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第3話 建国戦争編-3

〈国王エスターの屋敷 裏庭〉


 シューと言う短い燃焼音と共に、パァーンと乾いた銃声が庭に響いた。


 発射と同時に白く濃い硝煙が広がり、その隙間から、的にしていた丸太の表面が弾け飛ぶのが見える。小さな木片がパラパラと地面に落ちていった。

 

 カインはゆっくりと火縄銃の銃口を下ろす。


 「一応、当たりましたね」


 丸太までの距離はせいぜい二十メートルほどだ。この距離で当たったからといって、胸を張れるような結果ではない。

 続けて五十メートル先の丸太に向けて撃つが、弾は大きく逸れ、乾いた音だけが虚しく庭に響いた。


 「ねぇ、だいぶ苦戦しているみたいだけど、まだ続けるつもり? 」


 隣にいるエレミアは、カインにやや不満そうに問いかけた。


 「はい、まだまだ改良の余地はたくさんあるので」


 「そう」


 わかりきったカインの答えに、エレミアは頬を軽く膨らませる。


 銃を作ること自体はまだ簡単だった。


 火薬の材料はこの世界でも手に入る。家畜小屋の土から硝酸カリウムを取り出し、木炭と硫黄の粉末を混ぜる。それを水で固めて乾燥させ、細かく砕けば有名な黒色火薬になる。木炭は厨房から分けてもらい、硫黄はブドウの保存用のものを物置から少し拝借した。


 木製の銃床も自作だ。見た目はかなり粗いが、使うには問題ない。


 問題は銃身だ。

 さすがに鉄の加工だけは、カイン自身ではできない。

 近くの鍛冶ギルドに依頼して作ってもらったが、当然「銃」という機密を部外者に軽々しく話すわけにもいかず、「武器の持ち手」と適当にごまかして注文したのだ。


 結果ーー精度が壊滅的に悪く、射程も短い。

 

 そもそも火縄銃は現代の銃と違ってライフリング(弾道を安定させるために銃身に刻まれた螺旋の溝)がなく、ただでさえ命中率が低い。それに加えて工作精度も甘いとなれば、弾はまっすぐ飛ぶはずがなかった。


 「近距離なら当たりますが……五十メートルも離れると、十発撃って一発当たるかどうかです。加えて、不発が多いのも問題ですね」


 「・・・・・・あぁもう焦ったい!  ちょっと貸して!」


 カインは再装填に取りかかろうとするが、それを遮るようにエレミアが前に出る。


 そして、白い翼を広げたエレミアおが、詩のような呪文と共に杖を軽く振った。淡い六芒星の魔法陣が空中に浮かび上がった次の瞬間。


 ドンッ!! 光の塊が一直線に飛び、丸太を一撃で撃ち抜いた。

 

 「フフ、見なさい、これが魔法よ。さらに実戦だとこれを何発も撃って、広い範囲ごと吹き飛ばすの。まあ、あなたの銃の威力は認めるわ、もしちゃんと当たれば戦闘魔法並みだもの」


 エレミアは少し得意げに語ってると、少しだけ声色を変えた。


 「でもねカイン。貴方の前世がどうだったか知らないけど、この世界だと、あなたの銃の射程に入る前に魔法が飛んでくるし、兵を並べればそのまま範囲攻撃の的になるだけよ」


 「う、それは・・・・・・」

 

 火縄銃という武器は、本来「個人の技量に依存しない」ことに価値がある。

 弓や魔法のように長い訓練を必要とせず、引き金を引くだけで一定の火力を発揮できる。未熟な兵でも戦力として数えられるため、大量動員が可能になるわけだ。

 命中率の低さと装填の遅さは、その数で補えばいい。――いわば戦列歩兵の発想だ。


 だが、この世界ではその前提が崩れてしまう。

 

 (要するに、攻撃力は足りている。でも、防御力が決定的に足りていない・・・・・・ )


