まずは、鉱石の残りカスをハンマーでとにかく砕いていく。
砕いた鉱石はふるいにかけ、細かな粉だけを集める。粗い粒が混じれば焼いた時に強度が落ちるため、この作業は意外と重要だった。
「ふぅ……やっぱり骨が折れますね」
額の汗を拭いながら、カインは小さく息を吐く。
「まったく、せっかくの剣士の斬撃スキルと体力向上が、まさかこんなことに使われるなんてね。」
エレミアは呆れたように肩をすくめた。
もっとも、そのおかげで作業速度は予定よりかなり早い。
鉱石の粉ができると、今度は水を加えて練り始める。いわば粘土細工のような作業だ。
カインは簡単な図面を描くと、それをエレミアへ渡す。
「すみません、次の準備があるのでこの作業をお願いできますか? 」
「パン作りみたいなものよね。何を作る気かイマイチわかんないけど」
エレミアは半信半疑のまま、鉱石の粘土をこねて板状に整えていく。
一方その頃、カインは兵舎の隅にあった古いカマドを改造していた。
周囲を木枠で囲い、隙間へ軽石を詰め込んでいく。熱を逃がさないための簡易的な断熱材だ。さらに吹子で空気を送り込み、炉の温度を1000度以上まで一気に上げていく。
だんだん、赤外線が肌にチリチリ当たる感触が伝わって来た。
「何かを作るって、意外と楽しいものですね・・・・・・ 」
ちょうど作業が終わった頃、エレミアが完成した板を抱えて戻って来た。
「とりあえず言う通りに作ったけど、これでいいの? 薄いし、なんか変な切れ込みまで入ってるけど」
「ええ大丈夫です。むしろ、お願いした寸法ピッタリですごいですよ 」
「まあ、魔法薬の調合とかで細かい作業とかは慣れてるし。で、そっちは順調そう? 」
「こっちもちょうど炉が温まってきた所ですよ」
そう言いながらカインは、炉の中から白熱化した鉄片を取り出した。鉄は加熱すると光を発し、600度で赤く、900度でオレンジ、1300度以上で白く輝くので、今炉の中は目標温度に達していることがわかる。
そして1300度と言う高温で焼くことが、この盾作りのミソなのだ。
やがて時間をかけて焼き上がった鉱石の板は、エレミアが軽く叩くと見た目に合わない高い音を鳴らす。
「音が少し変なだけで、見た目通りただの平たいお皿ね」
「それで十分ですよ、では最後の仕上げと行きますか」
カインは満足そうに頷いた。
最後に鉱石の板を毛布と共に木盾へ固定していく。これでお皿でできた盾は完成だ。
「たしかに鉄の盾よりも軽いわね。でも肝心の防御力はどうかしら? 」
「なら、試してみましょうか」
カインはさらっと言った。
「エレミアさん、僕に向かって魔法を撃ってもらえませんか? 」
* * * *
「ほ、本当にやるつもりなの? 魔法の威力は前にも見せたでしょ」
エレミアの声が引きつる。彼女にはカインの持つ盾が魔法を防げるようにはとても見えなかった。
「もちろん、実際に試してみないと性能は分かりませんから」
見ればエレミアの足は、生まれたての子鹿のように震えていた。
「ところでなんで撃たれる僕より、エレミアさんの方が怯えてるんですか」
「だ、だってもしその盾で防げなかったら、あなたは真っ赤のバラバラ死体で私は殺人犯になっちゃうじゃないの! 」
「はは、あんまり怖いこと言わないでください。僕の方まで怖くなってきてしまいますよ」
「逆になんで、あなたそんなにケロっとしてるのよ・・・・・・ 」
しばらく悩んだ末、エレミアは観念したように深呼吸した。
「じゃあ、いくわよ・・・・・・ 」
エレミアはひとつ深呼吸をすると、銀色に輝く魔杖を構える。美しい詠唱に合わせて淡い光の魔法陣が浮かび上がり、魔法陣の中央へ青白い光が集束していく。
エレミアが魔杖を振るうと、光の弾が一直線にカインへ飛翔する。
着弾のドンッ! という衝撃音と共に土煙が舞い上がり、カインの姿を覆い隠した。
「!!!」
エレミアは慌てて回復魔法の詠唱を始めながら駆け出した。だが――。
土煙の奥から、平然とした声が聞こえる。
「ふぅ成功ですね」
煙が晴れる。
そこには、無傷のカインが立っていた。
「う、ウソでしょ! いや、あなたが無事なのはいいことなんだけど、どう言うこと? 」
エレミアは状況が飲み込めず、プチパニック状態になってしまっているようだ。
「うーんと、何から説明しましょうか。そうですね……まずは、この“お皿”の正体からです」
カインは盾の表面を軽く叩く。
「これはただのお皿じゃありません。秘密は、原料のルビー鉱石のカスに含まれる“酸化アルミニウム”という鉱物です。今回のように鉱物の粉末を高温で焼き固めた物を、前世では“セラミック”と呼んでいました」
元々セラミックは極めて高い耐熱性を活かし、前世でロケットエンジンのノズルなどに使うため研究されていた素材である。
今回はその技術を、防具へ応用した形だった。
カインは地面に落ちていた鉄製のナイフを拾うと、盾の表面へ軽く叩きつける。
ギィンッ――。
「えっ」
次の瞬間、ナイフの刃が根元から真っ二つに折れて弾け飛んだ。
対して、盾に取り付けられたセラミックの方には、ほとんど傷が入っていない。
「か、硬っ!? 」
「鉄の15倍の硬さがありますからね。しかも、それでいて重量は鉄の3分の1なんです」
「じゅ、15倍ねぇ・・・・・・ 」
エレミアは想像が追いつかないのか、ぱちぱちと瞬きを繰りかえす。
「ええ。硬すぎるが故に相手の攻撃がそもそも刺さらないんです。魔法も、盾を貫く前に表面で力を散らされました」
鉄板に爪楊枝を突き刺そうとするようなものだ。どれだけ力を加えようが、砕けてしまえば貫通することはできない。図らずも現代のボディーアーマーと同じ仕組みだ。
もし、矢や弾丸が撃ち込まれても、硬いセラミックに当たって衝撃で矢や弾丸自身が砕け散ってしまう。
「ただし、欠点もあります」
カインは盾表面の切れ込みを指差した。
「今回作ったセラミックはお皿と同じで脆い。一発防げても、同じ場所に何度も攻撃を受ければ割れてしまいます」
「じゃあ、この切れ込みって・・・・・・ 」
「ええ、割れる範囲を制限するためです。一ヶ所が砕けても、全体までヒビが広がりにくくなる」
「へぇ・・・・・・ちゃんと意味あったのね、それ」
「工夫には、ちゃんと意味があるんですよ」
カインは苦笑した。
「それに、裏側へ毛布を挟んだのも理由があります。流石に衝撃そのものまでは完全に消せませんから」
もし緩衝材なしで受ければ、盾は防げても腕の骨までは守れない。
エレミアは改めて盾を持ち上げた。
前に作った魔道士クラスの威力を持つ"銃"、さらに魔法攻撃を封殺するセラミックの盾。
それを全ての兵に持たせられれば、今までの亜人と領主のパワーバランスは一変する。
エレミアはカインに向き直る。
「ねぇ教えて、あたし達はどうすれば勝てるの? 」