 「逆に言ってしまえば、銃の射程まで近づくことができれば勝てると言うわけですね」


 「まあ、理屈はそうだけど。それが簡単にできれば苦労しないわよ」


 エレミアは肩をすくめる。


 「では、攻撃魔法を防ぐ方法はありますか?」


 エレミアは少し考えてから答えた。


 「あるにはあるわね」


 「例えば?」


 「魔道士の防御魔法陣、それから勇者クラスが着るミスリル鉄の鎧が相場ね」


 「なるほど・・・・・・ 」


 「ちなみにあたしのオススメは、剣士のスキルで攻撃を回避することよ。鉄の盾でも何枚か重ねれば防げると思うけど、そうしたら重くて兵士が持てないでしょうね」


 カインは再び考え込む。銃を見つめたまま、動かない。

 その様子に、エレミアは小さくため息をついた。


 「・・・・・・変なとこだけ頑固なんだから」


 だが、ふと思いついたようにカインに話しかける。


 「ねえ、悩んでるならいっそ気分転換に街に行かない?」


 「街ですか?」


 「ええ、ちょうど今のあなたに見せておきたいものがあるの・・・・・・」


 エレミアは意味ありげに微笑んだ。



 *  *  *  * 



〈ペリシア藩王国(後のアトランティア王国) シナイ半島 ハイファ市〉


 海鳥の声が聞こえる石畳の道を、エレミアとカインは並んで歩いていた。


 「綺麗な街ですね。500年の歴史があると聞きましたが、古臭さは感じません。むしろ、調和が取れていて落ち着きを感じますね」


 「そうそう、あたしの言った通り来てよかったでしょ」


 ハイファ市はペリシア藩王国南部のシナイ半島に位置し、人口10万人をほこる王国最大の都市だ。白亜の石灰岩で造られた家が建ち並び、古代ギリシャと古代ローマを掛け合わせたような美しい港湾都市となっている。


 天然の良港であるハイファ港が隣接し、古くからガレー商船が行き交う海上交易の重要拠点だ。


 「ええ、ですがいくつか気になることがあるのですが・・・・・・ 」


 「どうしたの? 言ってみて」


 「街の規模に対して、人の数と船の出入りが少ない。活気をあまり感じないんです。それに・・・・・・」

 

 カインは坂の上の建物を指差した。


 「どうしてあそこに、あんなに大きな屋敷が? 最初は王宮かと思いましたが・・・・・・違いますよね」


 落ち着いた街並みの中で、ひときわ目立つ豪華な建築がそびえている。一言で表すなら「成金趣味」と言うようなケバケバしい外見だ。


 「あれはハイファの領主の屋敷よ。わざわざ王宮より高い場所に、もっと大きく建てたの。この街がこうなった原因、そのものね」


 そもそも目立った特産品もないハイファに立派な港街ができたのは、波の静かな湾の奥にあり、海上交易の中継地点であると言う地理的な要因があったからだった。


 だが、商業規模由来の莫大な税収を知った領主は、調子に乗って少しずつ税金を増やしていく。

 そして、ゴブリンがペリシア藩王国に出没するようになったのはちょうどその時だった。 

 

 過半数の商人達は、高い税金を払ってまで危険なルートを選択するほどハイファに愛着があるわけではない。

 当然目立った特産品もないハイファを訪れる商人もほぼいなくなり、税収も低下する。

 普通なら税金を下げて商人達を呼び戻す所だが、愚かにも領主は不足分を補おうと、市民により高い税を払わせることを選んだ。


 「つまり、搾り取るだけ搾り取って、街を潰したってことよ」


 エレミアは小さく息を吐いた。


 「だから言ったでしょ。あたし達には余裕なんてないの。ましてや思いつきで武器を作ってる暇なんて」


 「・・・・・・」


 (少し言い過ぎちゃったかしらね・・・・・・ )


 エレミアはほんの少しの気まずさを感じていた。だが、素直に謝る気持ちにもなれない。

 ふと目を横にやると、屋台が並んでいる時刻は正午、ちょうどお腹が空いてくる時間である。


 ( しょうがない、この際お昼ご飯でも買ってあげるか・・・・・・)


 「あなたはちょっとここで待っててね」


 エレミアは、彼女の好物でもある肉料理の屋台に歩み寄った。


 「おじさん、オススメは何? 」


 「お、嬢ちゃん可愛いね。それならこの燻製ソーセージが安くてオススメだよ。お代は一本でアス銅貨15枚ね」

 

 「うっ、やっぱりお肉は高いか・・・・・・ でもなんとか足りそうね。じゃあ2本もらうわ」


 そう言ってエレミアは銀貨を一枚主人に差し出す。だがエレミアは受け取ったソーセージをジッと見ると静かに言った。

 

 「ねぇ、これ肉の量を誤魔化してるでしょ。匂いからすると魚でかさ増しかしら? 」


 エレミアの言葉を聞くと、主人はわかりやすく冷や汗をかいて動揺した。「ソーセージの中身は肉屋と神様しか知らない」とはよく言った物である。

 さらにエレミアが鋭い眼差しで追撃すると、主人は怖気付いたのかあっさり自白した。 


 「す、すみませんでした! 」


 「謝罪はいいから、なんでこんなことを? 」


 「最近は肉の仕入れが厳しくて・・・・・・ このままじゃ店を畳むしかなくてよ・・・・・・ 」


 「だからって誤魔化して売るの? これは商業ギルドの規約違反よ」


 主人はうつむいたまま、ぽつりと続ける。


 「わかってる。だけど、値段を上げりゃ誰も買わねえ。この街じゃ、みんな余裕なんてねえんだ」


 その言葉に、エレミアはわずかに口をつぐんだ。


 (・・・・・・まあ、そうよね)


 エレミアは小さくため息をついた。


 「今回は見逃してあげる。でも次はないからね」


 主人は何度も頭を下げた。


 「すまねえ・・・・・・ 本当に」


 そして少し迷ったのちに、グリルの端にあった串焼き肉を渡してきた。


 「これ、よかったら持っていってくれ、少しスジは多いが味は悪くねぇ。こんなもんしか出せねえが、詫びだ」


 「いいの? ありがとう」


 エレミアは串焼きを受け取ると、店を後にした。


 (フフフ、もうけもうけ)


 ちゃっかり一人でオマケの肉を頬張りながら、カインと別れたところに戻る。


 「こっち魚肉入りのソーセージもなかなかイケるわね。って、彼はどこ? 」


 だが、エレミアが戻った時にはカインの姿はどこにも無かった。


 

 *  *  *  *



 (やはり、銃を作って勝つなんて考えが浅はかだったんだろうか・・・・・・ )


 エレミアが言っていたことは正論で正直反論しようがなかった。カイン自身、これまで彼女に無理をしてもらってもらっていたのは自覚している。


 しばらく一人で考え込んでいると、何やら騒ぎ声が耳に入ってきた。


 「おいおい、なんでこんな重いのを、わざわざ街の外まで運ぶんだよ」


 「仕方ないだろ。今まで引き取って貰っていた近くの埋め立て工事が終わっちまったんだから」


 「ったく、しょうがねぇなぁ」


 カインが気になって近づいてみると、そこは宝石商の建物だった。建物の前には石が入った重そうな麻袋がいくつも置かれている。

 どうやらルビーやサファイアを取り終えた後の、鉱石の残り滓のようだ。


 ルビーの原石であるコランダム。

 そして、その主成分は酸化アルミニウム・・・・・・


 (そうか! これを使えば・・・・・・)


 カインの顔に笑みがこぼれる。すると同時に、両手に紙袋をを持ったエレミアが駆け寄って来た。


 「もう、やっと見つけた! 勝手に歩き・・・・・・ ってどうしたの楽しそうな顔してるけど」


 「ふふ、エレミアさん実は見つけたんですよ! 魔法攻撃を防ぐ方法を」


 エレミアは驚きで目を瞬かせた。


 「防ぐったってどうするの? 鉄だと重すぎるし、ミスリルの鎧なんて高級品でとても買えないのよ」


 「魔法攻撃を防ぐ方法はズバり・・・・・・ お皿でできた盾です! 」


 「お、お皿って、あのお皿で!? 」

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